平成15年7月14日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官

平成14年(ワ)第8041号 損害賠償請求事件

(口頭弁論終結日 平成15年5月2日)

判         決

                     大阪府門真市新橋町12番18-207号

                           原     告        戸 田 久 和

                     大阪府門真市中町1番1号

                           被     告        門   真   市
                           同代表者市長        東       潤
                           同訴訟代理人弁護士   安   田   孝
                           同               上  野  富 司


 

主         文

1 被告は、原告に対し、20万円及びこれに対する平成14年8月9日から支払済みまで
  年5分の割合による金員を支払え。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、これを4分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。


 

事 実 及 び 理 由

第1 請求

   被告は、原告に対し、83万5920円及びこれに対する平成14年8月9日から支払済み
  まで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 本件は、原告が、被告の制定した門真市情報公開条例(以下「本件条例」という。)
   に基づき、本件条例により情報公開制度を実施する機関である門真市長らに対し、
   守口市との合併推進要望書を提出した団体につき代表者氏名、住所等の情報開示
   を請求し、いったん開示決定がされたにもかかわらず、門真市長らが、上記決定を違
   法に取り消し、開示義務のある上記団体の代表者氏名等についてほぼ全面的に不
   開示としたため、コピー代等の出損を余儀なくされただけでなく、精神的な苦痛をも被
   ったと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として、83万
   5920円及びこれに対する違法行為後である平成14年8月9日から支払済みまで民法
   所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるものである。

 2 前提となる事実(争いのない事実及び後掲証拠等により認められる事実)

  (1)原告は、門真市内に居住する市民であり、平成11年4月から門真市議会議員の
    地位にある。
     被告は、本件条例を制定した地方公共団体である。

  (2)被告は、門真市の機関が保有する情報を市民等の請求に応じて公開することを義
    務付ける情報公開制度を実施するため、本件条例を平成11年12月22日に制定し、
    同条例は、平成12年7月1日から施行された。
     本件条例は、国民の知る権利を具体化するため、市民が被告の保有する公文書
    の開示を請求する権利を保障すると同時に、被告が保持する情報が公開されること
    によって個人のプライバシーが侵害されることを防止するため、個人に関する情報に
    関しては、原則として、本件条例6条1号の要件の下でのみ開示を認めている。(本
    件条例1条、3条)。なお、被告は、本件条例の解釈・運用の指針とする目的で、門
    真市情報公開条例門真市個人情報保護条例手引書(甲4、以下「本件手引書」とい
    う。)を作成している。

  (3)本件条例第6条1号は、開示請求権者から情報開示請求があった場合において、
    個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、
    当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記載等により特定の個人を識別する
    ことができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができ
    ることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にするこ
    とにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの(以下「個人情報」という。)
    については、開示しないことができるとしつつ(同条1号本文)、ただし書において、
    以下の情報については、不開示情報から除外される旨規定している。

    ア 法令若しくは条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予
     定されている情報(同号ただし書ア)

    イ 公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職に関する情報(同
     号ただし書イ)

    ウ 人の生命、身体、健康、財産又は生活を保護するため、開示することがより
     必要と認められる情報(同号ただし書ウ)

   (4) 被告は、平成14年5月当時、守口市との合併を検討しており、門真市及び守口
     市においては、上記合併の是非をめぐり意見が分かれている状態にあった。
      同月8日、門真市及び守口市に存在する38団体(法人、組合、権利能力なき社
     団等であり、別紙一覧表記載の28団体(以下「本件28団体」という。)はこの38団
     体の一部である。)は、上記合併に賛成する立場から、守口門真商工会議所のと
     りまとめにより、門真市長及び門真市議会議長に対し、門真市及び守口市の合併
     推進を要望する旨の「合併推進要望書」(甲19、以下「本件要望書」という。)を提
     出した。本件要望書には、上記38団体の名称に加え、上記38団体の各代表者氏
     名が記載されていた。

   (5) 原告は、本件条例の実施機関である門真市長及び同市教育委員会に対し、同
     月23日、本件条例5条に基づき、本件要望書を提出した上記38団体について、平
     成13年度及び平成14年度の以下のアないしオの各事項に関する公文書について、
     調査を目的として、情報開示請求を行なった(甲8の1、2以下「本件情報開示請求」
     という。)

    ア 代表者の連絡先(住所)(なお、当該事項に代表者氏名が含まれることは当事
     者間に争いがない。)

     イ 定款

    ウ 役員(理事)リスト  

    エ 総会・役員会(理事会)資料、議事録  

    オ 被告からの補助金や人員派遣の実態が分かる資料(又はその現物)

