「長野県審議会報告」櫻井さん執筆分抜粋(1)

(*文中「・・・・・」は省略した部分があることを示す。戸田が特に重要と思った部分には●印を付けた。以下同じ)


 長野県本人確認情報保護審議会第1次報告  2003年5月28日

1.はじめに(担当:櫻井委員)
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 県民の個人情報保護に適切な対策を立てるには,まず県下120の自治体における住基ネットの実態を知る必要があった.そこで審議会は,審議会独自のアンケート調査を行った.
 県の担当課に調査を委ねることも出来たが,国が進めている政策に対して,市町村の立場から県に率直な意見は言いにくいという関係があることを承知していたので,市町村の率直な意見を引き出すために,審議会が自ら調査することにした.
 同調査には,県はアンケート用紙の郵送にのみ関与し,個々の自治体の回答は,直接委員長にFAX又は郵送してもらった.内容は6名の審議会委員のみが閲覧出来ることとし,県には統計処理された結果だけを報告した.こうして各自治体の匿名性を守ることで,忌憚のない意見を引き出すことが出来た.

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 調査結果は,実に衝撃的だった.住基ネットの仕組みや管理運営について最も詳しいのは,担当職員(96%)であるが,担当職員の91%が住基ネットは「自治体の負担が大きい割にメリットが少ない」と答えたのだ.さらに56%が「住民のメリットが少ない」又は「本人確認情報の漏洩などプライバシーが心配」とも答えた.

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 ・・・さらに自治体の聴き取り調査に乗り出した.・・・・・。この選定作業においても, 県関係者は関与しておらず,委員のみで選んだ.選んだ市町村名は県に知らせていない.訪問先への交通は公用車を使用しているが,運転者は住基ネットに関連しない業務の職員を充て,聴き取りに県関係者は立ち合っていない.・・・・・・
 ・・・・・、県に対する報告では,各問題の答えにスクランブルをかけ,回答内容から特定自治体が分からないよう配慮した.こうして得た現地調査結果は,俄には信じ難い内容だった.

●・・・ある自治体では,庁内の同一セグメントにイントラネットと従来の住基システムなどの業務系ネットが同居しており,加えて,インターネットと住基オンラインが同一ネット上に置かれていた.インターネット経由で全ての情報が取られかねない事態である.
・・・・・・・空き部分にパソコンを接続することが出来るようになっていた自治体もあった. パソコンを繋げば,住基ネット情報はいとも容易く取られ兼ねない.

● 業者が住基オンラインのバッチ処理とシステムの遠隔監視,保守を担当している自治体もあった.つまり,業者は外部からリモートで住基ネットに接続して操作することが可能なわけだ.
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  自治体で約2時間づつかけて語り合ううちに,本音の話が相次いだ.担当職員も課長も,住基ネットについては,利便性も必要性も疑問だと述べ始めたのだ.彼らは事務効率化と費用の両方でデメリットしか発生しないと断言,「市町村のシステムだと国は言うが,実は国のためのシステムである」,「住基ネットのメリットは市町村にも住民にもなく,国による個人情報活用にある」と喝破したのだ.
 「住民へのメリットはない」「市町村へのメリットもない」との訴えは,少数の自治体の声ではなく,行く先々で繰り返し強調されたものだ.「国の押しつけ」であり,本音は住基ネットを止めたいのだとの訴えも少なくなかった
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● その後も審議会は市町村の調査を続け,さらに驚くべき事実に直面した.県下の27の自治体でなんと,住基ネットとインターネットが物理的に接続されているのだ.この事態は真に重大であり,長野県下の自治体に内外からインターネット経由でアクセスが殺到し,情報が流出する恐れがある.そのような事になると,長野県民と県下の自治体のみならず,日本全国の自治体と国民全員が被るであろう被害は測りようがない

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●・・長野県外にも,住基ネットとインターネットが繋がっている自治体は必ずある,しかも,かなりの数,あると見るべきだろう.したがって長野県が対策を立てても,コンピュータネットワークで繋がっている他県の何千という自治体も同じように,対策を講じなければ,県民の個人情報はいとも容易く流出する
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●ある程度信頼出来るところまでセキュリティを高めるには,最終的には数十億円のコストが必要だ.長野県にも県下の自治体にも到底背負いきれない額である.しかもこの高額のコスト負担は一度切りのものではなく,未来永劫続く性質のものだ.当然のことだが,住基ネットは自治事務であるため,コストは地方自治体の負担である.そこまでの財政負担を覚悟して続ける価値が,住基ネットにあるのか.住民への責任として地方自治体はこの点をよく考えなければならない.

(以下に続く)