2016年3月11日判決文

平成28年3月11日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成27年(ワ)第1680号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成27年12月4日

判         決

大阪府門真市新橋町12−18−207
原          告      戸田 久和
大阪府門真市浜町23−7−401
被          告      福田 英彦
大阪府門真市千石東町24−10
被          告      亀井 淳
大阪府門真市常盤町25−5
被          告      井上 まり子
大阪府門真市北巣本町8−8
被          告      豊北 裕子
上記4名訴訟代理人弁護士      愛須 勝也

主         文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 被告らは,原告に対し,連帯して,150万円及びこれに対する平成26年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告らは,別紙1記載の謝罪文を,日本共産党門真市委員会が発行する紙版「門真民報」に,別紙2〈条件A〉記載の条件で,日本共産党門真市議会議員団が管理するウェブサイト版「門真民報」(http://www.ma.jcp-web.net/?cat==4)上に,別紙2〈条件B〉記載の条件で,それぞれ掲載せよ。
 3 被告福田英彦は,同被告が管理する「門真市議会議員 福田英彦ブログ」(http://kadomasigi.exblog.jp/)上に,別紙1記載の謝罪文を別紙2〈条件B〉
  記載の条件で掲載せよ。

第2 事案の概要
 1 事案の要旨
   本件は,大阪府門真市議会議員(以下,大阪府門真市を「市」,同市議会を「市議会」と略称することがある。)である原告が,日本共産党門真市議会議員団(以下「議員団」という。)に所属する市議会議員であった被告らが編集に関与し,日本共産党門真市委員会が発行した機関紙「門真民報」平成26年7月13日号(以下「本件機関紙」という。)において,「戸田ひさよし議員のあきれた『公開質問状』」「成果『程造疑惑』と議員団にレッテル」「回答で誤りを指摘されるとダンマリ!」と題する記事(以下「本件記事」という。)が掲載され,また,本件記事と同内容の記事が,議員団の管理するウェブサイト及び被告福田英彦(以下「被告福田」という。)の管理するブログに掲載され,これらの行為によって自身の名誉が毀損されたと主張して,被告らに対し,(不真正)連帯して,@不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料150万円及びこれに対する不法行為の日(本件機関紙の発行日である平成26年7月13日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,A名誉回復措置(民法723条)として,機関紙「門真民報」の紙面,議員団の管理するウェブサイト及び被告福田の管理するブログに,別紙1記載の謝罪文の掲載を求める事実である。