   (6) 被告は、同年6月6日ないし同月7日、上記38団体のうち、被告が情報を有してい
     る本件28団体について、別紙一覧表「6月7日決定の内容」欄記載のとおり、代表
     者氏名及び住所、役員氏名、定款並びに総会資料等に関する公文書を開示する
     (同欄に○印の付された情報が開示の認められたものである。)旨の情報開示決定
     を行ない(以下「6月7日決定」という。)、原告に対し、同月6日ないし同月7日付け
     「公文書開示決定通知書」(甲11の1ないし42、以下「6月7日付通知書」という。)
     を交付した。
      なお、原告及び被告担当者は、6月7日決定に先立ち協議を行ない、同月11日午
     後2時に門真市役所別館2階情報コーナーにおいて写しを交付するなどの方法によ
     り情報開示を行なう旨合意しており、6月7日付通知書には、上記合意に沿った開示
     方法が記載されていた。  

   (7) 原告が、同月11日、6月7日付通知書の記載に基づき、門真市役所に赴いたとこ
      ろ、被告担当者は、原告に対し、6月7日決定によって開示するとした情報のうち
      本件28団体の代表者氏名及び住所並びに役員氏名(ただし門真市会議員である
      消防団長を除く。)は個人情報に該当し、その部分に関する開示決定は違法又は
      不当であるから、6月7日付通知書を、消防団長を除く各団体の代表者氏名及び
      住所並びに役員氏名(以下「本件代表者氏名等」という。)を開示しない旨を内容
      とした同月7日付け「公文書不開示決定通知書」(甲31の1ないし23、以下「6月11
      日通知書」という。)と差し替えるよう申し入れた(甲30の1、2)。
       上記申し入れに対し、原告は、差替えを拒否した。  

   (8) 被告は、原告に対し、前同日、前同所において、6月7日決定のうち本件代表者
      氏名等の開示を取り消し、これを不開示とする旨の決定(以下「6月11日決定」と
      いう。)を行い、口頭で原告に通知し、原告は、本件代表者氏名等を除く部分に
      つき、6月7日決定に基づき、情報開示を受けた(甲9)。  

   (9) 被告は、原告に対し、同月19日午後9時ころ、6月11日決定を文書化した同月19
      日付けの「公文書不開示決定通知書」(甲36の1ないし23、以下「6月19日付通知
      書」という。)を交付した(甲32)。

  3 争点及びこれに関する当事者の主張

   (1) 6月11日決定の内容は違法か。

     ア 本件代表者氏名等が本件条例6条1号ただし書の除外事由に該当するか。

     (原告の主張)

      (ア) 情報公開請求権は、知る権利を具体化したものであり、本件手引書の冒
         頭には門真市の保有する情報は原則開示であって、不開示は例外として
         最小限にとどめることが明記されている。本件代表者氏名等は、いずれも
         本件条例6条1号ただし書アないしイに定める除外事由に該当し、特に以
         下のものは 上記除外事由に該当することが明かであるから、本件代表
         者氏名等を不開示とした6月11日決定は、本件条例に違反し、違法であ
          る。

      (イ) 本件条例6条1号ただし書ア(以下「ただし書ア」ということがある。)について

       a  本件手引書は、「適用外事項基準(不開示情報の判断指標)」(同手引書
         39頁以下)として、本件条例6条1号により不開示とし得る個人情報の判断
         基準を 示しているが、ただし書きアの具体例として、「公表することを前提と
         して本人から任意に提供された情報」を挙げ、その例として「議会に対する
         請願」を挙げている。
          本件28団体は、門真市長らに対し本件要望書を提出した団体であり、被
         告に対し団体としての意思表示を行なっているから、少なくとも代表者氏名
         は上記「公表することを前提として本人から任意に提供された情報」に当た
         り、「法令若しくは条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にす
         ることが予定されている情報」(ただし書ア)に該当するので、開示対象と
         なる。

        b  公益法人の役員名簿(住所を含む。)は、平成8年9月20日に閣議決定
          された「公益法人の設立許可及び指導監督基準」において、公開が義務
          づけられるとされている(甲41、42)から、社団法人大阪府公衆衛生協力
          会門真支部及び社団法人門真市社会福祉協議会の代表者氏名・住所
          及び役員名簿は本件手引書40頁の「その他何人でも閲覧することができ
          るとされている情報」に当たり、 ただし書アに該当するので開示対象とな
          る。

        c   守口門真商工会議所は、自らのホームページ、自ら発行している「商工
           会議所 ニュース」及び図書館で閲覧できる資料によって役員氏名を公
           表している(甲23の1ないし4)のであるから、本件手引書40頁の「個人
           が自主的に公表した資料から何人も知ることができる情報」に当たり、
           開示対象となる。

      (ウ) 本件条例6条1号ただし書イ(以下「ただし書イ」ということがある。)について

         門真市消防団の団員は、すべて非常勤の地方公務員であり、団長及び
        副団長は市職員の部長級として、分団長及び副分団長は課長代理級とし
        て定められている(甲35、門真市消防団条例13条)から、本件において議
        員であるとの理由で開示された団長のみならず、少なくとも副団長、分団
        長及び副分団長の氏名は、本件条例6条1号ただし書イ「公務員の職務の
        遂行にかかる情報に含まれる当該公務員の職に関する情報」に該当し、
        開示対象である。

