法的問題(清水委員分抜粋1);「自治事務」ということ

 この法的問題は、とりわけ行政や議員が住基ネットを考えたり論議したりするにあたって大変重要なことだが(門真の4会派議員もよく読んでおくように!)、一般市民にとっても「住基ネット離脱は違法だ!」という片山総務大臣や産経新聞らのウソに反論するにあたって重要な部分である。清水委員はこの問題について非常に詳しく丁寧に書いてくれている。
(*文中「・・・・・」は省略した部分があることを示す。戸田が特に重要と思った部分には●印を付けた。以下同じ)

答申全文は
http://www.pref.nagano.jp/soumu/shichoson/jyukisys/singikai/siryou6.pdf


4.住基ネットの法的問題について(担当:清水委員)

4.1 住民基本台帳ネットワークシステムの仕組み

●昨年8月5日に第一次稼動を開始した住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という.)の運用に関する法的根拠は住民基本台帳法にある.言い方を換えれば,住基ネットは住民基本台帳管理業務の一部分という,法律上の位置づけになる.

●住民基本台帳管理業務の主体は市町村であり(1条,3条,5条),そのため市町村長は個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成しなければならない
 (6条1項).

●住民票に記載すべき事項は7条に法定されており,住基ネットによる管理利用の対象となる「本人確認情報」(氏名,生年月日,性別,住所,住民票コード,変更履歴)(30条の5第1項)は,住民票情報の一部(7条1号,2号,3号,7号,13号,14号)である.

●これまでの住民基本台帳法に規定がなく,住基ネットとの関連で新たに設けられることになったのが住民票コード(11桁の番号)である(7条13号).
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 市町村長から都道府県知事に住民票コードを含む「本人確認情報」が通知される(30条の5第1項).  そして都道府県から国の行政機関等へ「本人確認情報」を提供する(30条の7第3項).
 但し,都道府県から国の行政機関等へ提供事務は「指定情報処理機関」に委任することができ(30条の10第1項3号),長野県を含むすべての都道府県が「指定情報処理機関」である財団法人地方自治情報センター(以下「地方自治情報センター」という。)に上記事務等を委任している.
  昨年8月5日に始まった第一次稼動では,市町村で集めた「本人確認情報」は,独自のコンピュータネットワーク(住基ネット)によって都道府県に送られ,そこからさらに地方自治情報センターに送られ,国の行政機関等は地方自治情報センターのコンピュータにアクセスすることによって特定の個人の「本人確認情報」を確認することができる.

●今年8月25日に始まる第二次稼動では,全国どこの市町村からでも地方自治情報センターにアクセスして全国どこに住んでいる人の「本人確認情報」でも確認することができるようになる(30条の10第1項4号・5号・6号).  

4.2 立法事実
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 (住基ネットが全国の地方自治体の希望で作られたという)事実があるのであれば,全国の市町村がすべての管理責任と費用を負担する住基ネットという仕組みを作ることは立法事実としては特に問題はなく、住基ネットを作ることを前提とした問題点が検討されるべきことになる.

●立法事実に関する片山総務大臣の説明が真実でないなら,立法事実が存在しないのであるか住基ネットの法制化そのものが間違いであったという大問題になる.
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●全国の地方自治体が国に対して住基ネットの法制化を求めた形跡はない.国民に至っては・・
住基ネットの法制化に向けての立法事実はない.このことはもはや紛れもない事実である.

4.3 法的責任

  (1) 市町村の責任
 住民基本台帳事務は「自治事務」(地方自治法2条8項)である.住基ネット事務は住民基本台帳管理事務の一内容として規定されているものであるから,市町村の自治事務である.

●従って,住基ネットの関連法令の解釈運用,住基ネットの管理運用は市町村の責任において行うべきことになるとともに,管理運用費用も市町村の負担となる.

●国や都道府県の仕事を肩代わりするわけではないから,国や都道府県から補助金が出ることはない.
 総務省では,市町村の経費は地方交付税で賄うという説明をしているが,地方交付税は同法1条の規定(「地方自治の本旨の実現に資するとともに,地方公共団体の独立性を強化することを目的とする.」)から明らかなように,本来,地方自治体が自らの判断において使途を自由に決めることができるものであり,国が特定の使途を指定することは法の趣旨に反する.  

●市町村は,住基ネットの管理運用上のミスによりだれか(当該市町村内の住民に限らない)に損害を与えた場合には,国家賠償法に基づく責任を負わなければならない.

●意図的な不正操作の場合だけでなく,自らの管理運用ミスによって広範な被害を生じた場合にも,全責任を負わなければならない可能性を覚悟する必要がある.

  (2) 国の立場
●国の行政機関等は,・・・提供を受ける立場であり,・・・取得後の管理利用については責任があるが,市町村の住基ネットの管理については責任を負わない.

●自治事務に関して国が市町村に対してできることは,地方自治法によれば,是正の要求(245条の5)だけであり,是正の指示(245条の7)や代執行等(245条の8)はで きない.・・・・・・・

●国の指示には法的拘束力がなく,・・・地方自治体の責任が重いということを意味する.

●例えば,ある対策を取らなかったことで住民に被害を与えた場合に,「国から住基ネットの管理運用に関する具体的な指示等がなかったから対策を取らなかった」という弁解をしたとしても,自治事務である住基ネットにおいては絶対的な免責理由になるわけではなく,市町村が責任を問われる場面は出てくる.・・・・

(以下続く)