これが一村市議が豊中市を訴えた訴状です

 以下は、一村が、豊中市に対して住民基本台帳ネットワークシステムを接続して被告が保有する原告の情報を国に提供してはならないと提訴した訴状の原文です。

訴     状

2002年8月5日
            大阪地方裁判所 御中
当事者の表示    別紙当事者目録の通り
          原告訴訟代理人
                弁 護 士   桜  井  健  雄
                  同     平  栗     勲
                  同     上  原  康  夫
                  同     井  上  二  郎
                  同     大  川  一  夫
                  同     菱  垣  理  英

      情報提供差止請求事件

請求の趣旨

1.被告は、住民基本台帳ネットワークシステムを接続して被告が保有する原告の情報を国に提供してはならない

2.訴訟費用は被告の負担とする

                       との判決を求める。

請求の原因

1.当事者

(1)原告は、豊中市に住む、豊中市民である。
(2)被告は、原告の情報を保有している地方公共団体である。又、後述する住基ネットによって国に原告の情報を提供する立場にあるものである。

2.住民基本台帳ネットワークシステム(以下住基ネットという)について

(1)1999年8月住民基本台帳法が改正された。

(2)住民基本台帳法はもともと48ヶ条の条文からなる法律であったが、新たに住基ネットの新設に関する55ヶ条を追加するという、後述の法律より改正内容の方が多いものである。

(3)さらに住基ネットの具体的内容にかかわる「住民基本台帳(住基)カード」や「指定情報処理機関」、本人確認情報の送信の仕方などの重要部分は政省令に委ねられ、法律だけでは具体的にどういうシステムができるかわからないつくりになっている。
 しかもその「政省令」がでるのが著しく遅延し、段階的に公布されているうちにシステムづくりの方が先行した。 (4)2001年8月15日、政令273号が公布され、本人確認情報のなかの「付随情報」の内容や本人確認情報の保存期間、国の機関等への本人確認情報の提供方法などが規定された。

(5)2001年10月10日、省令135号で、法律では、省令で定めることになっていた指定情報への通知の方法、指定情報処理機関での記録や保存の方法、国等への提供方法などを全て「基準」に委ねてしまうことや、住民票コードの変更請求書の記載事項や必要書類などが決定された。

(6)2001年12月28日、施行日を平成14年8月5日にする政令が公布された。

(7)2002年2月12日、総務省令13号により、別表に記載された本人確認情報の提供をうけられる。

(8)以上の通り、住基ネットは法律だけでは全体像がわからず、政省令によって全体像が明らかになるという極めて異様なものとなっている。
 しかしながら、ようやく判明した全体像によれば、行政機関毎に独自に作成される個人の各種情報が住民票コード(11ケタの番号である)として集約され、コンピューターネットワークを通じて、国にその情報が提供されるというシステムとなっている。

3.住基ネットの問題点

(1)住基ネットの問題点の最たるものは、個人の種々の情報が住民票コード(11ケタの番号)のもとにひとつに集約されることにある。いわば、その個人の種々の情報が一本化されることによって、その個人の全てが把握される。これは、個人を管理しようとする側にとっては便利かもしれないが、個人の自由、人格権を尊重する民主主義社会においてはとうてい許されないことである。

(2)次に、集中された個人の情報が、ネットワークのシステム障害や職員によるトラブル等によって、個人情報が外部に漏れ、更に、悪用される危険性がある。
 真の意味での個人情報保護法が成立していない現時点においては、個人情報が守られる保証は全くない。

4.住基ネットによる権利侵害

(1)人格権侵害
  人は個人としての尊厳を有し、その人格は最大限尊重されるべきことは論をまたない。
  一方、各行政機関が、その行政目的によって、その各行政機関毎に国民の情報を保有することはその限りでやむをえないものである。
  しかるに、その個人のあらゆる行政情報を一カ所にまとめられるべき理由は全くない。住民票コードなる11ケタの番号によって、個人の情報が一カ所に集められるのは、   本来の行政目的をはるかに越え、その個人の人格権を侵害するものである。

(2)公権力から監視されない権利の侵害
  国民はプライバシーの権利の一貫として、「公権力から監視されない権利」を有している。
 すでに、国民的な批判を受けた「国民総背番号」はまさに公権力が個人を監視する体制であった。「国民総背番号」を使って名寄せをすれば、国民一人一人がどういう人間で、いつどこで何をしたか、税金から家族関係、職業、収入、病歴、貯金、成績、購買記録、信用情報・・・等、ありとあらゆるプライバシーが、すべて丸見えになる。
 無論、今回の住基ネットによる個人情報は現状では一応「限定」されているが、前述した通り、法構造が、「政省令」委任形式をとっている以上、その拡大を防ぐ保証は全くない。
 そして仮りに「限定」されていたとしても、そもそも個人の情報を一カ所に集中させること自体、その個人の公権力から監視されない権利を侵害するものである。

(3)自己情報コントロール権の侵害
 プライバシー権は、今日では、自己情報コントロール権と解する考え方が有力である。しかるに、本件の住基ネットが施行されれば、個人の情報は、その個人の手を離れておりコントロールの術がない。自己情報コントロール権を侵害するゆえんである。

5.本件廃止の必要性

(1)原告は、豊中市民であり、被告は原告に関する各種の行政情報を保有している。

(2)住基ネットの施行は本年8月5日に予定されているが、仮にこれが施行されれば、原告の有する前述の権利は侵害される。
 この権利侵害の危険が事実であることは、すでに60に及ぶ地方議会が延期を求める決議を行っていることからも明らかであり、日弁連も同様の延期を求めているところである。

(3)しかるに被告が住基ネットと接続し稼働し始めれば、原告の前述の権利は侵害され、原告に関する個人「情報」は流出し、とり返しのつかないこととなる。

6.まとめ

 よって前項にのべた各権利により、原告について本件住基ネットの差止め、本請求に及んだ次第である。

証拠方法   甲第1号証乃至甲第4号証    新聞記事
          甲第5号証乃至甲第8号証    週間金曜日記事

添付書類
 1.甲号証(写)              各1通
 2.委任状                   1通
当事者目録