     (被告の主張・反論)

      (ア)  本件条例は、公文書を公開することが原則であるとしつつ(本件条例
          1条)、 「実施機関は、通常他人に知られたくない個人に関する情報が
          みだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならな
          い。」と規定しており(同3条)、原則公開の立場に立ちながらも、公開
          によって個人のプライバシーを侵害されることを許容していないという
          べきである。
           被告が6月11日決定によって不開示と変更した情報(本件代表者氏
          名等)はすべて個人情報であり、情報公開の対象から除外されている
          (本件条例6条1号本文)から、被告の行なった6月11日決定は適法であ
          る。

      (イ)  原告の主張に対する反論

        a  上記(イ)について

         (a) 同 a について

            被告は、本件28団体の役員名簿等を公表することを目的として作
           成し又は取得していないから、開示事由とならない。原告は、本件
           要望書を請願と主張しているが、請願に関しては、憲法16条、請願
           法1条ないし6条及び地方自治法124条に手続を含む詳細な規定が
           置かれており、本件要望書のような単なる要望は請願に当たらない。

         (b) 同 b について

            閣議決定とは、内閣の権限事項を閣議で定めることをいうのである
           から、独自に条例を定めている被告が閣議決定に従わなければなら
           ないものではなく、被告独自の方針として本件条例に従った処理を
           すれば足りる。

         (c) 同 c について

             守口門真商工会議所が何らかの方法で役員氏名を公表している
            からといって、被告も開示しなければならないというわけではない。

        b  上記(ウ)について

           公務員の氏名は、これを開示すると、公務員の私生活等に影響を及
          ぼすことがあり得るから、公務員の氏名は、本件条例6条1号ただし書
          イに該当せず、非開示情報である。

      イ  本件条例6条2号について

       (原告の主張)

          本件28団体は、被告に代表者名や役員リストを提供する際に不開示
         の条件を付けずに提供していることは明らかであるから、これらは「実
         施機関からの要請を受けて、公にしないとの約束の下に任意に提供
         されたもので、法人等又は個人における通例として公にしないことと
         されているもの」等には該当せず、開 示対象である(ただし書イ)。
          また、被告が補助金、助成金を出している団体に関してその代表者
         氏名・住所及び役員氏名が開示されなければ、議員のみならず市民
         一般に対する説明責任を果たさないことになるから、この点でも本件
         28団体の代表者氏名・住所及び役員氏名は開示されるべきである
         (本件条例1条参照)。

       (被告の主張)

          役員名簿等は本件条例の規定によれば、まず同6条1号の個人情報
         に該当するものであるから、原告の主張は失当である。なお、被告は、
         本件代表者氏名等が同条2号の非開示事由に該当するとの主張はし
         ない。

   (2) 6月11日決定の手続は違法か。

     (原告の主張)

      ア  決定の違法な取消し

          被告は、6月7日決定において本件代表者氏名等を含め情報公開を行
         うとの決定をしたにもかかわらず、開示実施予定日であった同月11日に、
         原告に何の説明もなく、一方的に6月11日決定を行った。その際、被告
         は、原告に対し 、6月7日付通知書を6月11日通知書と差し替えるよう
         申し入れたが、6月11日通知書の日付は同月6日ないし同月7日となっ
         ており、内容虚偽の文書であった。しかも、被告は、同決定の日付
         が同月6日ないし同月7日となっていることを説明しなかった。
          実施機関が一度行った開示決定を請求者に不利益になる方向に変
         更することは、本件条例、本件手引書、本件条例施行規則(甲2)又は
         門真市情報公開事務取扱要領(甲4の3)のいずれにも記載がない。
         6月11日決定は、被告が原告に対し、事前の通知もなく、全く恣意的に
         行ったものであり、本件条例1条、3条、11条、14条に違反し違法である。

      イ  決定期限の徒過

         本件条例は、開示請求があったときは、当該開示請求書を受理した日
        から15日以内に開示するかどうかの決定をしなければならない旨規定し
        (本件条例11条1項)、事務処理上の困難等正当な理由がある場合には、
        延長の理由及び期間を請求者に対し書面により通知した上で、30日を
        限度としてその期間を延長できる旨規定している(同条2項)。そして、
        本件手引書においては、同項の「正当な理由」とは、第三者情報を含む
        などして期間内の決定が困難な場合、請求された情報が膨大である
        場合、天災等不測の災害が発生した場合、年末年始等職務を行わない
        時期である場合などとされているが、本件がこれらのいずれにも該当し
        ないことは明白である。
         したがって、6月11日決定は本件条例11条に反し違法である。

     (被告の主張)

