平成14年(ワ)第8041号 損害賠償請求事件

原 告  戸 田 久 和

被 告  門 真 市

争 点 整 理 案 (第2版)

※ 争点整理案を改訂いたしました。改訂部分には下線を引いてあります。双方、補充・訂正の有無を確認して下さい。

平成15年3月3日

第1 請求

 被告は、原告に対し、83万5920円及びこれに対する平成14年8月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 本件は、原告が、被告に対し、被告の制定した門真市情報公開条例(以下「本件
   条例」という。)に基づき、平成14年5月8日に門真市長らに対し「合併推進要望書」
   を提出した団体について代表者の氏名住所等の情報公開を請求したところ、被告が
   一度開示決定したにもかかわらずその開示決定を違法に取り消し、被告が開示義
   務を負う上記団体の代表者氏名等についてほぼ全面不開示の違法な決定を行った
   ため、コピー代等の出損を余儀なくされ損害を被ったと主張して、国家賠償法1条に
   基づき、83万5920円及びこれに対する違法行為後である同年8月9日から支払済
   みまで年5分の割合による損害賠償請求を行なう事案である。

 2 前提となる事実(争いない事実等)

  (1) 当事者等

      原告は、門真市の区域内に住所を有しており、平成11年4月から門真市議
     会議員の地位にある者である。  被告は、本件条例を制定した地方公共団体
     である。
      本件条例は平成11年12月22日に制定され、平成12年7月1日から施行
     された。

  (2) 経緯等

     原告は、被告に対し(門真市市長及び同市教育委員会宛て)、平成14年5月
     23日、本件条例5条に基づき、同月8日に同市市長らに対し「合併推進要望書」
     を提出した別紙「一覧表」記載の団体を含む38団体について、平成 13年度及
     び平成14年度の@代表者の連絡先(住所)、A定款、B役員(理事)リスト、C
     総会・役員会(理事会)資料、議事録、D被告からの補助金や人員派遣の実態
     が分かる資料(又はその現物)に関する公文書について情報公開請求を行なった
     (甲8@及び同A。以下「本件情報開示請求」という。)
      被告は、同年6月6日 いし同月7日、上記38団体のうち、被告が情報を有して
     いる一覧表記載の28団体について、代表者の氏名・住所、役員の氏名、定款、
     総会資料等に関する公文書を開示する旨の情報開示決定を行ない(以下「6月7
     日開示決定」という。)、原告に対し、同月6日ないし7日付け「公文書開示決定
     通知書」(甲11@ないし同 42。以下「6月7日開示決定通知書」という。)を交付
     した(決定内容はおって整理します。)
      原告及び被告は、6月7日開示決定に先立ち協議を行ない、同月11日午後2
     時門真市役所別館2階情報コーナーにおいて写しを交付するなどの方法により
     情報開示を行なう旨合意しており、6月7日開示決定通知書には、上記合意に
     沿った開示方法が記載されていた。
      原告が、上記6月7日開示決定通知書の記載に基づき、同日同所に赴いたと
     ころ、被告は、原告に対し、6月7日開示決定のうち各団体の代表者の氏名・住
     所及び役員の氏名(ただし門真市会議員である消防団長を除く。)は本件条例6
     条1号に規定する個人情報に該当しその部分に関する開示決定は違法又は不
     当であるから、6月7日開示決定通知書を、各団体の代表者の氏名・住所及び
     役員の氏名を開示しない旨を内容とした同月6月7日付け「公文書不開示決定
     通知書」(甲31@ないし同23。以下「6月11日不開示決定通知書」という。)と
     差し替えるよう申し入れた(以下「6月11日不開示決定」という。)。
      原告は、上記差替申入れを拒否した。
      原告は、同日同所において、6月7日開示決定から代表者の氏名・住所及び役
     員の氏名を除いた部分について、情報公開を受けた。
      被告は、同月19日、改めて、一覧表記載の28団体について、代表者の連絡先
     (住所)及び市職員を除く役員(理事)リストを不開示とする旨の決定を行ない(以
     下「6月19日不開示決定」という。)、同日付けの「公文書不開示決定通知書」(
     以下「6月19日不開示決定通知書」という。)を、同日午後9時ころ、被告に交付
      した。

 3 争点

  (1) 6月11日不開示決定の手続が違法か。

  (2) 6月11日不開示決定の内容が適法か。

  (3) 原告の被った被害

 4 争点に関する当事者の主張

  (1) 争点(1)(6月11日不開示決定の手続が違法か。)

