大阪地裁第25民事部 平成15年(ワ)第7583号 損害賠償請求事件
訴 状
2003(平成15)年7月24日
大阪地方裁判所 御中
原 告 戸 田 久 和
〒571−0048 大阪府門真市新橋町12−18−207(送達場所)
原 告 戸 田 久 和
電話 06-6907-7727
FAX 06-6907-7730
〒571−0055 大阪府門真市中町1−1
被 告 門 真 市
上代表者市長 東 潤
損害賠償請求事件
訴訟物の価額 金 50万円
貼用印紙額 金 4600円
請 求 の 趣 旨
1 被告は原告に対し、金50万円及び、これに対する2003(平成15)年7月
24日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
請 求 の 原 因
1:原告
原告は、1999年4月25日行なわれた門真市市議会議員選挙で初当選し、2003 (平成15)年4月27日市議選での再選を経て現在まで、門真市議会議員の地位にある。
2:門真市には「門真市情報公開条例」が存在する。
(1)甲第1号証として提出する本条例は、その第1章 総則、(目的)第1条において、
「市民が市の保有する公文書の開示を請求する権利を保障することにより、市民の市
政への参加と開かれた市政の一層の推進を図り、もって市の諸活動を市民に説明する
責務が全うされるようにし、地方自治の本旨に即した市政の発展に寄与することを目
的とする。」と規定し、第3条(実施機関の責務)において、「実施機関は、公文書の
開示を請求する権利が十分に保障されるようにこの条例を解釈し、運用しなければな
らない。」、「実施機関は、公文書の適正な管理を図るとともに、公文書の開示の請求の
手続その他この条例に基づく事務の適切かつ円滑な遂行に努めなければならない。」と
定めている。
(2)本条例は、国民主権の理念に則り導き出されるところの「知る権利」を具体的な「公
文書開示の請求権」として位置づけ、「市の保有する情報は原則開示であって、不開示
は例外として最小限にとどめる」ものであることが、手引書(甲第2号証)冒頭に明
記されている。
3:本件違法不開示決定事件の事実
(1)原告は、昨2002年9月12日に情報公開条例に基づき、被告門真市長に対して「閣
議決定や政府見解によって、その役員の氏名・住所について『何人に対しても公開さ
れる』ことになっているところの、公益法人につき、門真市が平成12年度に補助金・
助成金・交付金を支出した法人の、役員の氏名・住所、がわかる文書」の開示を請求
した。(甲第8号証)
(2)これに対して市は、同年9月24日および25日、26日に、市内の12の公益法人に
ついて「役員氏名・住所は個人情報につき不開示」とする不開示決定を行ない、これ
に基づいて「公文書部分開示決定通知書」を作成して原告に通知し、同年10月4日
に原告に対して違法に役員の氏名・住所のほとんどすべてを墨塗りした役員名簿等の
文書を開示した。
以下にそれを示すと、
1,社会福祉法人 門真市社会福祉協議会
決定通知;甲第9号証 塗り潰し役員名簿;甲第10号証
2,社団法人 門真市医師会
決定通知;甲第11号証 塗り潰し役員名簿;甲第12号証@
3,社団法人 門真市歯科医師会
決定通知;甲第11号証 塗り潰し役員名簿;甲第12号証A
4;社会福祉法人 古川園
決定通知;甲第13号証 塗り潰し代表者氏名;甲第14号証@
5;社会福祉法人 めぐみ保育園
決定通知;甲第13号証 塗り潰し代表者氏名;甲第14号証A
6;社会福祉法人門真普栄福祉会 智鳥保育園
決定通知;甲第13号証 塗り潰し代表者氏名;甲第14号証B
7;社会福祉法人門真福祉会 脇田保育園
決定通知;甲第13号証 塗り潰し代表者氏名;甲第14号証C
8;社会福祉法人 北巣本保育園
決定通知;甲第13号証 塗り潰し代表者氏名;甲第14号証D
9;社会福祉法人友愛福祉会 おおわだ保育園
決定通知;甲第13号証 塗り潰し代表者氏名;甲第14号証E
10:守口門真商工会議所(商工会議所法により国の認可を受けた非営利の公益組織)
決定通知;甲第15号証 塗り潰し役員名簿 ;甲第16号証
