平成16年10月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成15年(ネ)第2569号損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所

平成14年(ワ)第8041号)

 口頭弁論終結日 平成16年6月17日       

          判         決   

大阪府門真市新橋町12番18−207号
         控訴人・被控訴人(以下「第1審原告」という。)

                                         戸  田   久  和   

大阪府門真市中町1番1号
         被控訴人・控訴人(以下「第1審被告」という。)

門     真     市

同代表者市長      東            潤

同訴訟代理人弁護士   安   田       孝

上   野   富   司

    主       文

1 第1審原告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

(1)第1審被告は,第1審原告に対し,30万円及びこれに対する平成14年8月9日から支

払済みまで年5分の割合たよる金員を支払え。

(2)第1審原告のその余の請求を棄却する。

2 第1審被告の控訴を棄却する。

3 訴訟費用は第1,2審を通じ,これを2分し,その1を第1審被告の負担とし,その余を

第1審原告の負担とする

4 この判決は,1項(1)に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

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1 第1審原告

(1)原判決中,第1審原告敗訴部分を取り消す。
(2)第1審被告は第1審原告に対し,63万5920円及びこれに対する
  平成14年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とする。
(4)第2項につき仮執行宣言。
(5)第1審被告の控訴を棄却する。
(6)上記控訴費用は,第1審被告の負担とする。

2 第1審被告

(1)原判決中,第1審被告敗訴部分を取り消す。
(2)同取消に係る第1審原告の請求を棄却する。
(3)訴訟費用は第1,2審とも第1審原告の負担とする。
(4)第1審原告の控訴を棄却する。
(5)上記控訴費用は,第1審原告の負担とする。

第2 事案の概要

1 本件は,第1審原告が,第1審被告の制定した門真市情報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づき,本件条例により情報公開制度を実施する機関である門真市長らに対し,守口市との合併推進要望書を提出した団体につき代表者氏名,住所等の情報開示を請求し,いったん開示決定がされたにもかかわらず,門真市長らが,上記決定を違法に取り消し,開示義務のある上記団体の代表者氏名等についてほぼ全面的に不開示としたため,コピー代等の出絹を余儀なくされただけでなく,精神的な苦痛をも被ったと主張して,第1審被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,83万5920円及びこれに対する違法行為後である平成14年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。
原審は,第1審原告の請求の一部(慰謝料20万円及び平成14年8月9日

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からの年5分の割合による遅延損害金)を認容し,その余を棄却したので,
 第1審原告が棄却部分を,第1審被告が認容部分をそれぞれ対象として控訴した。
2 第1審原告の主張(控訴理由)及び第1審被告の主張(控訴理由)を次項以下に付加するほか,前提となる事実(争いのない事実及び証拠等により認められる事実),争点及びこれに関する当事者の主張については,次のとおり補正した上で,原判決の事実及び理由,第2の2,3(原判決2貢9行目から11貢25行目まで)を引用する。

原判決の補正

(1)原判決4頁7行目冒頭の「被告は,」を「原判決別紙一覧表1ないし23記載の団体に関する公文書の開示の実施機関である門真市長東潤,同一覧表24ないし28記載の団体に関する公文書の開示の実施機関である門真市教育委員会(以下,これらの実施機関である門真市長東潤及び門真市教育委員会を合わせて『各実施機関』という。)は,」に改め,同行末尾の「被告が情報」を「各自が情報」に改める。
(2)同5貢2行目「被告は,」及び同7行目「被告は,」をいずれも「各実施機関は,」に改める。
(3)同7頁10行目,同12行目及び同26行目「被告」をいずれも「各実施機関」に改める。
(4)同9頁1行目,同3行目及び同11行目「被告」をいずれも「各実施機関」に改める。
(5)同10貢1行目(2か所),同14行目,同17行目及び同26行軍「被告」をいずれも「各実施機関」に
(6)同11頁9行目「被告が」を「各実施機関が」に,同14行目「被告の違法行為」を「各実施機関及び第1審被告担当者の違法行為」に改める。
3 第1審原告の主張(控訴理由)
(1)6月11日決定の内容の違法性について
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ア 「閣議決定で役員情報公開が義務付けられている公益法人」と「自らホームページなどで役員情報を公開している団体」の役員氏名の不開示だけを違法であるとし,それ以外の団体の役員情報については,公金支出の説明責任や,公益との比較考量も検討することなく,全て個人のプライバシーを理由に不開示とするのは次に述べるとおり不当である。 

イ 第1審被告から補助金を受けている団体(甲22)の役員氏名は開示対象であり,なかでも議会に提出された情報は公開情報であるから,市議会の全議員に配付された資料「平成12年度主な50万円以上の各種助成団体決算書」(甲27の1ないし3)に記載された次の団体の役員氏名は当然に開示情報とされるべきである。
社団法人門真市社会福祉協議会
門真市老人クラブ連合会
守口門真商工会議所
門真市人権啓発推進協議会
門真市婦人団体協議会
門真市体育協会

ウ 消防団員は公務員でありながら一般公募や採用試験もなしで公務員の地位に就くという特殊性があり,団長や役員人事の透明さ公明正大さが確保されねばならず,その面からも団長のみならず,役員氏名までも不開示とするのは不当である。

エ 第1審原告は,28団体の代表者及び役員の連絡先(住所)の開示を求めたのであり,自宅住所の開示が望ましいが,必ずしも絶対にそれにこだわっているのではない。団体の中には,「事務所は市役所(教育委員会)内に置く」とするものや,独立した事務所を持っているものもあり,その事務所住所を代表者の連絡先として開示するとの判断がなされても特段奇異ではなく,また,個人の住所全てではなく「00町」とか「00町○番
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地」までしか開示しないとかの工夫も考えられるから,団体代表者及び役員の連絡先(住所)を代表者の住所に一面化して判断するのは相当ではない。

オ 第1審被告は,ずっと以前から「広報かどま」に掲載して門真市人事異動の公表を行ってきた(甲120)。同広報は十数万人規模の全市民に対して配布されている。第1審被告は,何人も閲覧できる情報として,門真市の課長級以上の職員の氏名と職名を同広報で公表している(その公表記の中では「()内は旧職として旧職ならば係長や主幹職員の氏名,職名も公表している。)のである。このことからしても,「何ら具体的な職務行為を前提としない公務員の職に関する情報」を不開示とする第1審被告の主張が誤りであることが明白である 。