 2 前提となる事実(当事者間に争いがないか,揚記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 当事者ら
   ア 原告は,本件機関紙が発行された平成26年7月13日当時,無所属の市議会議員であった。原告は,平成27年4月26日実施の市議会議員選選挙に当選し,現在も市議会議員である。
   イ 被告福田,被告亀井淳(以下「被告亀井」という。),被告井上まり子及び被告豊北裕子(以下「被告豊北」という。)は,いずれも,平成26年7月13日当時,市議会議員であり,議員団に所属していた。被告福田,被告亀井及び被告豊北は,前記市議会議員選挙に当選し,現在も市議会議員である。
  (2) 本件記事の掲載に至る経緯
   ア 門真民報は,日本共産党規約18条3項によって設置された日本共産党門真市委員会が発行する機関誌である。現在,約2000部が発行されており,主に日本共産党の政党機関紙に折り込むなどして,購読者に配布されている。(乙4,7)
   イ 門真民報平成26年4月27日号において,門真市市民生活部地域活動課による自治会ハンドブック(以下「本件ハンドブック」という。)の発行を取り上げた記事が掲載された。同記事には,(議員団が,)市民からの相談を受け,「議会で取り上げていたことが実ったものです。」などと記載されていた。(甲2の1)
   ウ 原告は,平成26年5月21日,議員団に対し,「『門真民報のデマ記事疑惑』についての5/21公開質問状〜自治会問題での『共産党の議会活動の成果』糧造疑惑」と題する書面(以下「本件公開質問状」という。)を送付するとともに,これと同内容の記事を自身の管理するウェブサイトに掲載した。
   本件公開質問状では,門真民報平成26年4月27日号における前記記事について,共産党議員が市議会で自治会問題を取り上げ,その成果として本件ハンドブックが作成されたかのような印象を与えるが,原告の記憶や市への問い合わせによれば,共産党が市議会で自治会問題を取り上げたことは一度もないと指摘し,議員団の市議会における質疑等の内容及びそれに関係する証拠文書を明らかにすべき旨が記載されていた。
 (甲3)
   エ 平成26年5月28日,議員団は,原告に対し,本件公開質問状に対する回答として,過去に被告亀井が自治会問題について市議会民生常任委員会で質問するなどしていたことを記載した回答書を送付した(甲4)。
   オ 平成26年6月2日,原告は,白身の管理するウェブサイトに前記回答書の内容を掲載するとともに,前記回答書は俯に落もない内容であると指摘した上で,これに対する自らの見解表明等は後目行う旨のコメントを記載した。
   しかしながら,その後,本件機関誌(門真民報平成26年7月13日号)の発行まで,前記ウェブサイトにおいて,前記回答書に言及した記事が掲載されることはなかった。
 (甲13)
   力 平成26年7月13日,本件記事を掲載した本件機関誌が発行された。本件記事は,被告福田が執筆した草案をもとに,議員団等による編集を経て本件機関誌に掲載されたものであり,被告らは,あらかじめ同掲載について同意していた。(甲5の1)
   その後,議員団は,本件記事と同内容の記事を,議員団の管理するウェブサイトに掲載した。また,被告福田は,平成26年7月10日,本件記事と同内容の記事を,白身の管理するブログ「門真市議会議員 福田英彦ブログ」に掲載した(以下,本件記事並びに前記ウェブサイト及び前記ブログに掲載された各記事を総称して,「本件記事等」という。)。
 (甲5の2,甲6)
(3)本件記事の内容は,以下のとおりである。(甲5の1)
  本件記事は,本件機関紙の第1面左部に掲載されたものである。
  本件記事の冒頭には,見出しとして,@「戸田ひさよし議員のあきれた『公開質問状』」(以下「本件記載@」という。),A「成果『担造疑惑』と議員 団にレッテル」(以下「本件記載A」という。),B「回答で誤りを指摘され るとダンマリ!」(以下「本件記載B」という。)との見出しが連続して記 載されていた。
  また,本件記事の本文には,C「この記事に対し戸田ひさよし議員が,「少 なくともここ数年,共産党が自治会問題を議会で取り上げた事は一度もない」 との誤った認識で,「『門真民報のデマ記事疑惑』についての5/2 1公開 質問状〜自治会問題での『共産党の議会活動の成果』糧造疑惑」とした公開 質問状を党議員団宛に出しました。」(以下「本件記載C」という。),D「し かし,議員団が回答したことを自らのホームページで公表したのは6月2日 で,「『話のすり替え』感が強くて肺に落ちないのだが,とりあえずそのま ま紹介し,戸田の意見や分析は後で行なう事にする」とコメントしただけで, 今日(7月7日現在)まで「ダンマリ」の状況です。」(以下「本件記載D」 という。),E「事実関係を十分確認することなく「担造疑惑」と議員団に レッテルを貼り,事実を示し誤りを指摘されるとダンマリを決め込むあきれ た「公開質問状」と言わざるを得ません。」(以下「本件記載E」という。), F「一昨年の公開質問状では,回答したことさえ公表せず」(以下「本件記 載F」という。),G「戸田議員のこのような「公開質問状」は,今回が初 めてではありません。 2012年9月7日に出しか,消防議会の亀井あっし 副議長(当時)に関する党議員団に対する「公開質問書」については,期限 の9月14日に回答したにもかかわらず,そのことを全く公表せず,福田議 員の指摘でやっと公表レ公表が遅れたことをあれこれの理由をつけ謝罪し ましたが,「回答内容には不満や批判もある」としながら,その後全く反論 などはありませんでした。」(以下「本件記載G」という。),H「このよう な為にする「公開質問状」に対しても党議員団は対応してきましたが,この ような経過についてお知らせするとともに,戸田議員からの公開質問に対しては,今後どのような内容であっても回答することは無いことを付言しておきます。」(以下「本件記載H」という。),と記載されていた。