11;財団法人 門真市文化振興事業団
決定通知;甲第17号証 塗り潰し役員名簿 ;甲第18号証
12;社団法人 門真市シルバー人材センター
決定通知;甲第19号証 塗り潰し役員名簿 ;甲第20号証
(*なお、門真市社会福祉協議会では役員の中で議員や民生児童委員や教育委員など
の公職者についてのみ氏名住所開示、市職員については氏名開示で住所は市役所
にして開示、古川園以下6つの保育園については市が役員名簿を保有していない
ので唯一保有している代表者氏名を不開示、門真市シルバー人材センターは役員
住所のみ不開示で氏名は開示としており、若干のばらつきがあるが、本件訴訟で
は総体としては一括して「役員氏名・住所の違法な不開示」と呼ぶこととする。)
4;役員氏名住所の不開示は「不開示情報の適用除外事項基準」に完全に違反する
(1)まずもって、上記12の公益法人は、平成8年の「公益法人の設立許可及び指導監督
基準」(甲第4号証)という閣議決定によって、
「(基準)7. 情報公開(1) 公益法人は、次の業務及び財務等に関する資料を主たる
事務所に備えて置き、原則として、一般の閲覧に供すること。
1) 定款又は寄附行為 2) 役員名簿 3) (社団法人の場合)社員名簿・・・・」
として氏名と住所を登記事項とする役員名簿の公開閲覧が義務付けられている
のであり、なおかつ、
「(基準)7. 情報公開」の(2)には、「所管官庁においては、(1)に規定する資料
を備えて置き、これらについて閲覧の要求があった場合には、原則として、これを閲
覧させるものとする。」と規定されているのだから、公益法人を所管する総務省や都道
府県が一般市民に閲覧=情報公開しているものを、門真市のみが不開示にすることな
ど、社会常識から言っても、法理論から言っても、門真市情報公開条例から言っても、
許されるはずがないのである。
(2)さらに、月刊誌『公益法人』98年4月号から計5回にわたって掲載された「改正公
益法人指導監督基準Q&A」(甲第5号証)において総理府は、
「A−23 「一般」ということは、どのような人からもという趣旨であり、特定の人
に対して、拒否できるというものではありません。」とし、役員名簿への必要的記載事
項について「民法第46条第1項で氏名と住所が登記事項とされていますが、これが
役員名簿の必要的記載事項となります。」と述べ、社団法人の場合は社員に対してさえ
も「必要的記載事項は、氏名及び住所です」、「社会的責任を負っている・・社員の氏
名及び住所に係る事項を公開することは、プライバシーの侵害には当たらない」とま
で述べている。
(3)門真市情報公開条例第6条(不開示情報)(甲第1号証)においては、不開示情報と
して「(1) 個人に関する情報」を挙げたあとで、「ただし、次に掲げる情報を除く」と
して、
ア 法令若しくは条例(以下「法令等」という。)の規定により又は慣行として公に
され、又は公にすることが予定されている情報
を挙げ、 「手引書」(甲第2号証)11・12ページにおいてその【解釈】 を行ない、
「4 ただし書ア関係
法令の規定により公示されている情報や慣行として公にされている情報は、一般
に公表されている情報であり、これを開示することにより、場合により個人のプライ
バシーを害するおそれがあるとしても、受認すべき範囲内にとどまると考えられる。」、
と述べ、その具体例として「適用除外事項基準(不開示情報の判断指標)」(甲第3号
証)を「手引書」39〜49ページに述べている。
その中の「第6条第1号 個人情報(ただし書き)《開示できるもの》」の表の中に
は、「その他何人でも閲覧することができるとされている情報」が挙げられているから、
役員名簿が「何人でも閲覧することができる」公益法人の役員氏名は、無条件に開示
対象となることは論を待たない。
(4)またその上で、守口門真商工会議所のように、自らのニュースやホームページで公
表している役員氏名(甲第6号証および甲第7号証)については、「手引書」42ペー
ジ、43ページに記載されている「第6条第2号 法人等事業情報《開示できるもの》」
の中の43ページに、
「2 公表することを目的として作成し、又は取得した情報」項目の