(2)請求者の身分,言動,目的による不開示,利用者の責務を口実とした不開示は違法である。

ア 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)第3条でも,何人も国の行政文書の開示を請求することができる旨定めている。公開請求を誰がしたかは重要ではない。それどころか,請求者が誰であるとか,その身分や職業及び文書を公開するか否かの判断材料に加えることは情報公開法に違反する行為として禁止されるものであり,ましてや,請求者の日頃の言動や将来の行動予測を判断材料に加えることは違法行為である。本件条例においても,開示請求の目的は,行政の監視のために限定されておらず,営利目的や商業目的が許されないことにはなっていない。情報公開の枠組みの中では何のために情報公開を請求するのかという開示請求者の意図は関係がない。かかる時代・法律状況にあって,請求者(第1審原告)の言動を勝手に非難をして不開示を正当化する第1審被告の行為は,不当というべきである(それは,第1審原告に情報公開に関する禁治産者とでもいうべきレッテルを貼って,第1審原告には個人
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氏名等が入った文書は開示しない,と決めているのも同然の第1審被告による暗黒の差別行政にほかならない。)。 

イ 第1審被告は本件条例第4条(利用者の責務規定)を持ち出して,第1審原告に対する不開示の正当性(「個人を誹誘中傷するような使用方法は明らかに利用者の責務に反している。」)を述べているが,第1審原告が個人を誹誘中傷したという第1審被告の主張自体が何ら具体的事実を挙げ得ないものであり,論ずるに足りず,また,上記第4条の責務規定は,あくまで倫理規定であって,法的意味を持たないものであり,開示を拒否することができるのは,あくまで条例に定められた例外事由に該当する場合だけであって,それ以外を理由とする開示拒否は違法である。

ウ 不開示情報の規定は公開禁止規定ではない。本件条例は,不開示情報であっても,公益上の理由があるときは実施機関の裁量により公文書を開示することができると定めている(8条)から,それによらなかった6月11日決定は違法である。

エ 第1審被告は,開示決定を逆転させた6月11日決定の理由について,第1審原告の本件訴訟提起前には,(1)「個人情報だから不開示にした。」  旨第1審原告に説明,通知していたものを,本件訴訟によって,これに加えて,(2)「開示請求が権利の濫用であるから」不開示にする必要がある旨を主張してきた(その権利濫用の内容は,@開示請求者の言動実績や今後の言動予測からみて,本件開示請求が個人・団体への不当な攻撃である,  A開示請求者が議員であって既に知っているはずの情報を開示請求している,B開示請求書に目的として「暗黒錯乱行政」との記載がある,というものである。)。各実施機関が,不開示とする旨の6月19日付通知書において,上記(2)の理由を隠蔽して(1)の理由のみを通知したことは,開示請求者に真実の理由を知らさず,その防御権,反論権を危うくする違法な行為であって許されない。
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(3)6月11日決定が適正な自庁取消ではなく違法であったこと 

 6月11日決定は,本件代表者氏名等の開示を認めた6月7日決定を逆転して不開示としたものであるが,その決定がなされた経緯をみると,6月11日決定は,正当な自庁取消としての要件を全く欠き,「その処分の取消によって生ずる不利益と取消をしないことによって当該処分をそのまま維持することの不利益とを比較考量」していないのであり,「当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められる」とする正当な判断根拠も全く存在しない。したがって,この6月11日決定は,正当な自庁取消に該当せず,門真市役所の中本正秀企画部長(以下「中本企画部長」という。)が独断と偏見で思いつき,恣意的に決定したものであって,違法・不当なものであるから,これを取り消し,当初の6月7日決定に従った情報開示がなされなければならない。すなわち,6月11日決定は,6月7日決定で本件代表者氏名等の開示が決められたのに,中本企画部長が6月8日になって突如として思いつき,独断専行的に前日の6月10日会議と同様に,同市役所の辻光治情報政策課長(以下「辻情報政策課長」という。)と2人だけで進めた結果であって,検討に要した時間は2日間で合計わずか30分程度にすぎず,会議記録もとらず,条例の手引すら検討せず,公益法人か否かなどの団体ごとの検討も一切せず,当該団体の意向の調査や府内各市での開示状況も考慮せずに,本件条例にない逆転不開示を決定したものである。

(4)虚偽公文書作成罪の成立 

 第1審被告は,第1審原告に交付する目的で,6月11日決定について通知書の日付を敢えて6月6日若しくは6月7日と日付を偽造した通知書を作成して公印を押したものであり,この事実は動かし難い(この公文書は正式な決裁を経たものであり,第1審被告が組織的・意図的に作成したことも動かし難い。)。第1審被告のその作成目的が「本件条例の規定に従った正当
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な開示決定の公文書を回収して消滅させてしまうこと」と,「本件条例で定めた回答期限を過ぎてから作成した文書をあたかも期限内に作成したかのように見せかけること」であり,それをもって違法な情報隠しの正当化を図ろうとするもので違法性が高いから,虚偽公文書作成罪は十分に成立する。

(5)偽計業務妨害罪の成立 

 市議会議員が市議会で質問することは,かなり重要度の高い業務に当たる。これを妨害することは業務妨害に該当する。議員が質問通告してある事案に関して行政側が議員から事実の提出や説明を求められているのに嘘をついたり,事実を隠したり,正常に質問原稿を作成する時間的余裕を阻害したりすることは,事実に基づいた質問とそれへの答弁を受けての再質問を議員ができないようにしてしまうものであり,十分に業務妨害罪を構成する。その具体的事実関係は次のとおりである。中本企画部長,辻情報政策課長ら第1審被告の幹部は,本件事件を平成14年6月20日の最終本会議の一般質問の通告項目に入れてあるのを承知の上で,6月11日決定の通知書が日付偽造文書であるという重大事実を6月19日夜9時まで第1審原告に隠し通し,第1審原告からの再三の通知書引渡要請には,その都度その場逃れの嘘を意図的につき続け,中本企画部長らが日付偽造文書の事実を明らかにしたのは,質問前日の夜9時からであり,しかも日付偽造文書自体は廃棄されて第1審原告の手に入らず,そこに何が書かれていたかは分からない状態にされていたのであるから,市議会での質問によって行政のチェックを図るという市議会議員にとって最も重大な業務を市幹部の嘘によって妨害されたものであり,偽計業務妨害罪が成立するというべきである。

(6)録音テープの証拠能力について 

 相手方の了承なしに録音したことについて問題とされるのは,私人間の(とりわけ私的な)会話の場合などであって,本件のように,第1審被告の公的機関がその行う公務に際して,公務としての説明や回答をしている場合に,
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相手方(第1審原告)が録音することは,たとえ公的機関(第1審被告)側の了承を求めなかったとしても,何ら問題(違法)となるものではない。それは,公的機関の公務という性質上,自明のことである。