   3 争点
  (1) 本件記事等が原告の名誉を毀損するか(争点1)
 (2)本件記事等の表現行為につき違法性が阻却されるか(争点2)
   具体的には,@本件記事等のうち事実の摘示を含む部分について,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったか,摘示された事実がその重要部分について真実であることの証明があったといえるか,A本件記事等のうち意見ないし論評の表明と認められる部分について,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったか,当該意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったといえるか,また,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないか。
 (3)損害の発生及び額(争点3)
 (4) 損害を回復するために謝罪文が必要か(争点4)

  4 争点に対する当事者の主張
 剛 争点1(名誉毀損該当性)  
 (原告の主張)
   本件記事等は,以下のとおり,原告の名誉を毀損するものである。
  ア 本件記載@ないしBについて
    本件記載@は,原告が議員団宛てに送付した本件公開質問状を誹誇し,中傷する内容である。
    本件記載Aは,原告が門真民報平成26年4月27日号の前記記事に対し本件公開質問状で疑義を呈したことについて,あたかも虚偽のレッテル貼りをしたかのように描き上げている。
    本件記載Bは,原告の言動を「ダンマリ」と非難しており,原告が被告らから誤りを指摘されて反論できなくなってしまったとの印象を読み手に与える表現である。
    したがって,本件記載@ないしBは,いずれも原告の社会的評価を低下させる表現であることが,明らかである。
  イ 本件記載@ないしGについて
    本件記載Cは,原告による本件公開質問状の送付について,原告が,誤った事実関係を前提として被告らを非難する浅はかな人物であるかように描き上げている。
    本件記載Dは,本件記載Bと同様に,「ダンマリ」との表現を用いて,原告が自己にとって都合の悪いことを隠蔽したかのような印象を読み手に与える表現である。
    本件記載Eは,本件記載A及びCと同様に,原告が誤った事実関係に立脚して他者にレッテル貼りをしたかのように記述しており,かつ,本件記載B及びDと同様に,「ダンマリ」との表現を用いて,原告の言動について否定的な印象を与える表現である。
    本件記載F及びGは,本件に先立って原告と議員団との間で交わされた,守口市門真市消防組合議会副議長であった被告亀井の言動をめぐるやり取りにおいても,本件と同様に,原告が自己に都合の悪いことを隠蔽していたかのような印象を与え,原告をもって,そのような不誠実な対応をする常習犯であるかのように描き上げている。
    したがって,本件記載CないしGは,原告の社会的評価を低下させる表現であることが,明らかである。
  ウ 本件記載Hについて
    本件記載Hは,原告が市議会議員として何らの対応に値しない低劣な人物であるという印象を市民に与え,原告の名誉と社会的信用性を毀損する表現である。

