法的問題(清水委員分抜粋2);味のある解説です 

(3) 都道府県の立場
 ・・・・・・・・・市町村との関係では,都道府県も国と同様の立場にある.

●問題が発生した場合には,(2)と同じく,「都道府県から住基ネットの管理運用に関する具体的な指示等がなかったから対策を取らなかった」と弁解しても通用しない.
 国と都道府県の関係は,国・都道府県と市町村の関係と同様である.
 しかし,都道府県は住基ネットの管理主体でもあるから,市町村の責任とは別に,都道府県独自の管理責任がある.地方自治情報センターに対する監督命令権限(30条の22)や,同センターへの報告要求・立入り検査権限(30条の23),本人確認情報の安全確保義務(30条の29)などのほか,当該都道府県内の市町村相互間の連絡調整や必要な協力もすべきものとされている(30条の7第9項・10項).  

(4)地方自治情報センターの立場

●・・・・.市町村とは直接の法律関係はない.

●地方自治情報センターから都道府県を経由して市町村に送られる住基ネット管理のマニュアルは・・・・市町村において守るべき基準とされているが・・・市町村に対する法的拘束力はない.マニュアルに従わなくても直ちに違法ということにはならないが,逆にマニュアルに従ってさえいれば問題が起こっても免責されるという関係にもならない.

●また,地方自治情報センターに問い合わせて得た回答どおりに実行したとしても必ず免責されるわけではない.例えば,住基ネットを管理する独立の部屋を用意できない地方自治体では,衝立を立てるのでもよいという回答がなされているが,この回答どおりに対応したために問題が起こった場合,当該自治体は免責されない可能性が大きい.

 4.4 法律とその限界

(1) 「法律は守らなければならない」
 一般論として, ・・・・・「法律を守れ」という考え方は妥当である.
・・・・・主に行政機関の仕事の範囲や内容を定める行政法規の場合は,行政機関に恣意的な運用をさせないために一律の運用を義務づけるというのが原則である.住民基本台帳法は行政法規の一種である.行政法規一般の考え方からすれば,全国の市町村は住基ネットに参加し接続しなければならない.

(2) 行政法規は厳格に守られているか

●しかし,行政法規の実情を見ると,行政法規は行政機関において必ずしも守られていない.
 ・・・・例えば,地方議会の議長の任期は4年と法定されている(103条2項)が,これを守っている議会はほとんどない.
 ・・・このように,国においても地方自治体においても法律は必ずしも厳格に守られているわけではない.

(3) 「法律は不可能を要求しない」

●・・・・そもそも守ることを期待することが難しい法律はなるべく作らないことである.
そのようにしないと,法律を執行する現場において多大なコストや労力を要する反面,執行される側からすると法律を守らされることが心理的な負担ないし苦痛になり,「法律は守るべきもの」という忠誠心が法律を執行する側からも執行される側からも失われる.・・・・
 行政法規の執行にもこのことは当てはまる.・・・・・・・

●・・法律が守られるためには,法律を守ることを要求する対象者に「できない」ことを要求しないことである.法律は不可能を要求してはいけないのである.

4.5 住基法と住基ネット

 ●・・・・しかし,住基ネットは・・・・・コンピュータの専門知識と管理能力と財政負担能力が必要不可欠であるにもかかわらず,多くの市町村においてこの点の手当が極めて不十分である.住基ネットの管理運用は,コンピュータを専門職としていない現在の自治体職員には能力的に無理がある.・・・・

●補助金制度が廃止の方向に進む中,膨大な赤字をかかえた市町村が確実に高額化する住基ネットの管理費用を支払い続けることなどできない.莫大な損害賠償請求に応じなければならない場合どうするかなどの財政面の問題についてもほとんど検討されていない.

●住基ネットの実情は,法律が市町村に不可能を要求していると言わざるを得ない.

4.6 法律が不可能を要求している場合の対応

●・・・市町村長と都道府県知事には,そのような実情にある住基ネットの「適切な管理」のために「必要な措置」を講じる法的義務がある(住基法36条の2第1項,30条の29第1項).「適切な管理」は住基ネット特有の要請である以前からの・・住基法の根幹である(1条).

●問題が解決するまで一時的に住基ネットから離脱するという対応は,自分の自治体の住民の情報を外部から守るために有効であるだけでなく,自分の自治体の管理が原因となって他の自治体ないし住民に被害を与えないためにも有効である.

4.7 「必要な措置」の内容

●・・・・住基ネット問題がひとつの県だけで解決できるものでない。

4.8 個人情報保護法案の成立との関係
 ・・・・去る5月23日,個人情報保護関連5法案が成立した

●個人情報保護法制の充実は,20年以上も前から指摘されて来たことであり,・・・住基ネットとは直接なんらの関係もない.

●住基ネットがかかえている問題は・・・・「個人情報保護」という名称のついた法律が成立するか否かなどではない.・・・・

●住基ネットへの接続ないし全面的な接続は,各市町村長,各都道府県知事が危険だと考える問題が解決されているか否かにかかっているのである.

(以上)