4 第1審被告の主張(控訴理由)

(1)権利の濫用 

 第1審原告は,各実施機関に対する開示請求に及んだ段階で,既に市議会議員として議員に配布された資料から当該各団体の代表者氏名を熟知していたのに,敢えて第1審被告に対する開示請求を行った。既に熟知している情報を更に新たに開示せよと迫ることは,如何に市民としての立場によるとはいえ,先ず,その必要性が存在するのかが問題である上,明らかに権利の濫用であり許されない。加えて,その開示請求の前には,既に事前に得ていた同じ情報により,個人を誹誘中傷するビラを不特定多数人に配布していたのであるから(第1審原告は,本件条例第4条についての「この条例により得た情報を第三者の権利を不当に侵害することのないように社会生活上の良識に従って適正に使用しなければならない」との解釈に反する行為に出ることが十分に考えられた。),第1審被告の担当部局の職員が第1審原告による更なる誹誘中傷に繋がってはと,開示に慎重にならざるを得ず,その故に各実施機関は,一旦開示決定をした当該情報を自庁取消により不開示としたものである。

(2)社団法人大阪府公衆衛生協力会門真支部,社団法人門真市社会福祉協議会の代表者氏名及び役員氏名については,条例6条1号ただし書アに定める個人情報の除外事由に該当せず,実施機関による不開示処分は適法である。 
 
これらの法人が公益法人であっても,本件条例上の実施機関が平成8年9月20日閣議決定である「公益法人の設立許可及び指導監督基準」に従わなければならないわけではない。上記閣議決定ないし見解は,公益法人に対する国の監督基準であり,第1審被告に対する指導基準ではないから,第1審
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被告が保有する情報については,第1審被告が独自に定めた本件条例に基づいて実施機関が判断すれば足りることである。

(3)守口門真商工会議所の役員氏名について

  守口門真商工会議所が自らのホームページ等によって役員氏名を公表して いるとしても,自らの判断において自己の情報を開示することと,本件条例上の実施機関が他者である守口門真商工会議所の役員氏名を開示することとは別の事柄であるから,本件条例の規定に従って独自にこれを不開示とした実施機関の処分は適法である(他者が,自ら行う億報の公開ないしは開示と,門真市が保有する情報を条例に従って開示することとは別の事柄である。)。

(4)第1審原告提出の録音テープ及びその反訳書の証拠能力について

  民事事件においても,密かに相手との会話を録音した録音テープ(甲123,125及びその反訳書甲124,126)を証拠として提出することは違法である。したがって,その録音テープ及びその反訳書には証拠能力がない(第1審原告は録音テープを録るについて議員の公務であるから相手の同意は不要と考え,同意をとっていないことを自ら認めた。本件訴訟は,第1審原告が議員としての立場で提起したのではなく,個人の立場で提起したものであるから,通常の採証法則によって判断されるべきである。)。

第3 当裁判所の判断

1争点(1)(6月11日決定の内容は違法か。)について

(1)本件代表者氏名等(各団体の代表者及び役員の氏名及び住所)が個人情報に該当するかということについて検討する。
  上記前提となる事実のとおり,本件条例6条1号本文は,不開示とすることができる個人情報について文言上何らの制限を加えておらず,同号ただし書アないしウにおいて,公開により個人のプライバシーを害するおそれがないか又はあるとしても受忍すべき範囲内にとどまるというべき情報を列挙し,これらを不開示情報から除外している。
                      
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 本件条例がこのような規定方法を採用したのは,プライバシーという必ずしも内容が明らかでない概念を用いて不開示情報を限定するよりも,個人情報を一般的に不開示としつつ除外事由を具体的に列挙し,ある情報が当該除外事由に該当するか否かを判断する方が,より判断の客観性を確保しうるためであると考えられる。
  このような本件条例6条1号の趣旨にかんがみると,個人情報とは,当該個人が公務員か否かまた組織体の構成員であるか否かにかかわらず,各個人に関する一切の事項についての事実,判断,評価等すべての情報をいうと解するのが相当であり,このような個人情報のうち,開示すべき情報か否か,すなわち個人のプライバシーを侵害するおそれがないか又はあるとしても受忍すべき範囲内にとどまるか否かは,専ら同号ただし書アないしウの除外事由に該当するか否かにより判断すべきである。
  これを本件についてみると,本件代表者氏名等は,いずれも,各団体の代表者及び役員という個人に関する情報であることは明らかであるから,いずれも個人情報に該当するというべきである。

(2)本件代表者氏名等が,本件条例6条1号ただし書アないしイ記載の除外事由に該当するかということについて検討する。

ア 代表者氏名について
本件条例6条1号ただし書アは,「法令若しくは条例の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」を除外事由と規定しているが,このような情報が不開示情報から除外される趣旨は,法令の規定により公にされている情報や慣行として公にされている情報は,−般に公表されている情報であり,これを公開することにより,場合により個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても受忍すべき範囲内にとどまるものと考えられるからであると解される(本件手引書12頁にも同旨の記載がある。)。
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これを本件28団体の代表者氏名についてみるに,代表者氏名は,個人情報に該当する情報ではあるものの,各団体が何らかの意思表示等を行う際,各団体における現実の行為者を対外的に明らかにするために提示することが通常予定されているものであり,かつ代表者氏名の有するこのような特質は,団体の性質にかかわらず,本件28団体すべてに共通するものというべきである。したがって,本件28団体の代表者氏名は,これを非開示とする必要があると解すべき特段の事情がない限り,公にすることが予定されているものというべきである。
  しかるところ,本件28団体は,第1審被告と守口市の合併問題という公共性が極めて高い事項に関する要望書を門真市長という公の機関に提出したものであり,しかも,本件要望書には,本件28団体の名称に加え各団体の代表者氏名が記載されているのであるから,各団体の代表者氏名を含め本件要望書の内容を非公開とする必要性は乏しいものとい うべきである。
  以上によれば,本件28団体の代表者氏名につき前記の特段の事情がないことは明らかであり,各代表者氏名は,慣行により公にすることが予定されている情報であって,同号ただし書アの除外事由に該当するというべきである。  

