★ 戸田の友人、鄭貴美さんの訴え「犠牲を無駄にしないで」を全文紹介 戸田の生野区時代、一家で大の友人となった鄭貴美(チョン・ギミ)さんが、韓統連大阪という在日韓国人の民族団体の機関紙に載せた文章を全文紹介します。貴美さんは戸田と同年代で、小柄だけど3人の男の子のしっかり母さんで、民族講師のほかに看護婦さんとしても働いてきた経験を持つ人です。 【 犠 牲 を 無 駄 に し な い で 】 鄭 貴 美(チョン・ギミ) 2月に入り、卒業式・入学式の季節を迎える。今年もまた、あの「日の丸」「君が代」が学校現場で子どもたちの目に、耳に、心にどのように響くのだろう!長年民族講師として働き、この時期になるといつも同じ思いを繰り返してきた。 そんな怒りや不安が隠し切れない昨年11月末、「拉致報道」の真っ只中、1通の奇妙な封書が我が家に送られてきた。差出人がなく、宛先人に敬称もなくまた、郵便切手も貼っていない。 それは、「どうせチョン公やろ!…」から始まる卑劣極まりない差別文書であった。心が凍るぐらい腹立たしく、とうとう我が家にも、というやるせない気持ちではあったが居合わせた息子たちにも読ませた。現実を知ってもらうために…。 「拉致報道」以降、朝鮮総連に対する嫌がらせはもちろんのこと、朝鮮学校に通う子どもたちへの暴言や暴力が後を絶たない。ランドセルを背負う幼い子どもの後ろから、水をまく女性がついでのように水をかける。その女性は、これ位痛くも痒くもない、と思ったのだろうか! 送りつけられた差別文書を手に、子どもたちとこの現状を話した。朝鮮人に向けられた排外的な姿勢は決して朝鮮総連や朝鮮学校のみが被害を受けるのではない。差別を身体で感じてもらおうと、私たちは常にいつ被害者になるかもしれないという不安な状態に置かれているかということを知り、怒りを共有したかった。 翌日、地域の市民運動団体に差別文書を伝え、東大阪市の社会教育や人権啓発に事実確認等を申し入れた。市内に4件確認しているということがわかり、早急にこの文書による被害を抑えることと、この事実を受け、市の人権啓発が何をしなければならないのか、今後どのような対処を考えるのか回答を求めたが、未だ具体的な回答は得られていない。「誠意を持って調査しています」に留まり、どの言葉をしても私たちの怒りは届いていない気がした。 同じ文書を受け取った一世のハルモニ(おばあさん)が「いつまで私等にこんなことするんや!何が間違っているかまだ分からんのか!」と声を荒げた。犯人(差出人)探しがこの問題の解決だと思っている市の担当者に、ハルモニの怒りが理解できただろうか、あなたたちが差出人(犯人)だという自覚があるかどうかを求められているのだ。 今年1月大阪府との話し合いで以上の報告を聞きながら、「報告のための調査はいらない、これまでの人権啓発や人権教育が間違っていることがはっきりしているのだから、その分析と回答を出してほしい」と訴えた。納得できる回答が無い限り、これ以上警察に協力できないことも
付け加えておいた。 私は一世を対象にした街かどデイハウスで働いている。日々の会話の中からハルモニたちの祖国や民族への思いを肌で感じる機会が多くある。同時に日本社会に対する期待と怒りが交差する複雑な心境を知らされる。二世三世を思えば期待せざるをえない、そんな在日社会への期待とも読み取れる。 9月以降、近隣の小中学校で一世たちの「街かどデイハウス」でのようすを話すため数校の授業に招かれた。当時の情勢から「拉致問題」は避けられないと判断し、一世たちの歴史と今の思いを代弁した。ざわついていた子どもたちは次第に顔を上げその真実に聞き入り、感想文には「韓国・朝鮮の歴史をもっと知りたい。デイハウスへ行ってハルモニたちの話を聞きたい」と多くの子どもたちは真実を知りたいと訴えた。子どもたちは真実を見抜く力を持っていることを確信し、誠意を持って受け入れなければと痛感する。 差別文書を送りつけられて以降、何をしなければならないか考えつづけている。私は子どもたちを見て、まず真実を伝えつづける責任が私たち大人に課せられていると学んだ。 大人たちを信じ、正常な社会で生きることができる希望を信じようとしている子どもたちに寄り添い、また明日、大阪府との話し合いを申し入れることにしよう!(了) |