      ア  上記ア(決定の違法な取消し)について

          被告は、一度は6月7日決定を行ったものの、被告内部において同決
         定内容に疑義が生じたため、同決定を変更することとなり、担当部署
         において、原告に6月7日付通知書を返還えしてもらい、改めて一部不
         開示とした同日付けの公文書開示決定書を渡すという、いわゆる文
         書差替えの方法により新たな公文書開示決定所を渡そうと考えた。
          しかし、原告の過去の言動から考えて、上記の文書差替えの方法
         で決定内容の変更に応じるはずがなく、また、同じ日付けで内容の
         異なる決定書を作成することにも問題があるため、正式に6月7日決
         定を取り消した上、改めて一部不開示の決定を行い、新たな公文書
         開示決定書である6月19日付通知書を作成、交付したものである。
           したがって、6月11日通知書は成立していない文書であり、原告
         の主張する内容虚偽の文書は存在しない。
          誤った情報開示決定をその情報開示前に取り消し、改めて正しい
         内容の決定をすることは被告の当然の職務であり、違法ではない。

      イ  上記イ(決定期限の徒過)について

         6月7日決定は、本来開示し得ないはずの個人情報の開示を内容とし
        た違法又は不当な決定であったため、被告は、6月11日決定をし、適
        法・妥当な情報開示に変更した。6月11日決定は、開示を不開示にし
        たという部分に限っていえば、6月7日決定を一部取り消したものであ
        るが、両手続きは連続性を有した一連の手続であるから、手続を全
        体としてみれば、6月7日決定の変更である。
          6月7日決定は、15日の期間内に行われているのであるから、一
        連の手続には期限徒過の違法はない。

   (3) その他の問題点(内容虚偽の文書及び偽計業務妨害)

     (原告の主張)

       被告は、平成14年6月11日に、6月11に通知書を作成しているが、前記
      のとおり、その日付は同月6日ないし同月7日となっており、内容虚偽の
      文書であった。
       また、被告は上記事実を同月19日の午後9時になって初めて原告に
      明らかにし、しかも、6月11日通知書の原本を廃棄した。これらの行為は、
      被告が、同月20日に行なわれた門真市議会本会議において原告が被
      告の責任を追及することを妨害するために行なったものであり、被告によ
      る偽計業務妨害である。

     (被告の主張)

       否認する。被告が6月11日決定を交付しようとした経緯は前記(2)の被告
      の主張欄ア記載のとおりである。6月11日決定は成立していない文書であ
      り、被告の行為は違法ではない。

   (4) 原告の被った損害の有無及びその額

      (原告の主張)

      原告は、前記(1)ないし(3)記載の被告の違法行為により、以下のとおり
      合計83万5920円の損害を被った。

      ア 平成14年6月11日から現在まで、原告が情報開示請求の事情究明
        のために支払ったコピー代金     5920円

      イ 紙、事務用品、印刷費用及び書面作成実費    5万円

      ウ 原告が本件のために費やした労力     48万円
          原告が本件のために費やした時間は150時間を下らない。原告の
         月収が64万円であるから、これを1日8時間、月25日労働に換算して
         計算すると、1時間あたり3200円となる。したがって、原告は48万円
         の損害を被った。

      エ 慰謝料   30万円

      オ 合計     83万5920円


 

第3 争点に対する判断

 1 争点(1)(6月11日決定の内容は違法か。)について

  (1) 本件代表者氏名等が個人情報に該当するかということについて検討する。

      上記前提となる事実のとおり、本件条例6条1号本文は、不開示とするこ
      とができる個人情報について文言上何らの制限を加えておらず、同号た
      だし書アないしウにおいて、公開により個人のプライバシーを害するおそ
      れがないか又はあるとしても受認すべき範囲にとどまるというべき情報を
      列挙し、これらを不開示情報から除外している。

       本件情例がこのような規定方法を採用したのは、プライバシーという必
      ずしも内容が明らかでない概念を用いて不開示情報を限定するよりも、
      個人情報を一般的に不開示としつつ除外事由を具体的に列挙し、ある
      情報が当該除外事由に該当するか否かを判断する方が、より判断の
      客観性を確保しうるためであると考えられる。

       このような本件条例6条1号の趣旨にかんがみると、個人情報とは、当
      該個人が公務員か否かまた組織体の構成員であるか否かにかかわら
      ず 、各個人に関する一切の事項についての事実、判断、評価等すべて
      の情報をいうと解するのが相当であり、このような個人情報のうち、開示
      すべき情報か否か、すなわち個人のプライバシーを侵害するおそれがな
      いか又はあるとしても受認すべき範囲内にとどまるか否かは、専ら同号
      ただし書アないしウの除外事由に該当するか否かにより判断すべきであ
      る。
       これを本件についてみると、本件代表者氏名等(各団体の代表者及び
      役員の氏名及び住所)は、いずれも、各団体の代表者及び役員という個
      人に関する情報であることは明かであるから、いずれも個人情報に該当
      するというべきである。