イ 代表者住所について
  代表者住所は,代表者氏名と異なり,各団体が何らかの意思表示等を行うに際し現実の行為者を対外的に明らかにするために提示すべき情報とはいえず,むしろ私的情報としての側面を強く有しているものであると解される(本件要望書にも,代表者氏名以外は記載されていない。)。
  また,住所は個人の私的生活の場そのものに関する情報であり,いったん公開された場合に個人が受ける不利益も氏名と比較して大きいものである。したがって,氏名と異なり,各代表者住所は,他にただし書ア
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の除外事由に該当する事由が認められない限り,ただし書アに該当しないというべきである。
 なお,第1春原告は,団体の代表者及び役員の連絡先(住所)の開示を求めたのであり,自宅住所の開示が望ましいが,必ずしも絶対にそれにこだわっているのではなく,団体の中には,「事務所は市役所(教育委員会)内に置く」とするものや,独立した事務所を持っているものもあり,その事務所住所を代表者の連絡先として開示するとの判断がなされても特段奇異ではなく,また,個人の住所全てではなく「00町」とか[
00町○番地」までしか開示しないとかの工夫も考えられるから,団体代表者及び役員の連絡先(住所)を代表者の住所に一面化して判断するのは相当ではないと主張する。しかし,団体が「事務所は市役所(教育委員会)内に置く」とするものや,独立した事務所を持っているものがあると考えられるとしても,その代表者及び役員について自宅住所以外の連絡先を定めている例は少なく,しかもこのような個人の連絡先が団体の事務所以外となっている例は極めて少ないと推測される。本件28団体の代表者において団体事務所以外の連絡先を定めている者の存在は明らかでない。そうすると,本件の場合,第1審原告が代表者の連絡先(住所)として開示請求をしたとしても,個人情報の不開示除外事由の存否の判断においては,上記のとおり代表者の住所をもって判断するほかない。また,「住所」「連絡先」との表示に照らすと,この「連絡先」とは,代表者及び役員の個人としての連絡先をいうものと解され,第1審原告が当審で主張するように団体事務所等を観念するものとは解し難い。そして,個人としての連絡先は個人情報として,やはり開示の対象にならない。次に,個人の住所を全てではなく「00町」とか「00町○番地」の限度で開示することは,門真市程度の規模の地方公共団体においては,他の一般に知られた情報と照らし合わせることによって容易
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に個人及びその住所を特定できることになる。したがって,第1審原告の上記主張は採用できない。

ウ 役員氏名について
代表者以外の役員は,代表者と異なり,各団体を代表するものでないから,各団体が何らかの意思表示等を行う際に現実の行為者を明らかにするために提示することが予定されていないことは明らかである(本件要望書にも役員氏名は記載されていない。)。したがって,このような事情のもとにおいては,他にただし書アの除外事由に該当する事由が認められない限り,役員氏名はただし書アの除外事由に該当しないというべきである。

エ 上記のとおり,本件28団体の代表者住所及び役員氏名は,ただし書アの除外事由に当然に該当するとは認められないので,当該団体の特殊性等から,それがただし書アの除外事由に該当するかということについて検討する。

(ア)社団法人門真市社会祉協議会は公益を目的とする法人であるところ,公益法人の役員名簿は,「公益法人の設立許可及び指導監督基準」(平成8年9月20日閣議決定,平成9年12月16日一部改正)7条において,「主たる事務所に備えて置き,原則として,一般の閲覧に供すること」とされており(甲41),また,当時の総理府内閣総理大臣官房管理室公益法人行政推進室は,役員名簿の必要的記載事項は,登記事項である役員氏名及び住所である旨(民法46条1項),及び「一般」とは「どのような人からもという趣旨」である旨回答しており(甲42),公益法人の役員名簿は,行政指導により,既に一般に公開されていることが認められる。
上記によると,前記社団法人の役員名簿は,「公益法人の設立許可及び指導監督基準」に従って既に公開されているのであるから,両者の役
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員氏名及び代表者の住所を開示することにより,場合により個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても,それは受忍すべき範囲内にとどまるものというべきである。
  したがって,社団法人門真市社会福祉協議会の代表者住所及び役員氏名は,本件条例6条1号ただし書アの除外事由に該当する。この点につき,第1審被告は,「平成8年9月20日閣議決定の『公益法人の設立許可及び指導監督基準』は,公益法人に対する国の監督基準であり,第1審被告に対する指導基準ではないから,第1審被告が保有する情報については,第1審被告が独自に定めた本件条例に基づいて実施機関によって判断されれば足りる。」旨主張する。地方公共団体である第1審被告が本件条例の執行にあたって閣議決定に直接に拘束されることはないが,本件条例6条1号ただし書ア「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」の解釈適用にあたっては,上記条例の「慣行」あるいは「公にすることが予定されてる」という文言からみて,実施機関は,上記閣議決定の趣旨内容や公益法人の代表者の住所氏名や役員の氏名が登記事項として公にされ,又は公にすることが予定されていることは考慮に入れるべきことである。第1審被告の上記主張は,前記説示に照らして採用することができない。
  ところで,社団法人大阪府公衆衛生協力会門真支部は,公益法人そのものではなく,同法人の一支部に過ぎない(乙21。なお,甲28の4を検討しても,同支部自体が法人格をもち,あるいは支部として法人登記をしていることは窺えない。)から,本件28団体の一つとし て(2)アのとおり支部代表者の氏名の開示がなされるべきであるが,その代表者住所及び役員氏名については,上記閣議決定等を考慮しても本件条例6条1号ただし書アに該当すると解することは困難である。

(イ)守口門真商工会議所について検討する。
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証拠(甲23の1ないし4)によれば,守口門真商工会議所は,自らのホームページ,自ら発行している「商工会議所ニュース」及び図書館で閲覧できる資料によって役員氏名を公表していること,これらにおいても,守口門真商工会議所の代表者(会頭)住所は公表されて  いないこと,上記の情報は何人でも入手可能であることが認められ,上記の情報において役員氏名を公表することについては,当該役員もこれに同意していることが推認される。
  このように,守口門真商工会議所の役員氏名が一般に何人でも入手可能な情報において公表され,そのことを当該役員が同意していることからすると,守口門真商工会議所の役員は,その氏名につき,一般にその情報を公表することに同意しているものと考えられ,そうであるなら,その氏名を開示することにより,場合により個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても,それは受忍すべき範囲内にとどまるものというべきである。
  したがって,上記役員氏名は,ただし書アにいう「慣行として公にされている情報」として,個人情報の除外事由に当たるというべきである。 なお,この点につき,第1審被告は,「守口門真商工会議所が自らの判断においてホームページ等によって自己の情報を開示することと,第1審被告が他者である守口門真商工会議所の役員氏名を開示することとは別の事柄であるから,門真市情報公開条例の規定に従って  独自にこれを不開示とした実施機関の処分は適法である。」旨主張するが,上記認定説示のとおり,上記役員氏名は,当該団体も当該役員も共にその役員氏名を開示することに同意しているものと考えられ,上記役員氏名は「慣行として公にされている情報」(ただし書ア)として個人情報の除外事由に当たるとみるのが相当であるから,本件条例上の実施機関である門真市長としても,これを不開示とせず,開示する
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べきものである。第1審被告の上記主張は採用できない。他方,守口門真商工会議所の代表者住所は上記情報においても公表されておらず,他に,それがただし書アに定める個人情報の除外事由に該当すると認めるに足りる証拠はないから,それが個人情報の除外事由に当たるということはできない。

