訴   状

 

                                      2001(平成13)年5月14日
大阪地方裁判所 御中
               原  告      戸  田   久  和
〒571−0048
大阪府門真市新橋町12−18−207(送達場所)
               原  告       戸  田  久  和
                           電話 06-6907-7727
                           FAX 06-6907-7730
〒571−8585    
大阪府門真市中町1−1
               被  告   門 真 市 議 会
                       上代表者議長  大  本  郁  夫

出席停止処分取消請求事件
訴訟物の価額 金          円
貼用印紙額   金          円

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               請 求 の 趣 旨

1 被告が、2001(平成13)年3月26日、原告に対してなした同年3月14日付懲罰動議にか
  かる出席停止処分、同年3月16日付懲罰動議にかかる出席停止処分をいずれも取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。
                                     との判決を求める。
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               請 求 の 原 因

1 原告

  原告は、1999(平成11)年4月25日行われた、門真市市議会議員選挙で当選し、現在まで、
  門真市議会議員の地位にある。


2 本件各出席停止処分

(1) 2001(平成13)年3月14日、門真市議会本会議において、原告が行なった一般質問に対し
  て、下記の懲罰動議が提出された。

「議員戸田久和君に対する懲罰動議」

  次の理由により、議員戸田久和君に対する懲罰を科されたいので地方自治法135条第2項及び
 会議規則第106条第1項の規定により動議を提出する。

記;

  理由
 議員戸田久和君は、本日の本会議における一般質問において、議会及び職員を誹謗、中傷し、
議会の品位を汚し、その権威を失墜するような発言があり、このような発言は断じて許すことがで
きないため。

 平成13年3月14日
   門真市議会議長
      大 本 郁 夫 殿

                          提  出  者
                           門真市議会議員     風  古波
                                          吉水 丈晴
                                          稲田  実
                                          林  芙美子


(2) 同日、上記懲罰動議を3月21日の総務水道常任委で審議することが決まった。

(3) 3月16日、上記14日になされた懲罰動議に対する原告の「一身上の弁明」の内容に対し
  て、下記の懲罰動議が門真市議会議長に提出された。なお、この懲罰動議の提出を原告が
  知ったのは、26日本会議開始の直前であった。

「議員戸田久和君に対する懲罰動議」

 次の理由により、議員戸田久和君に懲罰を科されたいので地方自治法第135条第2項及び会議
規則第106条第1項の規定により動議を提出する。

記;

  理由
 議員戸田久和君は、平成13年3月14日の本会議における同君への懲罰動議に対する一身上
の弁明において、さらに議会を誹謗、中傷し、冒涜する発言があり、このような発言は断じて許すこ
とができないため。

 平成13年3月16日
   門真市議会議長
      大 本 郁 夫 殿

                          提  出  者
                           門真市議会議員    早川 孝久
                                          風  古波
                                          青野  潔
                                          鳥谷 信夫


(4) 3月21日、門真市議会総務水道常任委員会において、3月14日付の懲罰動議につき、「出席
  停止5日」を相当とする旨議決した。

(5) 3月26日午前9時30分頃、本会議が始まる直前、門真市議会運営委員会において、3月16日
  付懲罰動議が提出されていることが大本議長から説明され、それが本会議冒頭の進行の中に組
  み込まれる。
   3月26日、午前中の本会議において、3月16日付懲罰動議が本会議に提出され総務水道常任
  委員会に付託された。
   同日午前中、総務水道常任委員会において、3月16日付懲罰動議につき、「出席停止5日」を
  相当とする旨議決した。

(6) 同日、午後の本会議において、3月14日付懲罰動議と3月16日付懲罰動議につきいずれも
  「出席停止5日」とする旨、議決された。採決は起立採決で行われ、全議員28人から議長、原
  告を除く26人中、共産党議員団4人以外の22人が起立して、議決された。
   なお、3月26日は本会議の最終日であり、同日議決された出席停止処分により実際に、原
  告が出席停止となったのは、同日1日限りである。

 

3 本件各出席停止処分の違法

(1) 3月14日付懲罰動議にかかる出席停止処分の違法
  懲罰動議提案理由説明は、3月14日の本会議における一般質問において、原告が保健福祉部長
 を「情報隠蔽」、児童課長を「職務怠慢」と表現したことをもって、「職員を誹謗中傷」と評し、さらに、
 12月20日の本会議における議長の議事運営に対して、原告が「理不尽さと危険性」と表現したことを
 もって、議会を誹謗中傷したと評する。
  原告が、本会議の一般質問において、把握した事実に基づいて職員の「情報隠蔽」「職務怠慢」を
 批判し、地方議会の議長の議事運営の「理不尽さと危険性」を批判することは、地方議会の議員の
 職責に基づき、当然のことであって、これを職員・議会に対する誹謗中傷ということは、およそ、地方
 自治の本旨に反するものといわなければならない。
  原告には、そもそも、3月14日の本会議における一般質問において、議会及び職員を誹謗、中傷
 し、議会の品位を汚し、その権威を失墜するような発言を行った事実がないといわなければならない。
 処分の理由にあたる事実がない以上、3月14日付懲罰動議にかかる出席停止処分は違法である。