  (2) 本件代表者氏名等が、本件条例6条1号ただし書アないしイ記載の除外
     事由に該当するかということについて検討する。

    ア 代表者氏名について

      本件条例6条1号ただし書アは、「法令若しくは条例の規定により又は慣
      行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」を除外事由と
      規定しているが、このような情報が不開示情報から除外される趣旨は、
      法令の規定により公にされている情報や慣行として公にされている情報は、
      一般に公表されている情報であり、これを公開することにより、場合により
      個人のプライバシーを害するおそれがあるとしても受認すべき範囲内にと
      どまるものと考えられるからであると解される(本件手引書12頁にも同旨
      の記載がある。)。

       これを本件28団体の代表者氏名についてみるに、代表者氏名は、個人
      情報に該当する情報ではあるものの、各団体が何らかの意思表示等を行
      う際、各団体における現実の行為者を対外的に明らかにするために提示す
      ることが通常予定されているものであり、かつ代表者氏名の有するこのよ
      うな特質は、団体の性質にかかわらず、本件28団体すべてに共通するも
      のというべきである。したがって、本件28団体の代表者氏名は、これを非
      開示とする必要があると解すべき特段の事情がない限り、公にすることが
      予定されているものというべきである。

       しかるところ、本件28団体は、被告と守口市の合併問題という公共性が
      極めて高い事項に関する要望書を門真市長という公の機関に提出したも
      のであり、しかも、本件要望書には、本件28団体の名称に加え各団体の
      代表者氏名が記載されているのであるから、各団体の代表者氏名を含め
      本件要望書の内容を非公開とする必要性は乏しいというべきである。

        以上によれば、本件28団体の代表者氏名につき前記の特段の事情が
      ないことは明かであり、各代表者氏名は、慣行により公にすることが予
      定されている情報であって、同号ただし書アの除外事由に該当するとい
       うべきである。

   イ 代表者住所について

        代表者住所は、代表者氏名と異なり、各団体が何らかの意思表示等
       を行うに際しに現実の行為者を対外的に明らかにするために提示すべき情
       報とはいえず、むしろ私的情報としての側面を強く有しているものである
       と解される(本件要望書にも、代表者氏名以外は記載されていない。)。

        また、住所は個人の私的生活の場そのものに関する情報であり、いっ
       たん公開された場合に個人が受ける不利益も氏名と比較しても大きい
       ものである。したがって、氏名と異なり、各代表者住所は、他にただし書
       アの除外事由に該当する事由が認められない限り、ただし書アに該当
       しないというべきである。

   ウ 役員氏名について

        代表者以外の役員は、代表者と異なり、各団体を代表するものでない
       から、各団体が何らかの意思表示等を行う際に現実の行為者を明らかに
       するために提示することが予定されていないことは明かである(本件要望
       書にも役員氏名は記載されていない。)。したがって、このような事情のも
       とにおいては、他にただし書アの除外事由に該当する事由が認められな
       い限り、役員氏名はただし書アの除外事由に該当しないというべきである。

   エ 上記のとおり、本件28団体の代表者住所及び役員氏名は、ただし書アの
     除外事由に当然に該当するとは認められないので、当該団体の特殊性等
     から、それがただし書アの除外事由に該当するかということについて検討す
     る。

    (ア)  社団法人大阪府公衆衛生協会(※原文通り)門真支部及び社団法
        人門真市社会福祉協議会はいずれも公益を目的とする法人であると
        ころ、公益法人の役員名簿は、「公益法人の設立許可及び指導監督
        基準」(平成8年9月20日閣議決定、平成9年12月16日一部改正)7条
        において、「主たる事務所に備えて置き、原則として、一般の閲覧に
        供すること」とされており(甲41)、また、総理府内閣総理大臣官房管
        理室公益法人行政推進室は、役員名簿の必要的記載事項は、登記
        事項である役員氏名及び住所である旨(民法46条1項)、及び「一般」
        とは「どのような人からもという趣旨」である旨回答しており(甲42)、
        公益法人の役員名簿は、行政指導により、既に一般に公開されている
        ことが認められる。

         上記によると、前記各社団法人の役員名簿は、「公益法人の設立許
        可及び指導監督基準」に従って既に公開されているのであるから、両
        者の役員氏名を開示することにより、場合により個人のプライバシーを
        害するおそれがあるとしても、それは受認すべき範囲内にとどまるもの
        というべきであろう。

         したがって、社団法人大阪府公衆衛生協会(※原文通り)門真支部及び社団法
        人門真市社会福祉協議会の代表者住所及び役員氏名は、本件条例6
        条1号ただし書アの除外事由に該当する。