(ウ)門真市消防団について検討する。
a 門真市消防団の団員は地方公務員である(消防組織法15条の6,地方公務員法3条)。同消防団員の役員にいかなる者が含まれるかについて,第1審原告は,団長のほか,少なくとも副団長,分団長及び副分団長もこれに含まれる旨主張するが,分団長及び副分団長は消防団全体ではなくその所属する分団の責任者にすぎないと考えられ,また,平成14年度門真市消防団本部名簿(甲28の8)に記載されているのも,団長及び副団長のみであるから,分団長及び副分団長は役員には該当しないと認められる。消防組織法には,15条の3に,消防団長は消防団の事務を統括し所属の消防団員を指揮監督するとの定めがあるが,副団長に関する定めはないから,副団長を代表者と解することはできず,したがって,副団長の氏名は,本件条例6条1号ただし書アに該当すると解することはできない。
  なお,第1審原告は,消防団長や役員人事の透明さ公明正大さの確保の見地から,団長のみならず役員の氏名まで開示すべきである旨主張するが,消防団の役員の範囲は前記のとおりであり,また,消防団役員の個人情報の開示を求めることが,消防団の人事の公正等の確保に仮に資する可能性があるとしても,本件条例上考慮すべき要件とはいえないから,第1審原告の前記主張は採用できない。

b 第1審原告は,門真市消防団の役員の氏名は本件条例6条1号ただし書イ「公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職に
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関する情報」に該当する旨主張する。
  しかしながら,同号ただし書イにいう情報とは,その文言上,当該公務員の有する職務権限に基づく具体的な職務遂行行為と直接関 連性を有する情報(例えば,職務としての会議への出席,発言その他の事実行為に関する情報等)に含まれる当該公務員の職,すなわち職務行為における公務員としての立場に関する情報を指すものと解するのが相当である。したがって,何ら具体的な職務行為を前提としない公務員の職に関する情報が非開示とされるべき個人情報から除外されるものではなく,まして,公務員個人の氏名が除外されることはないというべきである。そして,本件では,同消防団役員の具体的な職務行為が前提とされているわけではなく,しかも,第1審原告が求めているのは,当該公務員の職に関する情報ではなく, 公務員の氏名であるから,そのような情報につきただし書イは適用されないというべきである。
  なお,第1審原告は,何ら具体的な職務行為を前提としない公務員の職に関する情報についても,第1審被告が「広報かどま」による門真市の人事異動の公表を通じて,十数万人規模の全市民に対して開示してきている(門真市職員の課長級以上の職員の氏名と職名を市広報で公表している。)旨主張するが,第1審被告が「広報かどま」を通じて全市民に上級職員の人事異動の公表として職員の氏名と職名を市広報で公表しているからといって(同じく職員氏名の情報の開示といっても,人事異動の際の公表と本件条例6条1号所定の開示とはその目的,性質及び要件が自ずから異なるものであって,これを同一に断ずることはできない。),そのことをもって,本件条例6条1号ただし書イの文言解釈上,公務員個人の氏名が非開示とされるべき個人情報から除外されるものと解するのは相当でないから,第1審原告の上
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記主張は,これを採用するに由ないものというべきである。
  したがって,門真市消防団について,代表者である団長を除き,副団長,分団長,副分団長の氏名は本件条例6条1号ただし書ア及びイ に該当しないから,不開示とした各実施機関の決定に違法はない。

(エ)次に,本件28団体のうち,上記(ア)ないし(ウ)で検討した社団法人門真市社会福祉協議会,守口門真商工会議所及び門真市消防団以外の団体の代表者住所及び役員氏名が,本件条例6条1号ただし書の各除外事由に該当すると認めるに足りる証拠はない。
  なお,証拠(甲24,25の1,2,27の1ないし3,63,71)によれば,第1審原告が第1審被告に対する情報公開請求以外の方法で入手した本件28団体の代表者住所又は役員氏名が記載されている文書が存在することが認められるが,これらはいずれも公表される場面や相手方が限定されたものであるから,これらの証拠をもって,各団体の代表者住所又は役員氏名が本件条例6条1号ただし書ア所定の事由に該当するとは認められない。第1審原告は,甲71をもって一般に公開されている証左と主張するが,なお不十分である。

(3)ア 第1審原告は,閣議決定で役員の情報公開が義務付けられている公益法人と自らホームページなどで役員情報を公開している団体の役員氏名の不開示だけを違法であるとし,それ以外の団体の役員情報については,公金支出の説明責任や,公益との比較考量も検討することなく,全て個人のプライバシーを理由に不開示とするのは不当であると主張する。
  しかし,本件条例は,その文言,制定の趣旨からみて,個人の住所氏名等の個人情報は,原則として不開示とし,本件条例6条1号ただし書に該当する場合に不開示情報から除外すると定めていると解されるから,上記ただし書以外の公金支出の説明責任や,公益との比較考量に基づく除外を認めることは,本件条例の解釈として相当でない。
                        一19 −

 