 (被告らの主張)
  本件記載@ないしHが名誉毀損に該当することは,否認する。
  本件記載@ないしGは,いずれも具体的な事実を摘示したものではなく,原告の言動について,これに批判的な立場から論評を加えたにすぎないから,これにより原告の社会的評価が低下することはない。
  本件記載Hは,原告と議員団との間で過去にも同様の事例があり,その際も原告の対応が誠実でなかったという,原告に批判的な立場から,今後,原告から同種の質問書が送付されても回答しないという議員団の態度を表明したにすぎず,これにより一般市民が原告について低劣な人物であるという認識を持つことはない。
(2)争点2(違法性阻却事由)
 (被告らの主張)
  本件記載@ないしHについては,以下のとおり違法性が否定され,被告らが不法行為責任を負うことはない。
 ア 公共の利害に関する事実被告らの表現行為において問題となっているのは,市議会における議員の質問が本件ハンドブックの発行という政策課題の実現につながったかどうかであり,公益上必要又は有益と認められる事項に係るものであって,公共の利害に関する事実であることが明らかである。
 イ 専ら公益を図る目的
   被告らは,市議会議員の活動報告の一環として,本件公開質問状における原告からのいわれのない誹誇中傷に対し,正しい経緯を報告する目的をもって表現行為をしたのであるから,公益目的も認められる。
 ウ 真実性
   過去に被告亀井が自治会問題について市議会民生常任委員会で質問していたこと,このような事実について原告が十分な調査をせず,誤った認識のもとに本件公開質問状を送付したこと,議員団が連々かにこれに回答したものの,原告は自身の管理するウェブサイトに前記回答内容を掲載しただけで,その後何らの対応を取らなかったことは,いずれも真実である。
  また,本件に先立って原告と議員団との間で交わされた,守口市門真市消防組合副議長であった被告亀井の言動をめぐるやりとりにおいて,原告が平成24年9月7日付けで議員団に対し公開質問書2通を送付し,議員団が同月14日イ寸で回答書を送付したこと,原告による同回答書の公表が遅れたこと,原告において,同回答書の内容に不満や批判があることを指摘しつつ,それ以降全く反論をしなかったことも,真実である。
   したがって,本件記載@ないしHにおいて摘示された事実や,意見ないし論評の前提としている事実は,その重要部分においていずれも真実である。
 エ 公正な論評の法理
  表現の自由が最大限保障されるべき議会活動においては,自由に意見表明や論評,論争が行われるべきであり,これらによって人の社会的評価が低下したとしても,その意見や論評が公正なものであれば,名誉毀損は成立しないというべきである。
  本件記載@ないしHは,原告が思込みに基づいて送付した本件公開質問状に対し,議員団が誠実に回答して原告の誤解が判明したにもかかわらず,その後に原告が沈黙を続けたことから,被告らにおいて,過去の原告の言動を踏まえて,必要な論評を加えたものである。本件記載@ないしHは,表現として相当性を有するとともに,対抗言論として許される範囲内にとどまっており,意見や論評として公正なものであるといえるから,名誉毀損の成立は否定されるべきである。

(原告の主張)
  ア 本件記事等は,原告を意図的に誹誇・中傷するためだけに掲載されたもので,公益目的によるものとはいえない。
  イ 門真民報平成26年4月27日号において,議員団の活動が本件ハンドブックの発行につながった旨の記載がされていたが,同発行の契機を作ったのは原告であり,議員団の活動は何ら関係がなかったのであるから,原告の認識に誤りは存在しない。原告は,市議会における議員団の言動を事前に確認した上で本件公開質問状を送付したのであり,これを十分な確認を怠ったあきれた公開質問状であると決めつける被告らの表現行為は真実に反するものである。
  ウ 本件記載@ないしHは,表現の自由が最大限保障されるべき議会活動における意見表明や論評,論争でなく,議会外での被告らによる意見や論評にすぎない。また,本件記載@ないしHは,いずれも真実とは異なる内容を基礎としており,表現行為として公平な意見や論評ともいえない。

(3)争点3(損害)
 (原告の主張)
  原告は,本件記事等により自己の名誉を著しく毀損され,その精神的苦痛を慰謝するに必要な金員は,150万円を下らない。
 (被告らの主張)
  争う。
(4)争点4(謝罪文の必要性)
 (原告の主張)   被告らによって失墜させられた原告の信用を回復するため,門真民報並びに議員団及び被告福田の管理する各ウェブサイトヘの謝罪文の掲載は不可欠である。
 (被告らの主張)
  争う。