    (イ) 守口門真商工会議所について検討する。

       証拠(甲23の1ないし4)によれば、守口門真商工会議所は、自らのホー
       ムページ、自ら発行している「商工会議所ニュース」及び図書館で閲覧で
       きる資料によって役員氏名を公表していること、これらにおいても、守口門
       真商工会議所の代表者(会頭)住所は公表されていないこと、上記の情
       報は何人でも入手可能であることが認められ、上記の情報において役員
       氏名を公表することについては、当該役員もこれに同意していることが推
       認される。

         このように、守口門真商工会議所の役員氏名が一般に何人でも入手
       可能な情報において公表され、そのことを当該役員が同意していることか
       らすると、守口門真商工会議所の役員は、その氏名につき、一般にその
       情報を公表することに同意しているものと考えられ、そうであるなら、その
       氏名を開示することにより、場合により個人のプライバシーを害するおそれ
       があるとしても、それは受認すべき範囲内にとどまるものというべきである。
        したがって、上記役員氏名は、ただし書アにいう「慣行として公にされて
       いる情報」として、個人情報の除外事由に当たるというべきである。

        他方、守口門真商工会議所の代表者住所は上記情報においても公表
       されておらず、他に、それがただし書アに定める個人情報の除外事由に該
       当すると認めるに足りる証拠はないから、それが個人情報の除外事由に
       当たるということはできない。

     (ウ) 門真市消防団について検討する。

        a  門真市消防団の団員は地方公務員である(消防組織法15条の6、
          地方公務員法3条)。同消防団員の役員にいかなる者が含まれるか
          について、原告は、団長のほか、少なくとも副団長、分団長及び副
          分団長もこれに含まれる旨主張するが、分団長及び副分団長は消
          防団全体ではなくその所属する分団の責任者にすぎないと考えられ、
          また、平成14年度門真市消防団本部名簿(甲28の8)に記載されて
          いるのも、団長及び副団長のみであるから、分団長及び副分団長は
          役員には該当しないと認められる。

        b  原告は、役員氏名は本件条例6条1号ただし書イ「公務員の職務
          の遂行にかかる情報に含まれる当該公務員の職に関する情報」に
          該当する旨主張する。
           しかしながら、同号ただし書イにいう情報とは、その文言上、当該
          公務員の有する職務権限に基づく具体的な職務遂行行為と直接関
          連性を有する情報(例えば、職務としての会議への出席、発言その
          他の事実行為に関する情報等)に含まれる当該公務員の職、すなわ
          ち職務行為における公務員としての立場に関する情報を指すものと
          解するのが相当である。したがって、何ら具体的な職務行為を前提と
          しない公務員の職に関する情報が非開示とされるべき個人情報から
          除外されるものではなく、まして、公務員個人の氏名が除外されるこ
          とはないというべきである。そして、本件では、同消防団役員の具体
          的な職務行為が前提とされているわけではなく、しかも、原告が求め
          ているのは、当該公務員の職に関する情報ではなく、公務員の氏名
          であるから、そのような情報につきただし書イは適用されないというべ
          きである。

       (エ) 上記(ア)ないし(ウ)で検討した社団法人大阪府衛生協力会門真
          支部、社団法人門真市社会福祉協議会、守口門真商工会議所及び
          門真市消防団以外の本件28団体の代表者住所及び役員氏名が、
          本件条例6条1号ただし書の除外事由に該当すると認めるに足りる証
          拠はない。

           なお、証拠(甲24、25の1・2、27の1ないし3、63、71)によれば、原
          告が被告に対する情報公開請求以外の方法で入手した本件28団体
          の代表者住所又は役員氏名が記載されている文書が存在することが
          認められるが、これらはいずれも公表される場面や相手方が限定され
          たものであるから、これらの証拠をもって、各団体の代表者住所又は
          役員氏名が本件条例6条1号ただし書ア所定の事由に該当するとは
          認められない。

    (3)ア 原告は、被告が補助金、助成金を出している団体に関してその代表者
        氏名、住所及び役員氏名が開示されなければ、議員のみならず市民一
        般に対する説明責任を果たさないことになるから、この点でも本件28団
        体の代表者氏名、住所及び役員氏名は開示されるべきであると主張する。
          しかしながら、本件28団体が被告から補助金又は助成金の交付を受
        けていたとしても、そのことのみを理由に、本件条例6条の文言に関わり
        なく代表者氏名、住所及び役員氏名を開示すべきであるとは解することは
        できず、原告の主張は採用できない。

       イ 原告は、本件代表者氏名等が本件条例6条2号の不開示事由に該当
         しない旨主張する。しかし、被告は、本件代表者氏名等が本件条例6条
         2号の不開示事由に該当するとの抗弁を主張していないのであるから、
         この点については判断の要をみない。

    (4) 以上によれば、本件28団体の代表者氏名、社団法人大阪府衛生協力
       会門真支部及び社団法人門真市社会福祉協議会の役員氏名並びに守
       口門真商工会議所の役員氏名は本件条例6条1号ただし書アの除外事
       由に該当するから、6月11日決定は、これらの各情報を不開示とした限度
       において違法である。

