最高裁 上告申立の理由(8)


第7;原判決は憲法31条および行政手続き法の趣旨に違反する

1:不利益処分を科す場合に最低限守らなければならない原則

 およそ近代民主主義国家において、ある人物に対して不利益な処分を科す場合は、

  @;その人間の考えや思想に対してではなく、行為に対しての処分であること。
  A:不利益処分の対象とされる行為が何であるか、明確・厳密に指摘されていること。
  B;その指摘が事実であること。事実認定について争いがあるときは厳正な調査がな
    されて、事実が確定されるべきこと。
  C;その行為が不利益処分とされるべき法的根拠が明確で適法であること。
  D;被処分者に対して、防御権と反論権が十分適切に保障されること。
  E;以上に基づいて公正な判定がなされること。

 が、最低限必要不可欠な前提であることは議論の余地のない自明の理であり、これを欠いた不利益処分は不当・違法なものである。

  懲罰手続は憲法の要求する適正手続、行政手続法の趣旨に従ってなされなければならない。議員に対する懲罰は、除名に限らず、出席停止、陳謝、戒告であっても、議員の身分、名誉、信用にかかわる重大な問題である。
 従って、懲罰事由がないのに誤って懲罰するということが絶対にあってはならないことは勿論、懲罰事由と懲罰との均衡が要求され、さらに、重大な不利益を課す以上、民主的な適正手続が要請されることは日本国憲法31条の趣旨からいっても当然である。
 また、1960年大法廷判決の後の1994年(平成6年)10月に施行された行政手続法は、行政庁が不利益処分を行なう場合、処分の相手方の権利利益の保護を図る観点から必要な規定を整備した。
 即ち、不利益処分をするかどうかの判断の基準を定め、公にしておくよう務めるとともに、不利益処分をしようとする場合には、相手方に意見陳述の機会を与えるため、予め通知するとともに、許認可の取り消し等の処分については聴聞手続、その他の不利益処分については弁明の機会の付与の手続をとることとした。不利益処分をする際には、その理由を示すこととしている。

 地方公共団体の機関が行なう処分については、地方自治尊重の観点から、行政手続法の規定をそのまま適用することとはしていないが、同法の趣旨に沿って必要な措置を講ずるよう務めなければならない(行政手続法38条)とされている。
 憲法31条の趣旨からすれば、懲罰請求者と被懲罰請求対象議員との関係においては、懲罰特別委員会及び本会議は準司法機関的役割を果たす以上、懲罰請求者と対象議員とは、対等公正に扱われなければならない。これは、誤った懲罰を防止し、懲罰が仮にも言論の自由を抑圧することとならないよう、懲罰が真実と正義、言論の自由尊重の理念に基づいてなされるために不可欠の要請である。
 懲罰請求の審理にあたっては、誤った懲罰を防止するためには、まず第一に、懲罰請求された議員に対し、請求に対する反論、それを裏付ける事実の証拠の提出の機会を充分に保障することが不可欠である。そのためには、懲罰請求の対象・根拠、即ち、被請求者が反論すべき対象を明確にしなければならないのである。

 しかるに議会での懲罰手続において、残念ながら現実には適正手続に基づく権利が何 ら保障されていないうえに、現に議会内多数派の横暴によって不当な懲罰処分が強行さ れていて、議会内では全く改善され得ないことが明白である。それにも関わらず、「議会 に自律性」の名のもとに、裁判所による司法審査が拒否されるとしたら、一体日本は民 主主義国なのかと疑わざるを得ないのである。

2;本件懲罰は不利益処分の原則からして、手続き上の瑕疵により不当である。

 原告は本件以前の懲罰事件(99年9月議会)の時から、懲罰決定の手続きとその実態について、「弁護人抜き・被告抜き・事実調べ無し・反論権無しで、独裁国家の軍事裁判よりもひどい暗黒裁判である」、と批判してきたが、本件懲罰事件の実態を見てもその批判はいささかも変更の必要がない。
 これは日本の議会制度においては、弁護士会の懲戒手続きに比べれば明白なように、元々この部分の考慮が不備であることが基盤にあるが、それに加えて門真市議会4会派の法治主義の何たるかも知らない非常識さと少数派に対する異様な敵意を持った運営によるものである。
 以下にそのことを論証しておく。

 @;3月16日提出の懲罰動議については、そもそもその存在が3月26日本会議直前
   の議運まで不利益処分対象者たる原告に対して秘密にされて、原告が全く防御権を奪
   われていたことからして、論ずるまでもなく手続上の瑕疵は明白であり、この一事を
   以てして既に不当無効である。

 A;3月14日提出の懲罰動議も3月16日提出の懲罰動議も、動議の理由説明に於い
   て、「議会及び職員を誹謗、中傷し、議会の品位を汚し、その権威を失墜するような発
   言があり、このような発言は断じて許すことができないため。」とか(14日提出動議)、
   「さらに議会を誹謗、中傷し、冒涜する発言があり、このような発言は断じて許すこ
   とができないため。」(16日提出動議)、と述べるのみで、発言のどの部分がどのよう
   に、なぜ懲罰対象だというのか、さっぱり分からない代物である。
   これでは「被疑事実を記載していない逮捕状」同然であって、不利益処分を科す手
   続として、全く不備なものである。

 B;原告は懲罰動議が本会議に上程された直後に、提案者にその内容を質問することも
   許されないまま、3月16日提出懲罰動議に至っては提案説明の文書も渡されないま
   まに、形式的に「一身上の弁明」を許されたのみで、実質的な反論権行使を妨げられ
   たままであった。

 C:懲罰動議を審査する総務水道常任委員会においては、冒頭にのみ「一身上の弁明」
   発言を許可されたのみで、それ以外は反論権行使どころか傍聴すら許されなかった。

 D:共産党議員が懲罰反対の立場で意見を述べてくれたものの、それは「善意の第3者」
   の立場に於いてであり、「被告人」の利益を代行するものではく、その義務を負うも
   のでもない。つまり「弁護人抜き裁判」が進行したのである。

 E:懲罰審議の総務水道常任委員会での論議の実態は、「討論」とは言いながらも、賛否
   の意見をそれぞれ一方的に述べるだけで、何ら、普通の意味での「討論」としては行
   なわれておらず、とうてい「真理への接近」が図れるものではない。

 F;懲罰賛成の意見はみな「誹謗中傷」とは何か、という検討もない感情的な決めつけ
   論や、「無礼の言葉」解釈に典型的に見られるようなデタラメな法規範理解によるもの
   であったが、事実の検証や判例・資料を基に論議を進めるようなことが一切なかった。
   事実審理を一切行なわずに不利益処分が進められ、形式的な多数決で「懲罰相当」
   の決定が委員会において出されたのである。

 G:委員会での懲罰審議結果を報告した後の本会議での原告の「弁明」や賛否の討論も、
   議論することの実効性を初めから抹殺した単なる形式でしかない。
   懲罰賛成派がどんなに不当な、根拠のない意見を言っていても、それと論議を闘わ
   せることが初めから禁止されているのである。

   (以上、詳しくは甲第3号証〜甲第8号証に至る疎明資料参照)

 以上述べたことから、本件懲罰手続は明らかに日本国憲法31条、行政手続法の趣旨に反した瑕疵ある手続であり、違法であって、この点からも本件懲罰処分を容認して司法審査を拒絶した原判決は取り消されるべきである。

以上。