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
   前記前提事実に加え,証拠(甲1〜8,13〜1 6,18,27,29,乙   1〜7,原告本人,被告福田本人。ただし,書証につき枝番かおるものについては,枝番を含む。なお,書証のうち主要なものは各項目において再掲する。)   及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件ハンドブックの発行に至る経緯
    議員団は,支援者から,新しく選出された自治会長をサポートする資料等の作成,整備に関する要望を受け,平成23年10月初句,門真市市民生活部地域活動課に対し,新しく選出された自治会長が自治会員から福祉,環境,防犯および防災等に関する相談を受けた際,市のどの部署に連絡を取ればよいかなどの情報を簡明に知り得るよう,対策を講じることを要望した。
    平成24年3月12日,市議会民生常任委員会において,被告亀井は,自治会役員の交代等により自治会の活動内容や市との連携に支障が生じることがないよう,行政としてどのような対応を取る予定かを質問するなどした。これを受け,市は,同年4月以降,「自治会活動関連の問い合わせ窓ロについて」と題する書面(以下「本件一覧表」という。)を作成し,自治会に配布した。本件一覧表には,自治会の業務内容及びそれに関する市の連絡先が一覧表の形式で掲載されていた。
    平成24年6月及び9月に開催された市議会において,原告は,自治会ハンドブックの作成状況等について質問した。門真市市民生活部長市原昌亮(以下「市民生活部長市原」という。)は,既に本件一覧表を配布済であるが,今後さらに,年内を目処として自治会活動に役立つ資料を作成する予定である旨の答弁をした。
    その後,平成26年4月になって,門真市市民生活部地域活動課により,本件ハンドブックが発行された。
  (甲4,乙1の1,乙2,5,6)
(2) 原告による本件公開質問状の提出及び本件機関紙の発行
 ア 門真民報平成26年4月27日号において,本件ハンドブックの発行に係る記事が掲載された。同記事では,本件ハンドブックに自治会活動関連の問い合わせ窓口が一覧表の形式で記載され,分かりやすい体裁になっていることが紹介された上,自治会長が毎年交代することにより自治会の活動に弊害が生じないよう,市民から「相談を受け議会で取り上げていたことが実ったものです。」などと記載されていた。(甲2の1・2)
 イ 原告は,平成26年5月21日,議員団に対し,本件公開質問状を送付し,これと同内容の記事を自身の管理するウ土ブサイトに掲載した。
 ウ 平成26年5月28日,議員団は,原告に対し,本件公開質問状に対する回答書を送付した。
   前記回答書では,平成24年3月12日に市議会民生常任委員会で被告亀井が自治会問題について門真市市民生活部地域活動課長に質問していたこと,これに先立つ平成23年10月初句にも,被告亀井が,同課に対し,新しく選出された自治会長と市との連携を円滑に行うような体制の構築を要望したこと等を指摘し,議員団が以前から議会において自治会問題を取り上げていた旨が記載されていた。また,上記の活動が実って,同課が本件一覧表を配布するに至ったこと,議員団がかねて本件一覧表の内容の充実や自治会の自主的な活動を支援する方策を求めており,こうした働きかけによって,本件ハンドブックの発行につながったこと等が記載されていた。
   (甲4)
 エ 平成26年6月2日,原告は,白身の管理するウェブサイトにおいて,前記回答書の内容を,これに批判的なコメントともに掲載した上,後目,更に詳しい見解表明等を行う旨を記載したが,その後,本件機関誌の発行までの間に,こうした見解表明等が行われることはなかった。(甲13)
 オ 平成26年6月19日の門真市議会平成26年第2回定例会において,市民生活部長市原は,平成24年3月議会の民生常任委員会で被告亀井から関連質問を受けるなどし,本件一覧表を作成したこと,更なる自治会活動の活性化をめざす観点から,平成26年4月に本件ハンドブックを策定した旨,本件ハンドブックの作成に至る経過を報告した。(乙1の1)
 力 平成26年7月13日,本件機関紙が発行され,議員団の管理するウェブサイト及び被告福田の管理するブログに本件記事と同内容の記事が掲載された(甲5の1・2,甲6)。
(3) 本件機関紙発行後の市議会における原告の言動