「(2)PR用で作成; 社史、PR用パンフレット等に記載された情報」、
「(3)既に公表済み; 市、他の公共団体その他の団体告示、公示、官報への掲載等
がなされた情報」、が挙げられているのだから開示情報に該当するのはこの点からも
論を待たない。
(5)以上述べたように、門真市による公益法人役員氏名住所の不開示決定の違法性は明
白である。
この違法性については、本年の7月14日に出された大阪地方裁判所第18民事部
の<平成14年(ワ)第8041号 損害賠償請求事件>判決でも明かである。
同判決は、その14ページ下段から16ページ上段にかけて、
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(ア)・・・・公益法人の役員名簿は、「公益法人の設立許可及び指導監督基準」(平成
8年9月20日閣議決定、平成9年12月16日一部改正)7条において、「主たる
事務所に備えて置き、原則として、一般の閲覧に供すること」とされており(甲
41)、また、総理府内閣総理大臣官房管理室公益法人行政推進室は、役員名簿の
必要的記載事項は、登記事項である役員氏名及び住所である旨(民法46条1項)、
及び「一般」とは「どのような人からもという趣旨」である旨回答しており(甲
42)、公益法人の役員名簿は、行政指導により、既に一般に公開されていること
が認められる。
上記によると、前記各社団法人の役員名簿は、「公益法人の設立許可及び指導監
督基準」に従って既に公開されているのであるから、両者の役員氏名を開示する
ことにより、場合により個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても、そ
れは受認すべき範囲内にとどまるものというべきであろう。
したがって、社団法人大阪府公衆衛生協力会門真支部及び社団法人門真市社会
福祉協議会の代表者住所及び役員氏名は、本件条例6条1号ただし書アの除外事
由に該当する。
(イ)・・・・・・守口門真商工会議所は、自らのホームページ、自ら発行している「商
工会議所ニュース」及び図書館で閲覧できる資料によって役員氏名を公表してい
ること、・・・、上記の情報は何人でも入手可能であることが認められ、上記の情
報において役員氏名を公表することについては、当該役員もこれに同意している
ことが推認される。
このように、守口門真商工会議所の役員氏名が一般に何人でも入手可能な情報
において公表され、そのことを当該役員が同意していることからすると、守口
門真商工会議所の役員は、その氏名につき、一般にその情報を公表することに
同意しているものと考えられ、そうであるなら、その氏名を開示することによ
り、場合により個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても、それは受
認すべき範囲内にとどまるものというべきである。
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と判断して、被告門真市の不開示の違法性を認めて20万円の賠償金支払いを命
じているのである。
5:これら違法行為は極めて悪質な行政ぐるみの法規範への冒涜である。
「『何人に対しても公開される』ことになっているところの、公益法人の役員の氏名・
住所がわかる文書」という開示請求に対して、抜け抜けと「役員の氏名住所は個人情報
だから不開示だ」として、違法な情報隠しを押し通してきたこの事実そのものが、常軌
を逸したとしか言いようのない情報隠し体質と、行政としてあるまじき法規範への冒涜
体質、白を黒と言い張って行政ぐるみで違法行為を働く異常体質を示している。
公金支出団体の役員情報開示については、被告が昨年6月以降突然に異常な情報隠し
を強行して以来、原告との間で争いが続いているが、政策決定過程の公開や発案過程の
公開まで情報公開の捉え方や制度が進んできているこのご時世にあって、本件事件のよ
うな悪質低劣で違法な情報隠しを市行政が平然と行なっていることは誠に恥ずべきこと
であり、公益実現のためにも門真市民の名誉のためにも、断固たる処断がなされて法的