  2 争点(2)(6月11日決定の手続は違法か。)について

    (1) 6月7日決定を取り消したことは違法であったかということについて検討する。

   ア  行政庁が、行政行為の相手方その他私人の側からの法的な請求を待た
     ず、自発的に、行政行為が違法又は不当であったことを理由として、当該行
     政行為を取り消す行為を、一般に自庁取消しという。
      本件条例はもとより、行政法、地方自治法その他一般に自庁取消しを認め
     る明文の規定はないが、処分した行政庁その他正当な権限を有する行政
     庁が、自らその違法又は不当を認めて、その処分の取消しによって生ずる不
     利益と取消しをしないことによって当該処分をそのまま維持することの不利
     益とを比較考量し、当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし
     著しく不当であると認められる場合には、これを取り消すことができるものと
     解するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第97号同43年11月7日
     第一小法廷判決・民集22巻12号2421ページ参照)。

   イ  本件において、被告は、6月11日決定により、自ら行なった6月7日決定の
     うち、本件代表者氏名等を不開示情報と判断し、その開示を取り消している
     から、被告の行為は、自庁取消しに該当する。
      6月11日決定のうち、本件28団体の代表者氏名、社団法人大阪(※原
      文通り)
衛生協力会門真支部及び社団法人門真市社会福祉協議会の役
     員氏名並びに守口門真商工会議所の役員氏名(以下当該部分を「本件違
     法部分」という。)は本件条例6条1号ただし書の除外事由に該当するが、そ
     の余の部分については、同号ただし書の除外事由に該当せず、市民のプ
     ライバシー保護の観点から開示が許されないことは前記認定したとおりで
     ある。
      したがって、6月7日決定は、本件代表者氏名等のうち本件違法部分以外
     を開示した限度で、本件条例に違反し違法であるというべきである。

     そして、本件で問題になっている本件代表者氏名等は、氏名及び住所とい
     う最も基本的な個人情報であり、これらが違法に開示されると、開示された
     個人は容易にその特定がされ、場合によっては不特定多数に自己の私生
     活の場を知られる可能性があるなど大きな不利益を被るおそれがある。

     他方、原告は、6月11日の時点では未だ何らの情報開示を受けておらず、
     6月7日決定の本件違法部分を取り消したとしても、開示を期待していた部
     分について取消しを受けたという以上に不当な不利益を被ることはない。
     これらの事情にかんがみると、6月7日決定を放置することは公共の福祉の
     要請に照らし著しく不当であると認められる。

   ウ  以上によれば、被告が、本件代表者氏名等のうち本件違法部分を除いた
      部分については、これを自発的に取り消すことは適法であり、他方、本件
      違法部分については、これを開示するとした6月7日決定はもとより違法で
      はないから、これを取り消すことは許されず、6月11日決定のうち、本件違
      法部分に関しては、実体的のみならず手続的にも違法である。

  (2) 決定期限の徒過により6月11日決定が違法になるかということについて検
     討する。

   ア  本件条例は、開示請求があったときは、当該開示請求書を受理した日か
      ら15日以内に開示するかどうかの決定をしなければならない旨規定し(本
      件条例11条1項)、事務処理上の困難等正当な理由がある場合には、延
      長の理由及び期間を請求者に対し書面により通知した上で、30日を限度
      としてその期間を延長できる旨規定している(同条2項)。

       本件では、6月11日決定を行なった平成14年6月11日は、原告が本件情
      報開示請求を行なった同年5月23日から16日以上経過していることは明か
      であり、かつ、被告は、延長の理由及び期間を請求者に対し書面により通
      知していないことは当事者間に争いがないから、本件条例11条2項の要件
      を満たしていないことは明かである。

   イ  これに対し、被告は、6月11日決定は、全体としてみれば6月7日決定の
      変更であり、6月7日決定の時点では15日以内の期限制限内であったか
      ら 、全体としてみれば決定期限を遵守している旨主張する。
       しかし、6月11日決定は、6月7日決定の重要部分を変更しているから、
      少なくとも変更された本件代表者氏名等については新たな決定がされた
      ことが明かであり、6月11日時点で上記期間を徒過している以上、新たな
      決定がされた部分については、同条項の要件を満たしていないといわざ
      るを得ない。

       もっとも、前記(1)に説示したとおり、行政庁は、一定の場合に自己が
      行なった決定を取り消すことができると解すべきであるが、本件条例の
      ような期限制限が存在すれば、その制限を徒過した以上、違法な行政
      行為によりいかなる利益が侵害されてもおよそ取消しが許されないとす
      ることは相当でない。本件のような期間制限が存在する場合であっても、
      期間経過の程度、処分の取消しによって生ずる不利益と取り消しをしな
      いことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持するこ
      との不利益を比較考量し、当該処分を放置することが公共の福祉の要
      請に照らし著しく不当であると認められる場合には、期間の経過後であっ
      てもなお取り消しが許されるものと解すべきである。