    ア 原告の主張

     (ア)決定期限の徒過

        本件条例は、開示請求があったときは、当該開示請求書を受理した日から
        15日以内に開示するかどうかの決定をしなければならない旨規定し(本件
        条例11条1項)、事務処理上の困難等正当な理由がある場合には、延長の
        理由及び期間を請求者に対し書面により通知した上で、30日を限度として
        その期間を延長できる旨規定している(同条2項)。そして、被告が本件条例
        の解釈・運用の指針として作成した門真市情報公開条例門真市個人情報保
        護条例手引書(甲4.以下「本件手引書」という。)においては、同項の「正当
        な理由」とは、第三者情報を含むなどして期間内の決定が困難な場合、年末
        年始等職務を行わない場合などとされているが、本件がこれらのいずれにも
        該当しないことは明白である。
         したがって、6月11日不開示決定は本件条例11条に違法である。

     (イ)決定の違法な取消し

         被告は、6月7日開示決定において代表者の氏名・住所及び役員の氏名を
        含め情報公開を行なうとの決定をしたにもかかわらず、開示実施予定日であ
        った同月11日に、原告に何の説明もなく、一方的に6月11日不開示決定を
        行なった。その際、被告は、原告に対し、6月7日開示決定通知書を6月11
        日不開示決定通知書と差し替えるよう申し入れたが、6月11日不開示決定
        通知書の日付は平成14年6月6日又は同月7日付けとなっており、内容虚
        偽の文書であった。しかも、被告は、同決定の日付が同年6月6日又は同月
        7日付けとなっていることを説明しなかった。
         実施期間が、一度行なった開示決定を請求者に不利益になる方向に変更
        することは、本件条例、本件手引書、本件条例施行規則(甲2)又は門真市
        情報公開事務取扱要領(甲4のB)のいずれにも記載がない。6月11日不開
        示決定は、被告が、原告に対し、事前の通知もなく、全く恣意的に、内容虚偽
        の文書を作成してきわめて大きな不利益を課したものであり、本件条例1条、
        3条、11条、14条に違反し違法である。

  イ 被告の主張

    (ア)上記(ア)(決定期限の徒過)について

         6月7日決定は、本来開示し得ないはずの個人情報の開示を内容とした違
        法・不当な決定であったため、被告は、6月11日決定をし、適法・妥当な情報
        開示に変更した。6月11日不開示決定は、開示を開示にしたという部分に限
        っていえば、6月7日決定を一部取り消したものであるが、両手続は連続性を
        有した一連の手続であるから、手続を全体としてみれば、6月7日決定の変更
        である。  6月7日決定は、15日に期間内に行なわれているのであるから、
        一連の手続には期限徒過の違法はない。

    (イ)上記ア(イ)(決定の違法な取消し)について

        被告は、一度は6月7日開示決定を行なったものの、被告内部において、同
        決定内容について疑義が生じたため、同決定を変更することとなり、担当部署
        において、原告に6月7日決定通知書を返還してもらい、改めて一部不開示と
        した同日付けの公文書開示決定書を渡そうと考えた。
         しかし、原告の過去の言動から考えて、上記の文書差替えの方法で決定
        内容の変更に応じるはずがなく、また、同じ日付けで内容の異なる決定書を
        作成することにも問題があるため、正式に6月7日付け開示決定を取り消した
        上、改めて一部不開示の決定を行ない、新たな公文書開示決定書を作成・
        交付したものである。
         したがっって、6月11日不開示決定通知書は成立していない文書であり、
        原告の主張する内容虚偽の文書は存在しない。  誤った決定をその公開前
        に取り消し、改めて訂正された決定をすることは被告の当然の職務であり、
        違法ではない。

 (2) 争点(2)(6月11日不開示決定の内容は違法か。)

  ア 本件条例6条1号について

   (ア) 被告の主張(抗弁)
         本件条例は、公文書を公開することが原則であるとしつつ(本件条例1条)、
        「実施期間は、通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公にさ
        れることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定しており(同3
        条)、原則公開の立場に立ちながらも、公開によって個人のプライバシーを侵害
        されることを許容していないというべきである。
         被告が6月11日不開示決定において不開示とした情報はすべて個人情報
        であり、情報公開の対象から除外されている(本件条例6条1号本文)から、被
        告の行なった6月11日不開示決定は適法である。

   (イ) 原告の主張(再抗弁)

        情報公開請求権は、知る権利を具体化したものであり、本件手引書冒頭には
        「市の保有する情報は原則開示であって、不開示は例外として最小限にとどめ
        る」ことが明記されている。本件で問題となる一覧表記載の28団体の代表者
        氏名等は、以下のとおり、いずれも本件条例6条に1号アないしイに定める除外
        事由に該当するから、これらを不開示とした6月11日不開示決定は、本件条
        例に違反し、違法である。

     a 本件条例6条1号アについて

       6月11日不開示決定の対象となった情報は、以下のとおり、本件条例1号ア
       「法令若しくは条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが
       予定されている情報」に該当する。

