1:被告答弁書の論理構造とその虚構の解明


(1)被告の答弁書を考察してみると、「本件訴えの却下を求める」ことを導き出す論理構造は以下
  のようになっている。

  A:「地方議会は自律性を有する自治的団体であり、議員に対して懲罰を行う権能を有している」

   a1;「この権能を有する目的は会議体としての規律と品位を維持するためである」

  B;「本件懲罰処分は、この地方議会の有する自律権の発動として行われた」

  C;「従って、本件懲罰処分は正当なものである」

   c1;「本件懲罰処分は自治的団体の内部規律の問題として、自律的判断が尊重されるべき
      である」

  D;「今回の懲罰処分は実質的に1日の出席停止であって議員の権利の停止が、比較的に
    一時的な制限に過ぎない」

  E:「従って、今回の懲罰処分は、司法審査の対象にならないレベルの処分である」

  F:「従って、本件訴えは却下されるべきである」

(2)上記の論理構造の虚構性の2つの柱を指摘することは誰にでもすぐできることである。
   まず第1にBの「本件懲罰処分はこの地方議会の有する自律権の発動として行なわれた」
  から、Cの「従って、本件懲罰処分は正当なものである」、という虚構である。
   ある団体が法的に処分を為す権能を有しているからと言って、為された処分が自動的に正
  当なものだと言い得るものでないことは自明の理である。「法的権能を有する団体が違法不当
  なことをするはずがない」という安易で誤った前提に立つものでない限り、当該団体が「自律権
  の発動として行なった」と言いさえすれば、何の検証もなしに自動的に正当な処分であると認
  められてよいはずがない。とりわけ公機関において「正当な権能発動」というためには、その
  処分が権能の付与目的に沿ったものであり、憲法・法律・条例規則の本旨や手続きから逸脱
  していないことが明らかにされなければならないことは言うまでもない。

   ところが被告は、原告が事実に基づいて行なった議会質問や「弁明」を「誹謗中傷・「議会の
  権威失墜」と決めつけることが正当であったのかどうか、それに懲罰を科することが正当であっ
  たのどうか、憲法・法律の本旨から見てどうなのか、という肝心カナメの争点について自分の側
  に都合の悪い実態しかないものだから論証抜きで「自律権の発動として行われた」と自己正当
  化して、裁判による事実検証を回避して「訴えの棄却」を求めるのみなのである。

   従って、本件懲罰が憲法・法律・条例規則の本旨や手続きから逸脱しており、正当な自律権
  の発動とは言えないことが論証されれば、Bの「本件懲罰処分は、この地方議会の有する自律
  権の発動として行われた」という正当性が成立しなくなり、必然的に、Cの「従って、本件懲罰処
  分は正当なものである」という主張が崩壊することになる。

   第2に、Dの「今回の懲罰処分は実質的に1日の出席停止であって議員の権利の停止が、
  比較的に一時的な制限に過ぎない」、という虚構である。議員の出席停止というのは、学生
  や会社員の出席出勤停止処分のような個人的利益享受の一時的停止とは全く異なり、有権
  者の参政権具象化としての審議・議決権の剥奪であり、よほどの理由がない限り行なっては
  ならないものである。しかも地方議会の場合、年にたった4回しか定例議会がなく、中でも本
  件懲罰の場合、市の予算案審議議決という最も重大な議案を初めとした合計30もの案件を
  議決する3月議会最終本会議の場から排除されるという重大な損害を被ったのである。

    1年に1度の、行政の根幹たる予算の審議議決からも排除されて、議員の職責が果たせる
   というのか。この処分を指して「比較的に一時的な制限に過ぎない」、という被告の詭弁には
   腹の底からの怒りを覚えざるを得ないが、これは同時に被告の主張の最も弱い環でもある。

   「除名懲罰」ならば司法審査の場で正否を争うことになるのは、被告と言えども承知しているが
  故に、本件出席停止懲罰が「実質的に除名にも等しい処分」もしくはそれに近い重大な権利制限
  であることが認識されれば、司法審査によって自らの非常識で異様な議会運営実態にメスを入れ
  られる可能性が生じるために、なんとしてもこれを逃れようと考えた結果が、本件懲罰を極力軽い
  ものに思わせて、事実審理抜きの門前払い判決を求めるという被告の論法である。

   よって、Dの「今回の懲罰処分は実質的に1日の出席停止であって議員の権利の停止が、比
  較的に一時的な制限に過ぎない」、という虚偽の主張を崩壊させるに足る論証を行なえば、Eの
  「従って、今回の懲罰処分は、司法審査の対象にならないレベルの処分である」、という主張も
  崩壊し、第1の虚構の崩壊と合わせて、Fの「従って、本件訴えは却下されるべきである」、とい
  う被告主張の眼目が崩壊するのである。

   それゆえ原告はまずD=Eの虚構を解体し、次いでB=Cの虚構を解体することをもって虚構
   Fの土台全てを粉砕してゆくことに方向を定め、背景事情も含めて様々な観点から幅広く論証
   を行なっていくものである。裁判官におかれては、どうか形式的法律論ではなくて、地方議会
   の実態に即して、議会民主主義の保障と発展にとっての害悪を除去する方向で、司法審査を
   進めていかれることを切望いたします。

