労働者に不信を生んだ厚生労働省HP発表の4つの問題点

 今回のNHK報道では、ある環境センター労働者が内部告発するような形でシルエット姿で登場し、以前(=平成7年・1995年頃まで)の粉じんだらけの炉内清掃作業を語り、市独自の全員・定期的な健康調査を訴え衝撃を与えた。
 考えてみるべきは、その労働者が環境センター管理者や厚労省に不信を持ち、職場の労組(市職労現業支部)ルートにも依らず、NHKに依って訴えるに至った背景である。
 この問題の担当行政部局は、【厚生労働省・労働基準局・安全衛生部化学物質調査課】で、府レベルでは厚生労働省の【大阪労働局】という部署。
 環境センターと直接対応するのは大阪労働局で、かなりの独自権限を持っている。

 さて報道以降、戸田が環境センター・大阪労働局・東京の厚労省化学物質調査課の各担当者に面談・電話で調査したところ、以下のように厚労省の4つの問題が浮かび上がってきた。これでは労働者が不信を持つのも無理はないと考える。

1;厚労省は昨年11月に8施設の結果をHP公開するにあたって、東京で記者会見して新聞発表もしているのに、そのことを当該施設には全く連絡しなかった。

大阪労働局も門真市環境センターに少なくとも正式の通知はしなかった。従って環境センターの部長は厚労省HPでの検査結果公開をNHK取材があるまで全く知らなかった。
 しかしこの厚労省の対応は非常識であり、昨年11月以降にHPを通じて情報を得て、今年個別面談で健康調査結果を知らされた労働者からすれば、センターの上司が全く知らぬ顔をしていることを見て、府や厚労省と一緒になって情報隠しをしていると不信を持つのも無理からぬことである。

2;焼却施設労働者でない人間の健康調査結果まで含めて「施設F(=門真市)」の統計に中に入れ、全国の統計の中に入れていること。

「施設F(=門真市)」から大阪労働局の要請に応じて健康調査を受けたのは20人。なのにHPでの報告で「施設F」=21人となっているのはなぜか?
 謎の1人は大阪労働局の担当官であった!
 この人がなぜか門真のセンター労働者と一緒に大阪労災病院で検査を受けただけでなく、「施設F」の焼却施設労働者統計の中に入るという、とんでもないことがされていたのだ。この人の実名・職種経歴は当然データに入っていて焼却施設労働者でないことが明白であるにも拘わらず!
 当然この人は施設労働者より血中ダイオキシン濃度が低いだろうから、「施設F」労働者の血中濃度平均を幾分でも下げることに約立ったろう。
 20人を出した環境センターにとって、「100ピコ以上が5人もいる施設F」は、21人の労働者の調査をした施設だから自分の所ではない、と思うこともできただろう。

3;調査と結果公開の手法の問題として、厚労省が労働者の名前を出さないだけでなく、施設名や都道府県名すら非公開であることを約束した調査だったことだ。

しかしそれでは労働者にとって自分の施設の状況が分からないことになるし、調査で何か問題傾向が発見されても、「施設を特定されないようにするために」この調査結果が公開的に活用されず、情報隠しを強制・助長することになってしまう。
 事実、「100ピコ以上が5人もいて平均値も高い、施設F」の結果が現れても「健康に被害があり得るレベルではない」という判断の下で、当該施設に通知しないだけでなく、「施設Fが門真市環境センターである」ことの確認を、大阪労働局も門真市も当初拒む理由を作り、労働者の不信を掻き立て告発に至らせたのだ。
 施設名非公開でないと風評被害を怖れて施設側の協力が得られないというが、正面から情報公開する姿勢を啓発するのも厚労省の役目のはずだ。

  仮に1000ピコもの高濃度労働者が発見されたらどうするつもりだったのか?
  それでも「施設名が明らかになるようなことはできない」ならば何ら対策が取れないことになる。

  それとも、今回は「高濃度が出るはずのない安心な施設」を選定しての調査で、世間に安心宣伝をするのが本当の目的だったのか?
  (だから「先進の門真市」が選ばれたのに、予想外の高数値が出て慌てたという「推理」も成り立つ)

4;「調査対象の選定基準」は、
   (1) 焼却炉等の内部作業者、
   (2) 焼却炉等の内部に立ち入らない労働者、
   (3) その他事務員やオペレーター、
の3種の中からの希望者だが、それらの割合についての指定はないし、結果報告でも3種の区別がされていないのはおかしい。

血中ダイオキシン濃度が高いのは当然(1)の労働者だが、(2) や特に(3)の労働者の割合を多くすれば、その施設の最高値も平均値も下がるはずである。
 厚労省の担当者は、「(3)はもともと多くない」とか「全施設とも(1)がちゃんと含まれている」と言うが、その割合や実数は明らかでない。
 「希望者」ということで特に民間業者が、炉内作業をしている自分の所の社員を出 したがるだろうか?(8施設の内2つは民間施設だし、炉内作業委託も受けている)
 ちなみに数値が高かった門真では、調査20名のうち、調査当時(1)の作業をしていたのはユニチカ労働者の1名だけで、ほか19名は(2) や(3)の労働者だった。

環境センター側の問題として、「施設名非公開」「施設名を知ることは労働者のプライバシー問題になる」という意識ばかり強すぎて、当初は「調査結果によって」、「問題傾向や労働者の不安に対しては公開の姿勢で積極対処する」、という姿勢に弱いところがあったとは言えないだろうか?
 任意の聞き取りで数値の高い労働者が若干名でも(最高値なら1人でも)確認できたら「施設F」=門真市環境センターとすぐ分かるではないか。
 少なくとも「2月8日に環境センターで医師2名による個人説明が実施された」時には、「自施設の労働環境を正しく把握する」という強い意識で任意調査すべきだった。