    ウ  以上を前提に検討するに、本件では、前記(1)に説示したとおり、6
       月7日決定が維持されると、開示された個人は容易にその特定がされ、
       場合によっては、不特定多数に自己の私生活の場を知られるおそれが
       あるなど大きな不利益を被ることになる一方、取り消しを行なった場合
       に原告が受ける不利益は大きくないことに加え、6月11日決定は、本
       件条例2条の定める期間を4日徒過したにすぎず、期限徒過の程度は
       大きいとはいえない。これらの事情にかんがみると、本件条例2条の
       期間制限を考慮したとしても、6月7日決定を放置することは公共の福
       祉の要請に照らし著しく不当であると認められる。

        したがって、本件代表者氏名等のうち本件違法部分を除いた部分に
       つき6月11日決定でこれを取り消したことは適法であると解される。
        なお、本件違法部分についての決定が、実体的のみならず手続的に
       も違法であることは前記(1)に説示したとおりである。

  (3) 以上によれば、6月11日決定は、6月7日決定のうち本件違法部分の開示
     決定を取り消した限度において、手続的にも違法である。

  3 争点(3)(その他の問題点(内容虚偽の文書及び偽計業務妨害))について

    原告は、被告が平成14年6月11日にした6月11日通知書(日付は6月7日付け)
   の作成は内容虚偽の文書の作成であり、また、6月11日通知書の日付けが同
   月7日であることを同月19日の午後9時になって初めて原告に明らかにし、6月
   11日通知書の原本を廃棄したことなどは被告の偽計業務妨害行為であって、
   これらは原告に対する違法行為になる旨主張している。

    そこで検討するに、第2の2(7)、(8)記載の事実及び証拠(甲9、30の1、2)に
   よれば、被告は当初、原告被告間において、6月7日の段階から6月11日決定の
   とおり決定がされたという扱いにするため、原告に対し、6月7日付通知書を6月
   11日通知書に差し替えるよう申し出たところ、原告がその申出を断ったため、
   その時点で新たな決定として6月11日決定を行なったものであり、6月11日決定
   に係る正式の通知書をそれより前の日付で作成することはできないため、6月19
   日付通知書を作成してこれを原告に交付したものであると認められる(なお、被
   告は、6月11日通知書は不成立文書であると主張するが、決裁権者による決裁
   がされている(甲30の1、2、弁論の全趣旨)以上、文書そのものが成立している
   ことは明かである。)。

    このように、自庁取消しを行うことなく、6月7日決定の通知書である6月7日付
   通知書を内容の異なる6月11日通知書と差し替えることにより自庁取消しに代
   替えさせることは、例え行政行為の相手方である原告が同意したとしても、許せ
   るものではないというほかない。しかしながら、原告は被告からの差替え申出を
   拒否する自由を当然に有しており、現に拒否しているのであって、被告が原告に
   対し6月7日付通知書と6月11日通知書との差替えを申し出る行為それ自体は
   原告の権利利益を何ら害するものではないのであるから、それが原告との関係
   において国家賠償法1条1項所定の違法行為となるとは認められない。

    また、6月11日決定に係る正式の通知書は6月19日付通知書なのであるから、
   被告担当者が原告に対し6月11日通知書の日付部分の記載内容を説明しなか
   ったり、6月11日決定の原本を保存しておかなかったからといって、それが原告
   に対する関係で国家賠償法1条1項所定の違法行為になると解することはできな
   い。
    したがって、これらの点に関する原告の主張は採用できない。

  4 争点(4)(原告の被った損害)について

  (1) コピー代について

    証拠(甲45の1ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、原告がコピー代として
    5920円を出損したことが認められるが、6月11日決定において本件違法部分
    を不開示とした違法と原告が上記のコピー代を出損したこととの間に法的因
    果関係があると認めることはできないから、この点に関する原告の主張は理
    由がない。

   (2) 紙、事務用品、印刷費用及び書面作成実費及び原告が本件のために費
      やした労力

    原告が、門真市長らの違法行為により紙代等や原告の労力につき何らかの
    損害を被ったことは明かであるが、何ら具体的立証がないため、これらは、慰
    謝料に含めて算定することとする。

   (3) 慰謝料

     前記認定にかかる門真市長らによる違法行為の内容、程度、被告の違法
    行為に対応するため原告が費やした時間、労力等及びその他本件で認められ
    る諸事情によれば、上記違法行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝する
    には20万円をもって相当と認める。

  5 よって、本訴請求は、被告に対し、20万円及びこれに対する違法行為後である
   平成14年8月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
   の支払いを求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容することとし、
   その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴
   訟法61条、64条本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項を各適用して、主文
   のとおり判決する。

大阪地方裁判所第18民事部

裁判長裁判官 佐 賀  義 史

裁判官  永 谷  幸 恵

   裁判官   神  原   浩