(3)なおここで、被告が3月議会最終日にあえて「出席停止5日間懲罰」を2つも重ねて「合計10日
  の出席停止懲罰」を発動した不可思議と、それを後になって「実質的に1日の出席停止」
   (=だから一時的な制限に過ぎない)と言いなす居直りについて、解明しておきたい。

   残り1日しか議会期日がなく、万々一戸田排除後に別件で議会が紛糾したとしてもせいぜい
  1日延会(それ以上の紛糾は門真市議会の歴史からして考えられない)のに、実効的には意
  味のない「合計10日の出席停止懲罰」を科すのは「議会の権威」を声高に叫ぶ与党4会派
  議員自身が実は「議会の権威」をまじめに考えていない証左であると同時に、原告に対して
  「この次は除名懲罰だぞ」という強烈な威嚇と政治的意思表示を行なったものである。

   なぜならば、「除名懲罰」のすぐ手前の「出席停止懲罰」において、その最高限度が5日間で
  あり、それを同一議会で同一議員に対して2つも重ねるというのは日本の議会史上例のない、
  まさに「究極の出席停止懲罰」にして、「除名懲罰に限りなく近い」処分であり、「除名相当なく
  らい悪いことをした議員」として原告にレッテルを貼りつつ「次は除名しかない」という雰囲気を
  広げるための政治的デモンストレーションだからである。

   まさに彼らの行為そのものが、本件懲罰が「比較的に一時的な制限」などではなく、「実質的
  に除名に等しい」ものとして行なわれたことを示しているのであって、訴訟を起こされたとたんに
  「実際には1日だけの出席停止に過ぎない」としてその重大性を隠ぺいしようと謀るなどは、与
  党4会派議員の不誠実さを示すと共に、「議会の権威」を自分達の都合で弄んで市民の眼を欺
  いていること、議会に出席して質疑質問議決することの重大性を認識していないことを如実に
  明らかしたのである。(参考;3月26日本会議に於ける大本議長発言〜本会議議事録P.335)

    「出席停止の懲罰につきましては、会議規則第110条の規定により5日間を超えることが
   できませんが、数個の懲罰事案が併発した場合には5日間を超えて出席停止の懲罰を科
   すことができるとなっています。」   〜門真市議会規則(甲第23号証)



2;日本議会史上前代未聞の懲罰暴走をなす門真市議会と本件訴訟の重大さ

   本件訴訟の審理にあたって、この2年余の門真市議会多数派による議員攻撃(懲罰決議・問責
  決議・辞職勧告決議など)が日本の議会史上例を見ない悪質・執拗なものであって、そのひとつと
  して本件懲罰事件が存在していることを幾重にも指摘しておきたい。
   元来、議会に於ける懲罰事件は非常に希なものである。現在日本には670の市議会があるが
  (大阪府市町村課回答)、そのうちで懲罰事件は甲第26号証の「懲罰議員白書」(1999年発行)
  からのコピーに示したように、平成7年中の懲罰事例は8市8件、平成8年では7市7件、平成9年で
   8市10件しか発生していない。

   各市で1年間に4回の定例議会があるから、全議会開催に対する懲罰事件発生の割合は、それ
  ぞれの年で2680回議会に対して平成7年8件で0.30%、平成8年7件で0.26%、平成9年10件で
   0.37%、平成7年8年9年の3年間合計8040回議会に対しては25件で0.31% である。
   (小数点3位四捨五入。市の数は年により若干違うが、この計算に大きく影響するものではない)

   ところが門真市議会の場合は1999年の4定例議会のうち(9月議会で)原告に対して2件(陳謝
  懲罰と出席停止)で実に50%、2000年には3月議会で共産党議員に対して1件だから25%、2001
  年は3月議会で本件懲罰(出席停止2件)が出されているから、仮に今後懲罰事件が発生しないと
  仮定しても、既に今年の年間発生50%となっており、本年末までのこの3年間12定例議会に対して
  既に5件だから、3年間の懲罰事件発生率実に41.67%の超々高率になっているのである。

   「懲罰議員白書」の資料はいささか年が旧いが、現在でも全国の議会の実状に大きな違いはな
  いのであって、門真市議会の場合さらに原告に対する問責決議(1999年9月議会)辞職勧告決議
  (同年12月議会)をなしていることや、「戒告」「陳謝」「出席停止」という「除名以外の全ての懲罰」
  を、原告当選の99年4月以来、今年3月末までの2年間というわずかの期間で発生せしめているこ
  とから見ても、その異常さは他に類を見ないのである。

   従って、本件は決して「小さなイザコザ」などではなく、日本の議会史上希に見る悪質・異常な議
  員攻撃事件として審理されるべきだし、またそうしなければ「除名以外は司法審査がされないから
  やり放題に懲罰できる」、という門真市議会与党4会派の不当な認識が改まらずに、さらに不当懲
  罰が繰り返されるだけでなく、(裁判になっても首謀者たるボス議員は引退して責任逃れできるし、
  懲罰賛成議員に刑事責任などが発生するわけでもないから)「次の市議選(2003年)前に除名して
  しまえ」とされてしまう「現実の・明白な危険性」すら存在し続けるのである。

  このような危険性の存在の下では、自由闊達な議会言論はとうてい存在しえず、議会制民主主義
  が崩壊してしまうことになる。