 ア 平成26年8月28日付けで,原告は,市民生活部長市原及び同部地域活動課長小野義幸に対し,原告以外に,その議員活動が本件ハンドブックの作成の契機となった議員がいるかを尋ねる質問書を提出した(甲7)。
 イ 平成26年9月2日,市民生活部長市原及び地域活動課長小野義幸から,原告による前記質問書に対する回答書が送付された。同回答書には,平成24年6月議会における原告の一般質問通告を契機として,本件ハンドブックの作成が具体的に進められるようになったこと,原告以外に本件ハンドブックの作成の契機となった議会質問をした議員はいないこと,平成24年3月議会の民生常任委員会における被告亀井の質問については,同年4月1日付けで本件一覧表を作成し,自治会に配布することで,対処を終えたこと,本件ハンドブックのアピール・ポイントである自治会の活動支援のため,本件ハンドブック中に「市役所内部の関係部署への問い合わせ一覧」を掲載したこと等が記載されていた。
   また,平成26年9月26日の市議会平成26年第3回定例会においても,市民生活部長市原から,原告以外に本件ハンドブックの作成の契機となった議会質問をした議員がいないことが報告された。
   (甲7,8)
  ウ 平成26年12月16日の市議会平成26年第4回定例会において,原告は,これまで議員団が市議会において自治会の適正化や民主化に関する質問を一度もしておらず,共産党としてこのような問題に取り組んでいなかったことを指摘した上,それにもかかわらず,本件ハンドブックの発行を自身らの成果としたことは問題であると発言した(乙3の2・3)。
 (4)過去における原告と議員団とのやり取り
   ところで,原告と議員団をめぐっては,過去にも公開質問書をめぐるやりとりがあった。
   すなわち,原告は,平成24年9月7日,守口市門真市消防組合議会副議長であった被告亀井の言動について,議員団に対して公開質問書を送付した。議員団は,公開質問書の回答期限である同月14日に回答書を提出したが,原告は,自らが管理するウェブサイトにおいて,その回答内容をしばらくの間公表しなかった。原告は,被告福田からの指摘を受けて,同月22日,回答の公表が遅れたことを謝罪するとともに,回答内容には不満や批判もある旨のコメントを付した上,前記ウェブサイトで回答を公表したが,その後,同ウェブサイトにおいて,前記回答に言及した記事が掲載されることはなかった。
  (甲14〜16,29)
2 争点1(名誉毀損該当性)及び争点2(違法性阻却事由)について
(1) 本件記載@ないしEについて
  ア 本件記載@ないしEは,これを全体として読めば,原告において,議員団が市議会で一度も自治会問題を取り上げたことがない旨の,事実と相違する内容の本件公開質問状を作成したという事実を前提とし,そのような原告の行為をもって,事実確認を怠り,誤った認識に立脚した上で,議員団について否定的な評価を決めつけるものであると批判するものであり,また,議員団が平成26年5月28日付けで回答書を原告に送付したにもかかわらず,原告がその事実を白身の管理するウェブサイトで公表したのは同年6月2日になってからで,かつ,同公表に際し,原告が前記回答書の内容に批判的なコメントを付し,後目自らの見解表明を行うと記載しつつ,何らの反論を行わなかったとの事実を前提とした上で,そのような原告の言動をもって,論争相手から誤りを指摘されると沈黙し,事柄の隠蔽を図るものであると批判するものであって,これらにより一定程度,原告の社会的評価が低下することは,否めない。
イ しかしながら,本件記載@ないしEを含む本件記事等は,市議会議員である原告の政治的活動に関する言動を対象とし,同じく市議会議員であった被告らが,原告に批判的な立場から,これに論評を加える内容であって,本件記事等の掲載は,公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったことが認められる。
  そして,前記1(1)に認定のとおり,平成23年10月初句,議員団が門真市市民生活部地域活動課に対し自治会長のサポートのための対策を講じることを要望し,平成24年3月12日,被告亀井が市議会民生常任委員会において自治会役員の交代等による支障を防止するための行政側の対応について質問するなど,議員団において自治会問題につき一定の政治的活動を行った経緯が存するところ,本件公開質問状では,議員団が市議会で自治会問題を取り上げたことは一度もないと指摘されているのであって,少なくともこの点に関し,本件公開質問状の記載が事実と異なっていたことは否定し難いというべきである。また,本件公開質問状の送付から本件記事の掲載に至るまでの経過は,前記1(2)に認定のとおりであって,本件  記載@ないしEが言及する原告と議員団間のやり取りについても,概ね真実と評して差し支えないものである。