イ 第1審原告は,第1審被告が補助金,助成金を出している団体に関してその代表者氏名,住所及び役員氏名が開示されなければ,議員のみならず市民一般に対する説明責任を果たさないことになるから,この点でも本件28団体の代表者氏名,住所及び役員氏名は開示されるべきであると主張する。
  しかしながら,本件28団体が第1審被告から補助金又は助成金の交付を受けていたとしても,そのことのみを理由に,本件条例6条の文言に関わりなく代表者氏名,住所及び役員氏名を開示すべきであるとは解 することはできない。本件条例に基づく公文書の開示請求のうち,住所,氏名等の個人の情報については,本件条例6条により開示の要否が検討されなければならない。第1審被告から補助金又は助成金の交付を受けている団体は,全く私的な団体と較べると公に活動していることが多いから情報が多くの人に知られている可能性があるものの,住所,氏名は個人情報の基本で,慎重な取扱いを要することから,本件条例6条によ り不開示の除外事由に該当する場合のみ開示を要するというべきであり,第1審原告の上記主張は採用できない。
  第1審原告は,第1審被告から補助金を受けている団体のなかでも市議会で議員に配付された資料(「平成12年度主な50万円以上の各種助成団体決算書」,甲27の1ないし3)に記載された団体(社団法人門真市社会福祉協議会,門真市老人クラブ連合会,守口門真商工会議所,門真市人権啓発推進協議会,門真市婦人団体協議会,門真市体育協会)については当然に開示情報とされるべきである旨主張する。しかし,市議会における議員に対する資料提供と,本件条例に基づく開示請求とは場面を異にしており,公開されている市議会において議員に配付された情報であるからというだけで,何人にも閲覧可能な情報とまではいえないし(公表される場面や相手方が限定されている。),当然に,本件条例6条1号ただし書
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アの除外事由に該当する開示すべき情報に当たるとするのは相当でないから,第1審原告の上記主張は採用できない。
ウ 第1審原告は,情報不開示の規定は公開禁止規定ではなく,本件条例は,不開示情報であっても,公益上の理由があるときは実施機関の裁量により公文書を開示することができると定めている(8条)から,それによらなかった6月11日決定は違法であると主張する。本件条例8条には,不開示情報であっても,公益上の理由があるときは実施機関の裁量により公文書を開示することができるとの定めがある。しかし,本件条例は,実施機関は,通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公にされることのないように最大限の配慮をしなければならないと定めており(3条),個人の氏名あるいは住所は,個人の基本的な情報で,一度開示されると秘匿することが困難となるものであり,実施機関の裁量により開示するにふさわしい情報ということはできないから,本件の場合に実施機関の裁量により開示をしなかったことが違法であるとはいえない。
エ 第1審原告は,本件代表者氏名等が本件条例6条2号の不開示事由に該当しない旨主張する。しかし,第1審被告は,本件代表者氏名等が本件条例6条2号の不開示事由に該当するとの抗弁を主張していないのであるから,この点については判断の限りでない。

(4)以上によれば,本件28団体の代表者氏名,社団法人門真市社会福祉協議会の代表者の住所,役員氏名,守口門真商工会議所の役員氏名は本件条例6条1号ただし書アの除外事由に該当するから,6月11日決定は,これらの各情報を不開示とした限度において違法である。

(5)第1審被告は,「第1審原告が開示請求に及んだ段階で,既に市議会議員として配付された資料から本件28団体の代表者氏名を熟知していたのに,敢えてその情報を開示せよと迫ることはその必要性もなく,明らかに権利の
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濫用であり許されない。」旨主張するが,第1審原告が上記の経緯から既に当該情報を議員としての立場で知っていたとしても,そのことは,第1審原告が本件条例における情報公開制度を利用することを何ら妨げるものではなく,これを捉えて権利の濫用ということはできないから,第1審被告の上記主張は採用することができない。
  また,第1審被告は,「第1審原告は,開示請求の前には,事前に得ていた同じ情報により個人を誹誘中傷するビラを不特定多数人に配布していたのであるから,条例第4条(利用者の責務規定)た反する行為に出ることが十分考えられた。」として本件開示請求を権利の濫用である旨主張する。しかし,本件条例における情報公開制度は,開示請求者を市の区域内に住所有する者その他の者と定め(5条),利用者の責務として「この条例の定めると  ころにより公文書の開示を求めるものは,この条例の目的に則してその権利を正当に行使するとともに,公文書の開示により知り得た情報を適性に使用しなければならない。」(4条)と定めているが,開示請求の目的,開示された情報の利用目的等に関する具体的な規制の定めはなく,実施機関は,開示請求自体が上記利用者の責務に違反することが明らかな極端な事例でない限り,本件条例上の不開示事由に該当しない情報については,当該公文書の開示を拒むことはできないと解される。乙1によれば,第1審原告が自己の所信に基づき門真市政に関する活動を繰り広げており,第1審被告の行政に極めて批判的な言論を展開していることが認めるものの,本件開示請求が本件条例に基づき,合併推進要望書を提出した団体の代表者及び役員等に関する公文書の開示を求めるもので,その請求自体が個人を誹誘中傷することを目的としてなされたものであることを認めるに足りる証拠はなく(乙1,2  3の1,2をもってしては本件開示請求自体が上記利用者の責務に違反するものであると認めることができない。),他に当該公文書の開示により知り得た情報を不正に利用する目的があることを認めるに足りる証拠はないか
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ら,第1審被告の上記主張も採用できない。
  むしろ,証拠(乙1,21,22,23の1,2,当審証人中本正秀)によれば,各実施機関は,個人情報の開示の行き過ぎの是正を図ろうとしただけでなく,第1審原告の守口市と第1審被告との合併に反対する立場からの積極的な活動を嫌悪するとともに,同合併の推進を要望した本件28団体についてその代表者の氏名等を第1審原告に開示すれば,第1審原告の同団体に対する非難,攻撃が強まるのではないか懸念したこともあって本件不開示決定をしたものと認められる。そうすると,前記(4)に説示した違法部分についての不開示決定は,単に本件条例6条1号ただし書アの解釈適用を誤ったというだけでなく,請求者の言動等の本件条例に根拠のない事由を考慮してなしたと推認され,国家賠償法1条1項上の違法性があると解される。
  なお,行政主体が国家賠償請求訴訟において,実施機関のした不開示決定  当時の理由以外の不開示の理由を追加して主張することは許されるから(行政主体は,なされた行政処分が客観的に適法であると主張することが許され
,実施機関が当時どのような理由を主張していたかは国家賠償法上の違法とは関係がない。),第1審被告が本件訴訟において不開示の理由として第1審原告の権利の濫用を主張することは違法とはいえない。