      (a) 本件手引書は、38頁以下「適用外事項基準(不開示情報の判断指標)」
         において、本件条例6条1項により不開示とし得る個人情報の判断基準を
         示している。その中で、本件手引書は、同条アの具体例として、「公表する
         ことを前提として本人から任意に提供された情報」を挙げ、その例として「議
         会に対する請願」を挙げている。
          一覧表記載の28団体は、門真市長らに対し「合併要望推進書」を提出し
         た団体であり、被告に対し団体としての意思表示を行なっているから、少な
         くとも代表者氏名は上記「公表することを前提として本人から任意に提出さ
         れた情報」にあたり、「法令若しくは条例の規定により又は慣行として公に
         され、又は公にすることが予定されている情報」(本件条例6条1号ア)に該
         当するから、開示対象となる。

      (b) 公益法人の役員名簿(住所を含む)は、平成8年9月20日に閣議決定さ
         れた「公益法人の設立許可及び指導監督基準」において、公開が義務づけ
         られるとされている(甲41、42)から、社団法人大阪府公衆衛生協力会門
         真支部及び社団法人門真市社会福祉協議会の代表者氏名・住所及び役
         員名簿は本件手引書40頁「その他何人でも閲覧することができるとされて
         いる情報」に当たり、本件条例6条1号アに該当するから、開示対象である。     

      (c) 守口門真商工会議所は、自らのホームページ、自ら発行している「商工会
         議所ニュース」及び図書館で閲覧できる資料によって役員氏名を公表してい
         る(甲23各枝番)のであるから、手引書40頁「個人が自主的に公表した資
         料から何人も知ることができる情報」に当たり、開示対象となる。

     b 本件条例6条1号イについて

       門真市消防団の団員は、すべて非常勤の地方公務員であり、団長及び副団長
      は市職員の部長級として、分団長及び副分団長は課長代理級として定められて
      いる(甲35。門真市消防団条例13条)から、本件において議員であるとの理由
      で開示された団長のみならず、少なくとも副団長、分団長の氏名は、本件条例6
      条1号イ「公務員の職務の遂行にかかる情報に含まれる当該公務員の職に関す
      る情報」に該当し、開示対象である。

  (ウ)被告の反論

     a 上記(イ)aについて

      (a)同(a)について

         被告は、一覧表記載の28団体の役員名簿を公表することを目的として
         作成し又は取得していないから、開示事由とならない。

       (b)同(b)について

          閣議決定とは、内閣の権限事項を閣議で定めることをいうのであるから、
         独自に条例を定めている被告が特別に閣議決定に従わなければならない
         ものでは なく、被告独自の方針として本件条例に従った処理をすれば足
         りる。

       (c)同(c)について

          守口門真商工会議所が何らかの方法で公表しているからといって、被
          告も 開示しなければならないというわけではない。

     b 上記(イ)bについて

       公務員の氏名は、これを開示すると、公務員の私生活等に影響をおよぼ
        すことが あり得るから、公務員の氏名は、本件条例6条1号イに該当せ
        ず、開示情報である。

    イ 本件条例6条2号について

     (ア)原告の主張

      一覧表記載の28団体は、被告に代表者名や役員リストを提供する際に不開示の
      条件を付けずに提供していることは明かであるから、これらは「実施機関からの
      要請を受けて、公にしないとの約束の下に任意に提供されているもの」等には該当
      せず、開示対象である。(本件条例6条2号イ)
       その他、上記ア(イ)において原告が主張した事情によれば、役員氏名等が本件
      条例6条2号の非開示自由のいずれにも該当しないことは明かである。

    ウ その他

      被告が補助金、助成金を出している団体に関してその代表者氏名・住所及び役員
      氏名が開示されなければ、議員のみならず市民一般質問に対する説明責任を果た
      さないことになるから、この点でも一覧表記載の28団体の代表者氏名・住所及び
      役員氏名は開示されるべきである(本件条例1条参照)

 (3)争点(3)(原告の被った損害)

   ア 原告の主張

     原告は、前記(1)及び(2)記載の被告の違法行為により、以下の損害を被った。

     (ア)平成14年6月11日から現在まで、原告が情報公開請求の事情究明のため
        に支払ったコピー代金 5920円

     (イ)紙、事務用品、印刷費用及び書面作成実費 5万円

     (ウ)原告が本件のために費やした時間は150時間を下らない。原告の月収が
        64万円であることから、これを1日8時間、月25日労働に換算して計算す
        ると、1時間あたり3200円となる。したがって、原告は48万円の損害を
        被った。

     (エ)慰謝料 30万円

     (オ)合計 83万5920円

   イ 被告の主張

      不知。

以上