正義が回復されなければならない。
6;原告が上記違法な不開示決定によって被った損害
(1)被告が原告に対して為した不開示行為は、「門真市が公金を支出している公益法人の
責任者」が誰であるかというような行政の説明責任にあたる情報をして「個人のプラ
イバシーにあたる情報だ」などという非合理で不条理な説明を原告に押し付けるもの
であり、それはあたかも目の前の白い布を指して「これは黒い布だ」、「これが黒に見
えないのはお前だけで、お前の色覚がおかしいのだ」と言われているに等しい不快と
侮辱を原告は与えられ、猛烈なストレスを感じさせられ続けている。
告が被告から面と向かっても、書面においても、議会答弁においても、「何人も閲
覧できる公益法人の役員氏名住所は、個人のプライバシーだから情報公開できない」
という不条理を主張され、情報隠蔽を続けられることは、公衆の面前で侮辱され続け
るに等しい苦痛である。
(2)被告のあまりに支離滅裂な違法行為の誤りを指摘し改善させ、まっとうな行政に引
き戻すという公益を果たすために、原告が行政をチェックすべき議員としての職責を
自覚以上、原告はあたかも「ある日突然地動説を全否定されたがために天動説の誤り
を一から指摘し論証していかねばならなくなった者」の如き労力を払うことを余儀な
くされている。
告の違法行為の証拠として「墨塗りだらけの役員名簿」を自腹でコピーすること
を初め、被告の違法行為がなければそれを正すために行なうことも不要だったところ
の膨大な書類作成や広報宣伝活動などの労力・経費を含めて、原告は多大な損害を被
っている。
(3)以上の損害について、原告が議員として、そしてまた市民として受けた侮辱とスト
レスと損害を総合すると、その対価は金銭にして50万円を下らない。
従って、50万円を損害賠償として請求するものである。
7;後日、情報開示が認められたとしても損害が解消しない事実
上記損害は既に原告が被っているものであって、後日、情報開示が認められたとして
も何ら損害は回復しない。
告は既に昨年11月26日に情報公開制度による不服申立を行なったが(甲第21号証)、
その後今に至るも何の音沙汰もなく、不服申立によって救済されるとしてもそれはいつ
のことか不明であり、原告の実害が回復されないばかりか、違法な不開示決定を行なっ
た市が批判されることすらない可能性が濃厚である。
なわち、不服申し立てを受けて「情報公開審査会」が開示すべきと言う「結論」を
出す前に、市が原告に謝罪もせずにふいに開示決定を出してしまえば、それまでの違法
な不開示の責任を市は一切問われることなく、事態を終了させられるのである。
だからこそ本件の違法な不開示決定は、情報公開の不服申し立てとは別に、司法の場
で裁かれなければならないのである。
8:まとめとして
門真市の上記行為は、公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行なうについて、故
意または過失によって違法に他人に損害を加えたものであるから、被告は、国家賠償法第
1条に基づき、原告に対して損害を賠償する責任がある。
よって、請求の趣旨記載のとおりの判決を求めて、訴えを提起する次第である。
公人の「交際費」や「会食費」の支出相手氏名すら情報公開されるのが当たり前になり、
公益法人の透明化と改革も世情の課題に浮上しているこのご時世で、「公益法人の役員氏
名住所を全て不開示にする」などは言語道断のことであり、断じて放置されてはならない。
裁判所におかれましては、本件のような法治国家の根底を否定する如き違法行為に対し
ては、厳しく迅速な処断を行なって、私が受けた損害の救済を図られ、もって納税者・市
民に納得のいく公明正大な行政の実現に寄与して下さいますよう、よろしくお願い申し上
げます。
なお、本日は原告の訴えを立証するための証拠書類21点とそのリストを合わせて提出
します。
証 拠 方 法
甲第1号証から甲第21号証までを提出する。
この資料各項目の題名を記した「疎明資料リスト1」を提出する。
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