 2 争点(2)(6月11日決定の手続は違法か。)について 

(1)6月7日決定を取り消したことは手続的に違法であったかということについて検討する。

ア 行政庁が,行政行為の相手方その他私人の側からの法的な請求を待たず,自発的に,行政行為が違法又は不当であったことを理由として,当該行政行為を取り消す行為を,一般に自庁取消という。
  本件条例はもとより,国家行政組織法,地方自治法その他一般の行政に関する法令に自庁取消を認める明文の規定はないが,処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁が,自らその違法又は不当を認めて,その
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処分の取消によって生ずる不利益と取消をしないことによって当該処分をそのまま維持することの不利益とを比較考量し,当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められる場合には,これを取り消すことができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和43年11月7日第一小法廷判決・民集22巻12号2421貢参照)。
イ 本件において,各実施機関は,6月11日決定により,自ら行った6月7日決定のうち,本件代表者氏名等を不開示情報と判断し,その開示を取り消しているから,第1審被告の行為は,自庁取消に該当する。
  6月11日決定のうち,本件28団体の代表者氏名,社団法人門真市社会福祉協議会の代表者住所及び役員氏名,守口門真商工会議所の役員氏名(以下当該部分を「本件違法部分」という。)は本件条例6条1号ただし書の除外事由に該当するが,その余の部分については,同号ただし書の除外事由に該当せず,個人のプライバシー保護の観点から開示が許されないことは前記認定のとおりである。
  したがって,6月7日決定は,本件代表者氏名等のうち本件違法部分以外を開示した限度で,本件条例に違反し違法であるというべきである。そして,本件で問題となっている本件代表者氏名等は,氏名及び住所という最も基本的な個人情報であり,これらが違法に開示されると,開示された個人は容易にその特定がされ,場合によっては不特定多数に自己の私生活の場を知られる可能性があるなど大きな不利益を被るおそれがある。
  他方,第1審原告は,6月11日の時点では未だ何らの情報開示を受けておらず,6月7日決定の本件違法部分を取り消したとしても,開示を期待していた部分について取消を受けたというに止まり,それ以上に不当な不利益を被ったわけではない。
  これらの事情にかんがみると,6月7日決定をそのまま放置することは公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められる。
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ウ 以上によれば,第1審被告が,本件代表者氏名等のうち本件違法部分を除いた部分については,これを自発的に取り消すことは適法かつ妥当な措置であり,他方,本件違法部分については,これを開示するとした6月7日決定はもとより違法ではないから,これを取り消すことは違法であって許されず,6月11日決定のうち,本件違法部分に関しては,実体的のみならず手続的にも違法というべきである。

(2)決定期限の徒過により6月11日決定が違法になるかということについて検討する。

ア 本件条例は,開示請求があったときは,当該開示請求書を受理した日から15日以内に開示をするかどうかの決定をしなければならない旨規定し(本件条例11条1項),事務処理上の困難等正当な理由がある場合には,延長の理由及び期間を請求者に対し書面により通知した上で,30日を限度としてその期間を延長できる旨規定している(同条2項)。
  本件では,6月11日決定を行った平成14年6月11日は,第1審原告が本件情報開示請求を行った同年5月23日から16日以上経過していることは明らかであり,かつ,各実施機関が延長の理由及び期間を請求者に対し書面により通知していないことは当事者間に争いがないから,本件条例11条2項の要件を満たしていないことは明らかである。
イ これに対し,第1審被告は,6月11日決定は,全体としてみれば6月7日決定の変更であり,6月7日決定の時点では15日以内の期間制限内であったから,全体としてみれば決定期限を遵守している旨主張する。
  しかし,6月11日決定は,6月7日決定の重要部分を変更しているか ら,少なくとも変更された本件代表者氏名等については新たな決定がされたことが明らかであり,6月11日時点で上記期間を徒過している以上,新たな決定がされた部分については,同条項の要件を満たしていないといわざるを得ない。
                      − 25 −


もっとも,前記(1)に説示したとおり,行政庁は,一定の場合に自己が行った決定を取り消すことができると解すべきであるが,本件条例のような期間制限が存在すれば,その制限を徒過した以上,違法な行政行為によりいかなる利益が侵害されてもおよそ取消が許されないとすることは相当でない。本件のような期間制限が存在する場合であっても,期間経過の程度,処分の取消によって生ずる不利益と取消をしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し,当該処分を放置することが公共の福祉に要請に照らし著しく不当であると認められる場合には,期間の経過後であってもなお取消が許されるものと解すべきである。
ウ 以上を前提に検討するに,本件では,前記(1)に説示したとおり,6月7日決定が維持されると,個人は,開示された情報によって容易にその特定がされ,場合によっては不特定多数に自己の私生活の場を知られるおそれがあるなど大きな不利益を被ることになる一方,取消を行った場合に第1審原告が受ける不利益は期待権の侵害程度でさほど大きくないことに加え,6月11日決定は,本件条例2条の定める期間を4日徒過したにすぎず,期限徒過の程度は大きいとはいえない。これらの事情にかんがみると,本件条例2条の期間制限を考慮したとしても,6月7日決定を放置することは公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められる。
  したがって,本件代表者氏名等のうち本件違法部分を除いた部分につき6月11日決定でこれを取り消したことは適法であると解される。
  なお,本件違法部分についての決定が,実体的のみならず手続的にも違法であることは前記(1)に説示したとおりである。

(3)以上によれば,6月11日決定は,6月7日決定のうち本件違法部分の開示決定を取り消した限度において,手続的にも違法というべきである。

(4)第1審原告は,6月11日決定がなされた経緯につき,「この6月11日
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決定は,自庁取消としての要件を全く欠き,正当な自庁取消に該当せず,中本企画部長が独断と偏見で思いっき,恣意的に決定したものであって違法・ 不当なものである。」旨主張するが,上記主張を認めるに足りる証拠はないばかりか,かえって,証拠(甲30の1,2,乙21,当審証人中本正秀)によれば,6月11日決定は,6月7日決定以降に,前記1(5)のとおり開示請求者である第1審原告の言動を嫌悪していたほか,6月7日決定に開示の行き過ぎがあることを是正するために,第1審被告の担当者らの間で協議し,検討した結果,各実施機関において最終的に自庁取消として決定されたものであることが認められ,前記1(5)のとおり開示請求者である第1審原告の言動を嫌悪し,本件条例に規定された以外の理由によって本件違法部分について不開示決定をしたものの,それ以外の部分については本件条例6条1号に基づく個人情報の保護を図ったもので特段の違法は認められないから,第1審原告の上記主張は採用することができない。

