被告議会側の反論書


 平成13年 (行ウ) 第29号
 出席停止処分取り消し請求事件
                                  原  告     戸 田  久 和

                                  被  告     門 真 市 議 会

 

準備書面


 大阪地方裁判所 第7民事部合議1係 御中
 上記当事者間の御庁・表記事件について、被告は下記のとおり陳述する。

平成13年10月11日

                            被告訴訟代理人  弁護士  安 田   孝
                               同         弁護士  上 野 富 司


第1 はじめに

 最高裁判所は、昭和35年10月19日判決(民集14巻12号2633項以下)で、「地方議会の議員に対する出席停止の懲罰議決の適否は、裁判権の外にある。」と明確な判断を示した。被告の平成13年6月14日付け答弁書における答弁は、この最高裁判所の趣旨に則ったも ので、そもそも、本件の如き、裁判所法第3条に規定する法律上の争訟に該当しない事案は、裁判権の外にあるとの考えに基づくものである。そのことを主張するのに、多くの論述を要しないことは、当たり前のことである。
 この点で、原告が、自ら詳細な準備書面を書いて提出したことを盾に、被告の答弁書が 2枚に過ぎず、その対応が不誠実で、高額な弁護料を取りながら等々と非難するのは、筋違いも甚だしい。

 被告が、どのような訴訟方針を立て、どのような判断の基に、どのような内容の答弁を、どのような量で行なうかは、原告が立ち入って云々するべきことではなく、あくまで被告の考慮する範疇に属する事項であることは、訴訟活動の常識である。従って、被告の主張は、従前通り本案前の申立を変わらず維持するものであり、先の答弁以上の論述をする必要はないと考えるのであるが、折角の原告の主張であるから、これに鑑み、ここで、前回の答弁を補足して、若干の意見を陳述する。


第2 出席停止処分に関する最高裁判所の判断

 前記のとおり、最高裁判所は、昭和35年10月19日判決において、議会の出席停止処分は、司法審査の対象にならないと明確に判示しているのであるが、同判決は、その理由を「司法裁判権が一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法3条の明定するところであるが、ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。一口に法律上の係争といっても、その範囲は広範であり、その中には事柄の性質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあるのである。
 ただし、自立的な法規範をもつ社会ないしは団体にあっては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるからである。出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。」旨説示している。よって、被告の答弁の根拠はこれをもって十分である。因みに、これと同趣旨の下級審の判決例も多くある。

例えば、
(1)長野地裁昭和61年2月27日判決(判例自治22号34項)は、「町議会議員に出席停止12日間の懲罰事由があったか否か、すなわち議会軽視等があったか否か並びにその事由が出 席停止12日間に値するものであるか否かは、町議会の認定と判断に任すべき事柄であり、裁判所の権限の範囲外にある。」と判示し、

(2)甲府地裁昭和38年10月3日判決(行裁例集14巻10号1860項)は「地方議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、特にそれが著しく長期間に及ぶものでないかぎり、司法裁判権の外にある」とし、さらに、原告らが、出席停止処分と除名処分との間に質的な差異がないと主張したことに対し、「除名処分は、完全に議員としての資格を喪失せしめるという重大な結果をもたらすものであるのに対し、出席停止処分は、議員の資格を剥奪するものではなく、一時的に議員としての権利行使を制限するものに過ぎないから(地方自治法第135条が出席停止と除名を段階的に規定したうえ、除名については特にその議決の方法を慎重ならしめている趣旨からもこれを推知しうる)両者を全く等質のものと解しこれを同視することは相当ではない。」「原告らの受けた出席停止の期間は、最長7日間、最短1日間にすぎないから、これをもって除名処分と同日に論ずることはできず、懲罰処分の取消しを求める訴えは、不適法といわなければならない。」としている。そして、

(3)佐賀地裁昭和61年9月5日判決は「地方議会の議員に対する懲罰としての30日間の出席停止処分が、議員の身分を喪失させる除名処分とは法的性質を異にし、これと同視することはできない」として司法審査の対象とはならないと判示しているのである。


第3 除名処分に関する最高裁判所の判断

 昭和35年3月9日最高裁判決(民集14巻3号355項以下)が「議員の除名処分を司法裁判の権限内の事項」としていることは確かであるが、これは、出席停止の処分と異なり、除名処分は、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止まらないからであって、本件における議員の出席停止の如く議員の権利行使の一時的制限に過ぎないものとは自ら趣を異にしていることを理由にするものであるから、妥当な判断と言うべきである。


第4 本件出席停止処分が除名処分に匹敵するとする原告の主張が、全く根拠のない議論である
    ことについて

 原告は、本件出席停止処分が除名処分に等しいものであると主張する。被告としては、何故、原告が、このように違いのはっきりしている事柄を同視すべきであると、殊更な主張をするのか理解に苦しむところであるが、答弁書でも触れたとおり、おそらくは、強引に、本件出席停止処分を除名処分のよ
うに司法判断の対象にさせようとする無理がその背景にあるのであろう。
 しかしながら、懲罰処分と言う意味では、異なるところがないとは言え、前記のとおり、いわば、水と油の関係のように、質の違う処分を敢えて同一視するのは、如何なものであろうか、まともに答えられない議論ではないかと被告は考える。原告は、何をそんなに焦っているのかと言いたい。