 本件記載@ないしEは,以上の事実を前提として,原告による本件公開質問状の作成及び送付とその後の原告の対応について,原告に批判的な立場から論評を加えたものであって,その内容が人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものとも認め難い。
   したがって,本件記載@ないしEの掲載は,違法性を欠くものと認められる。
(2) 本件記載F及びGについて
 ア 本件記載F及びGは,守口市門真市消防組合議会副議長であった被告亀井の言動をめぐり,平成24年9月7日に原告が議員団に対して公開質問書を送付した後の経緯に関し,議員団が同月14則こ回答書を送付したものの,原告がしばらくの間これを公表せず,被告福田からの指摘を受けて,原告の管理するウェブサイトで前記回答書の内容を公表した際,その内容には不満や批判がある旨のコメントを付しつつ,その後,何らの反論を行わなかったとの事実を前提とした上で,原告が過去にも,本件と同様の不誠実な対応を取った旨を批判するものであって,原告の社会的評価の低下を招く表現であると認められる。
 イ しかしながら,本件記載F及びGを含む本件記事等について,その掲載が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認められることは,前記(1)イに認定説示したとおりである。
   そして,被告亀井の言動をめぐる原告と議員団間のやり取りの経過は,前記1(4)に認定のとおりであって,本件記載F及びGの論評が前提とする事実は概ね真実であると認められるのであり,かつ,その内容や表現に照らし,論評としての域を逸脱したものと認めることもできない。
   したがって,本件記載F及びGの掲載は,違法性を欠くものと認められる。
(3)本件記載Hについて
 ア 本件記載Hは,原告による本件公開質問状の送付について,それが「為にする」ものである旨,すなわち,物事を自分に都合の良いように計らおうとする下心をもって行ったとの批判を加える内容であって,原告の社会的評価の低下を招く表現であると認められる(原告は,これに加え,本件記載Hにおける,今後原告からの公開質問に対しては,いかなる内容であれ議員団として対応しない旨の記述について,原告の社会的評価を低下させるものであると主張する。 しかしながら,当該記述は,直接的には,議員団において,原告に対立する立場から,今後は原告からの公開質問に対応しない旨の態度を表明したものにすぎず,これを閲読した一般人において,議員団につき,政治的立場を異にする他者への寛容さに欠けるとの印象を抱くことはあっても,その相手方である原告につき,何らの対応に値しない低劣な人物であるとの認識を抱くおそれがあるとまでは認められない。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。)。  イ しかしながら,本件記載Hを含む本性記事等について,その掲載が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認められることは,前記(1)イに認定説示したとおりである。
     そして,本件記載Hは,本件公開質問状の記載が事実と異なるとの事実を前提として,本件公開質問状の作成が「為にする」ものである旨,すなわち,物事を自分に都合の良いように計らおうとする下心をもって行ったとの論評を加えるものであるところ,上記前提事実が概ね真実と認められることは,前記1(2)に認定説示したとおりである。加えて,その内容や表現に照らし,論評としての域を逸脱したものと認めることもできない。
     したがって,本件記載Hの掲載は,違法性を欠くものと認められる。

第4 結論
   以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,原告の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。


大阪地方裁判所第9民事部
裁判長裁判官  谷口 安史
裁判官      高島 義行
裁判官      高橋 あゆみ

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