3 争点(3)(その他の問題点(内容虚偽の文書及び偽計業務妨害))について

(1)第1審原告は,第1審被告が平成14年6月11日にした6月11日通知書(日付は6月7日付け)の作成は内容虚偽の文書の作成であり,また,6月11日通知書の目付けが同月7日であることを同月19日の午後9時になって初めて第1審原告に明らかにし,6月11日通知書の原本を廃棄したことなどは第1審被告の偽計業務妨害行為であって,これらは第1審原告に対する違法行為に該当する旨主張する。
  そこで検討するに,前記引用の原判決第2の2(7),(8)記載の事実及び証拠(甲9,30の1,2)によれば,第1審被告は当初,第1審原告,同被告間において,6月7日の段階から6月11日決定のとおりの決定がされたという扱いにするため,第1審原告に対し,6月7日付通知書を6月11日通知書に差し替えるよう申し出たところ,第1審原告がその申出を断ったため,その時点で,6月11日決定に係る正式の通知書をそれより前の日付で作成
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することはできないため,6月11日決定の内容につき6月19日付通知書を作成してこれを第1審原告に交付したものであると認められる(なお,第1審被告は,6月11日通知書は不成立文書であると主張するが,実施機関による決裁がされている(甲30の1,2,弁論の全趣旨)以上,文書そのものが成立していることは明らかである。) 。
  このように,自庁取消を行いながら,6月7日決定の通知書である6月7日付通知書を内容の異なる6月11日通知書と差し替えることにより自庁取消に代替させることは,たとえ行政行為の相手方一である第1審原告が同意したとしても,許されるものではないというほかない。しかしながら,第1審原告は差替え申出を拒否する自由を当然に有しており,現に拒否しているのであって,第1審原告に対し6月7日付通知書と6月11日通知書との差替  えを申し出る行為それ自体は第1審原告の権利利益を何ら害するものではないのであるから,それが第1審原告との関係において国家賠償法1条1項所定の違法行為となるとは認められない。
  また,6月11日決定に係る正式の通知書は6月19日付通知書として存在するのであるから,第1審被告担当者が第1審原告に対し6月11日通知書の日付部分の記載内容を説明しなかったり,6月11日通知書の原本を保存しておかなかったからといって,それが第1審原告に対する関係で国家賠償法1条1項所定の違法行為を構成するものと解することはできない。
  したがって,これらの点に関する第1審原告の主張は採用できない。

(2)第1審原告は,「第1審被告は,第1審原告に交付する目的で6月11日に行った逆転不開示の新たな決定(6月11日決定)の日付を敢えて6月6日若しくは6月7日と日付を偽造した通知書を組織的・意図的に作成したものであるから,虚偽公文書作成罪が成立する。」旨主張するが,前記認定説示のとおり,第1審被告は,当初,便法として,6月7日付通知書を6月11日通知書に差し替えるように申し出たが第1審原告がこれを拒否したため,自庁取消と
                       − 28 −


しての新たな6月11日決定を行ったものであり(同決定には実施機関による決裁がされている。),同決定を文書化して作成した6月19日付通知書を第1審原告に交付したものであることが認められる(6月11日通知書の原本は保存されていなかった。)。以上認定の事実に照らせば,6月11日決定に係る正式の通知書は6月19日付通知書であると認められ,6月11日決定に係る通知書の日付部分の記載内容に食違いがあることや,そのことにつき第1審  被告担当者が十分に説明をしなかったとしても,これにより,第1審原告との関係で国家賠償法1条1項所定の違法行為があるということはできないから,第1審原告の上記主張は採用することができない。

(3)第1審原告は,「中本企画部長,辻情報政策課長ら第1審被告の幹部は,本件事件を平成14年6月20日の最終本会議の一般質問の通告項目に入れてあるのを承知の上で,6月11日通知書が日付偽造文書であるという重大事実を質問前日の6月19日夜9時まで第1審原告にその場逃れの嘘をつき続けて隠し通し,しかも日付偽造文書自体は廃棄されて入手できない状態にあったのであるから,議会での質問により行政のチェックを図るという議員にとって重大 な業務を上記市の幹部の嘘によって妨害されたものであり,偽計業務妨害罪が成立する。」旨主張するが,前記認定説示のとおり,6月11日決定に係る正式の通知書は6月19日付通知書であること,第1審原告主張の6月11日通知書が日付偽造文書(又は内容虚偽の文書)として国家賠償法上達法であるとはいえないこと,第1審被告担当者が,第1審原告の議会での質問等,その議会活動を妨害する目的をもって第1審原告に対し殊更6月11日通知書の日付部分の記載内容を説明しなかったという事実は,これを認めるに足りる証拠はないこと,第1審被告が,6月11日通知書の原本を保存しておかなかったからといって,前記認定の事実関係の下では,そのことが第1審原告に対する関係で国家賠償法1条1項所定の違法行為と評価することはできないこと等の諸点に照らせば,第1審原告の上記主張は失当というべきである。
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(4)なお,第1審被告は,「第1審原告は,相手方(第1審被告)の了承がなく 密かに会話の内容を録音した録音テープ(甲123,125,その反訳書は甲124,126)を証拠として提出しているが,同証拠は違法収集証拠であって証拠能力はないというべきである。」旨主張するが,上記録音は,実施機関が6月7日決定を自庁取消にして6月11日決定をした平成14年6月11日から同年7月ころまでの間に第1審被告の担当者が第1審原告と対応した際の公務上の会話の内容を上記担当者ら不知の間に第1審原告が録取したものであるにとどまり,いまだ上記担当者らの人格権を著しく反社会的な手段方法で侵害したものとまでいうことはできないから,上記録音テープ等は証拠能力を有するものと認めるのが相当であり,第1審被告の上記主張は採用することができない。

4 争点(4)(第1審原告の被った損害)について

(1)コピー代について
 証拠(甲45の1ないし8)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告がコピー代として5920円を出損したことが認められるが,6月11日決定において本件違法部分を不開示とした違法と第1審原告が上記のコピー 代を出損したこととの間に法的因果関係があると認めることはできないから,この点に関する第1審原告の主張は理由がない。
(2)紙,事務用品,印刷費用及び書面作成実費及び第1審原告が本件のために費やした労力
  第1審原告が,各実施機関の違法行為により紙代等や第1審原告の労力につき何らかの損害を被ったことは明らかであるが,何ら具体的立証がないため,これらは,慰謝料に含めて算定するのが相当である。

(3)慰謝料
  前記認定にかかる各実施機関による違法行為の内容(特に,請求者の言動等の本件条例上不開示の理由とすることができない事由を考慮して自庁取消
                       − 30 −


による不開示決定をなしたと推認されること,実体的及び手続的に違法があること),程度(本件28団体の多数に及んでいること),第1審被告の違法行為に対応するため第1審原告が費やした時間,労力等及びその他本件で認められる諸事情によれば,上記違法行為により第1審原告が被った精神的苦痛を慰謝するには30万円をもって相当と認める。

5小括

  以上によれば,第1審原告の請求は,慰謝料30万円及びこれに対する違法行為後である平成14年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でこれを認容することとし,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

第4 結論

  よって,これと結論を異にする原判決は一部不当であるから,第1審原告の控訴に基づき,原判決を上記のとおり変更し,第1審被告の控訴は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法67条,61条,64条を,仮執行の宣言につき同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

  大阪高等裁判所第13民事部

                   裁判長裁判官  井  土  正  明
                        裁判官  松  村  雅  司
                        裁判官  久保田   浩  史
                     
                      − 31−

    これは正本である。


          平成16年10月14日

        大阪高等裁判所第13民事部

            裁判所書記官 寺 西 健 一