(2) 3月16日付懲罰動議にかかる出席停止処分の違法
  懲罰動議提案理由説明は、3月14日付け懲罰動議に対する「一身上の弁明」において、原告が
 「議会が主として、私の言論・議会での活動を妨害する、あるいは懲罰を加える、そういう動きのみ
 が重なってきた」、「1から10まで不当なものであり、絶対に私は容認できないし、これを通してしま
 うということは、まさに議会制民主主義を自ら殺してしまうことに他ならない」「ひきつけを起こしなが
 ら進んでいく門真市議会」などと発言したことをもって、議会への侮辱であると評する。
  懲罰動議に対して認められた「一身上の弁明」において、原告が懲罰動議に反論し、批判するの
 はこれもまた、地方議会の議員に権利として認められた言論であって、これを議会への侮辱と評す
 ることも、地方自治の本旨に反するものと言わなければならない。
  原告には、3月14日の「一身上の弁明」において、議会を誹謗、中傷し、冒涜する発言はなかっ
 たと言わなければならない。
 処分の理由にあたる事実がない以上、3月16日付懲罰動議にかかる出席停止処分は違法である。

 

4 被告が違法な出席停止処分に及んだ事情

(1) 1999(平成11)年4月、原告は、門真市議会議員選挙において無所属市民派議員として、
  初当選した。

(2) 同年5月議会において、原告は、門真市議会の男性議員としては初のノーネクタイ議員となった。
  また、同市議会議員としては初めて議員報酬や手当と実態とその使い途を広く公開するとともに、
  「費用弁償」という名目の議会出席手当の受け取り拒否を実行し、一般市民には知られていな
  かったこの手当の廃止を強くアピールした。

(3) 同年6月議会において、原告は本会議や常任委員会で従来の議員には見られなかった回数と
  時間の長さで質疑・質問を行なったが、その後9月議会を控えて急に質問時間を1人20分に制
  限する議長提案が出されて、門真市議会として初めて質問時間一人20分制限が与党会派の
  多数決で決定され、9月議会から実行された。

(4) 同年9月議会において、門真市議会の歴史上初めての懲罰動議が原告に対して提出され、
  「公開議場における陳謝」、「出席停止2日間」「問責決議」が、いずれも共産党議員団4名
  を除く、全会派の議員の賛成により、次々と議決された。
   前の二つの懲罰処分は、当時の助役の市税滞納問題(右助役は同年10月大阪府警か
  ら公共工事汚職に関連して任意の事情聴取を受け、自殺)に関する議会質問に対して、後
  の問責決議は、原告が開設したホームページ上に、門真市議会を批判する書き込みが市民
  からあったこと等を理由とするものであった。

(5) 同年12月議会で、「議員辞職勧告に関する決議」が、これも共産党議員団4名を除く、全会
  派の議員の賛成により議決された。その理由は、議会運営委員会において、原告の発言申し出
  を一方的に拒否し続ける事に抗議発言したことをもって審議妨害とし、加えて、9月本会議議事
  録署名議員として、議事録の一部に訂正を求めたことをもって、「ゆえなく署名を拒否した」とす
  るものであった。

(6) 2000(平成12)年2月、原告が、前年の懲罰特別委員会審議の議事録全文をホームページ
  上で公開したことをきっかけに、委員会議事録の閲覧を議長の許可にかからしめて、実質上、
  原告の議事録閲覧を拒否した。また、議場への鞄持ち込み禁止、議場へのネクタイ着用の義務
  づけ等、もっぱら原告の地方議員としての言動を規制することだけを目的とする、議会運営委員
  会決定を行った。

(7) 同年6月議会では、市の外郭団体であるシルバー人材センターへの監督責任に関する質問
  の際に、大本議長が発言禁止命令をなし、これに対する抗議がさらに審議妨害とされ、以降、
  原告同日の質問が全て禁止された。

(8) 同年9月議会では、文教常任委員会の中での原告の発言に関して、数日を経た本会議最終日
  の昼前の休憩になってから突然、「個人情報保護条例違反を理由とする取消陳謝要求」が同委
  員会副委員長からなされた。

  上記一連の、原告に対する処分等は、議員報酬の実態や議会・行政の実態をビラやホームページ
 で公開し、あるいは行政の問題点を鋭く追求する原告の議員活動を嫌悪する議員らによって、行な
 われてきたものであり、本件各出席停止処分も、上記一連の、処分等と軌を一にするものである。

 

5 地方議会が議員に対して行なった懲罰に関する司法審査について

 地方議会の議員に対する懲罰については、最高裁の判例につき、一般に、除名については司法審
査が及ぶが、出席停止については司法審査が及ばないものと理解されてきた。
 被告の、原告に対する、繰り返しの出席停止処分は、除名でない限りは司法審査が及ばないことを
前提に、根拠のない、違法な処分を重ねて、実質的には除名にも等しいほどの不利益を原告に課す
目的で行われ、現に甚だしい不利益を原告に及ぼしているものである。
 出席停止処分によって原告は、議員固有の職責であるところの、議会審議に参加して質疑・質問・
討論・投票行動を行なうことから排除されてしまったのであり、これは原告を選挙で選出した有権者
が、「与党」会派の不当な多数決で、その正当な政治参加の権利を剥奪される損害を受けたことを
も意味している。

 このような被告の違法な処分を司法審査の埒外に放置することは、根拠のない違法な処分であっ
ても議会内多数決の手続きさえ取れば自由に特定議員を処分できる、とすることを容認してしまうも
のであり、それは議員の地位と職責に関して有権者による選挙よりも議会内の多数決を上位に置く
も同然で、「選挙で選んだ議員を通じて政治参加する」という議会制民主主義の根幹を否定し、法
の支配を否定するに等しいものである。

 さらにまたこれを放置するならば、今後開催される議会に於いても今回同様の違法な処分が次々と
重ねられ、原告がまさに除名処分同然の状態に置かれたり、「最大限の出席停止懲罰でも反省がな
いから」という口実で除名処分までも受けてしまう「現実の、明白な危険」が存在していることは明らか
である。

 よって、原告は、本件訴えを提起する次第である。