第5 平成13年6月21日の第1回口頭弁論期日における原告の問題発言について

 原告は、平成13年6月21日の第1回口頭弁論期日において、意見陳述を行ったが、その中に、看過できない一言があった。それは、「門真市議会の多数派議員が門真市の一般市民が持ち合わせている常識でさえ、これを持ち合わせていない」とする発言である。
 これは、議会内の発言でないとは言え、裁判という公の場で、門真市議会の大多数の議員は非常識であると言っていることに他ならず、議会や議員を侮辱・中傷し、引いてはこれら多数の議員を選出した多くの門真市民をも侮辱・中傷するものであると言わなければならない。

 いうまでもない事であるが、議会の議決は多数決によるとする立論は、公知の事実であり、民主主義の最も基本的な原理である。因みに、原告が当選した平成11年4月25日施行の門真市議会議員選挙における原告の投票数は、1,313票である。一方、市民の常識をすら持ち合わせていないと、原告が侮辱的な非難を浴びせた本件出席停止処分に賛成した議員22名の得票総数は、38,481票の圧倒的多数であった。そして、これは、有効投票総数54,652票の実に70.4%を占める数字であって、これらの議員の背後には、その人々を信任した多数の門真市民がおられることを忘れてはならない。
 原告を信任した門真市民の方々は、1,313名の少数に留まる。このように本件出席停止処分は、圧倒的多数の門真市民の声を誠実に反映した結果なのである。何故、このような、結果になったのかを、先ず、原告は冷静に考えてみられるべきではないのか。


第6 議会会議録の提出について

 原告は、議会が原告の門真市情報公開条例に基づく本件懲罰処分の議決に係る平成13年第1回定例会会議録原本の開示請求に対して、地方自治法第123条(会議録)、門真市議会会議規則第115条(会議録に掲載しない事項)の規定により、前記条例第6条第7号(不開示情報・法令秘情報)に該当するとして、原本を開示せず、一部を伏字にして開示したことをもって、いかにも議会が証拠を隠滅したかのように主張して、原本の提出命令を裁判所に求めているが、これは、裁判所に予断を抱かせようとする、いかにも原告らしいためにする議論であると思われる。

 伏字にした部分は、議長が地方自治法第129条に規定する秩序保持権に基づき発言の取消しを命令した部分であり、それ以外の理由はなく、議会に他意があったわけではない。なお、原告は、改めて議員としての立場から当該会議録原本の開示請求を議長に申し出ており、これに対しては、閲覧申請書の提出を求め、閲覧可能と回答されている。いづれにしても、本件訴訟においては、伏字部分を何ら秘すべき理由はないから、裁判所の提出命令を待つまでもなく、被告側で当該議会会議録中本件出席停止処分に係る部分の抄本を証拠(乙1号証)として提出する。


第7 原告が準備書面において引用する京都地裁の判決について

 原告は、平成13年8月8日付準備書面48頁において、前回懲罰事件(処分)を提訴しなかった理由の一つとして、「『除名以外は裁判の対象とならない』、もしくは『除名以外は裁判を起こしても門前払いされてしまう』、という慣例及び通説が原告が知りえた範囲に於いては、ベテラン議員にも弁護士にも含
めて根強くあって、最初から断念せざるを得なかった(この見解は正しい)。

 京都府加茂町の曽我町議が、1997年9月議会での戒告懲罰に対して1998年3月に取消しを求める訴訟を起こして、京都地裁がこれを受理して司法審査が行なわれていたことを原告は良く知らなかった。」と陳述しているが、判決(京都地裁平成12年3月31日言渡・平成10年(行ウ)第7号戒告処分取消請求事件)自体は、訴えの却下、つまり門前払いであることは、判決文をよく読めば、すぐ判ることである。
 従って、この判決が、本案前の判断しかしていないことは自明であり、裁判所がこの件を司法審査の対象にしたと、如何なる根拠をもって言えるのか、全く理解に苦しむところであり、原告のこの論述が誤りであることは、多言を要せずして、明らかである。
 参考までに、この京都地裁判決の判決文を証拠(乙2号証)として提出する。また、この一審判決に対し、曽我町議側が控訴していたが、平成13年9月21日に大阪高裁において、控訴棄却の判決が宣告されているので、併せてこの判決文をも証拠(乙3号証)として提出する。


第8 原告の証拠調請求に対する意見

 何れも取り調べの必要はない。


第9結語  以上の次第であるから、裁判所におかれては、速やかに本件訴えを却下されたい。

                                                    以上