平成15年(ワ)第7583号

損害賠償請求事件

   原 告  戸 田 久 和

被 告    門  真  市
代表者市長  東 潤

準 備 書 面 4

平成15年12月19日

大阪地方裁判所
     第7民事部 合議3係 御中

被告訴訟代理人 弁護士  安 田   孝
同      弁護士 上 野 富 司

 

 上記当事者間の御庁・表記事件について、被告人は下記のとおり、答弁の理由を補充して陳述する。

第 1 原告の本件情報公開請求について

 原告の本件情報公開請求は、当然の事ながら、本件条例に基づく請求である。
 そして、門真市情報公開条例施行規則第2条1項には公文書開示請求書について(様式第1号)によるものと定めている(手引書57頁、なお様式については60頁)。

 請求書の様式には「請求の目的」を記載する欄がある。
 そして、門真市情報公開事務取扱要領第3の3の(2)のエ(手引書74頁)には、「この欄の記載は請求者の任意とし、・・・」と定めているので、原告の本件請求に当たっても当然この記載に従った取扱いがなされている。
 その上で、原告は自ら進んで「暗黒・錯乱行政の実態調査」なる目的を記載したのである。

 このような目的による情報公開請求に応じることは、被告が平成15年11月7日付け準備書面2の第2(2頁)に記載した本件条例4条の利用者の責務規定(これを原告は、いわゆる倫理規定であるというが、そうではない。表題には「責務」とあり、趣旨にも「本条は、利用者の責務について定めたものである」とあり、解釈には「利用者は、公文書の開示を請求するに当たっては、それが権利として認められる本来の目的、すなわち条例第1条の目的に沿って行わなければならない。また、利用者は、この条例によって得た情報を、第三者の権利を不当に侵害することのないよう社会生活上の良識に従って適正に使用しなければならない義務を負うものである。と義務規定であることを明確にしている。<手引書6頁>。」に照らすと到底正当な権利行使とは認められない。
 よって、権利の濫用であると判断した次第である(この点については更に後述する)。

 

第2 憲法、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下情報
    公開法という。)、門真市情報公開条例の関係について

 原告指摘のとおり、本件条例第1条・目的規定の解説として、「知る権利」についての記載がある。(手引書1頁)。
 曰く、「知る権利」については、憲法学上、国民主権の理念を背景に、表現の自由を定めた憲法21条に根拠付けて主張されることが多い。
 この主張は、表現の自由は、国民が広く思想や情報を伝達し、またそれを受け取る自由のみならず、政府が保有する情報の開示を求める権利をも含むという理解であり、この場合の後者が特に「知る権利」と呼ばれている。このような理解に立つ場合でも、「知る権利」は基本的に抽象的な権利であるにとどまり、法律による制度化を待って具体的な権利になると言う見解が有力である(このことは、従来から憲法第25条の生存権について種々議論があったところであり、最高裁判所昭和23年9月29日判決は「本条により直接に個々の国民は、国家に対して具体的、現実的な権利を有するものではない。社会的立法、社会的施設の創造拡充に従って初めて個々の国民の具体的、現実的な生活権は充足される」と判示している。)と。
 かくして、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(いわゆる情報公開法)が平成13年4月1日に施行された。

 本件条例はこの法に先立ち平成12年7月1日に施行された。 条例が先行したことになるが、本件条例が憲法に、或いは情報公開法に違反した内容を規定している訳ではない。
 上記のとおり、憲法前文の国民主権にのっとり、同法21条の言論等の自由の担保としての「知る権利」(明文化していないとしても)にも配慮して法文化されたものである。
 これら一連の法規制の流れから、門真市情報公開条例は、内容的にも違憲・違法ではない。

 本件情報公開請求に対する対応は、門真市情報公開条例の規定にのっとりなされるべきである事は常識である。
 即座に憲法の規定や、情報公開法や原告が盛んに引用する閣議決定に従ってなされるべきではないのである。

 ここで言うまでもないことであるが、憲法・法律・条例の関係について述べると、憲法は、地方公共団体の条例制定権についてその第94条に規定している。
 曰く「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条令を制定することができる。」と
 法律とは、この場合地方自治法を指す。
 同法第14条1項には「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて、第2条第2項の事務(固有事務、委任事務及び行政事務の全て)に関し、条例を制定することができる。」と規定されているからである。
 ここに言う法令には情報公開法も含まれ、同法第41条には「地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する情報の公開に関し必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう務めなければならない。」とあるが、9ヶ月先行施行された本件条例もこの趣旨を尊重した内容になっている。

 原告は、10月31日付け第1準備書面の5頁、6頁において、既に情報公開条例を制定している自治体においては、あとから制定された国の情報公開法の方が情報公開に進んでいる点がいくつかあるので、改正の要ありと言うが、どの点をどのように改正するのか、またその必要性があるのかは今後の課題であるから、原告の本件情報公開請求に関しては、現行の本件条例の規定によるべきであることは当然のことである。

 次に、原告が自己の主張の根拠として盛んに主張する閣議決定は、公益法人に対する国の指導基準であって、法律にも法令にも該当しない。
 くどいようではあるが、閣議決定とは、内閣の権限事項を閣議で定めることをいうのであって、内閣の提出の法律案・政令・予算案の決定などがその例であり、門真市情報公開条例による公開請求やこれに対する実施機関の決定を左右するものではないのである。

 

第3 憲法21条のいわゆる言論の自由について

 原告指摘のとおり、憲法21条には言論の自由の規定がある。
 しかし、無制限に自由であるかと言えばそうではない。
 最高裁判所昭和26年4月4日の大法廷決定は、「言論、出版その他の表現の自由は公共の福祉に反しえないのみならず、自己の自由意思に基づく公法関係上または私法関係上の義務によって制限を受ける」と明言している。

 言論の自由も、憲法上の基本的人権の一つであるが、憲法12条には、その濫用を禁ずる規定があり、これを受けて民法第1条の基本原則にも「権利ノ濫用ハ之を許サズ」とある。
 民法の規定は門真市情報公開条例の上位の法律であるから、更にこれを受けて条例第4条に請求権の正当行使の責務規定を置いているのである。
 原告の本件請求が、権利の濫用に当たることは、平成15年10月1日付け準備書面1第1の4〜6(3〜5頁)、平成15年11月7日付け準備書面2の第2(2頁)に記載したとおりであり、本件不開示に違法性はない。

 

第4 本件の争点について

 1 原告の本件請求が、本件条例の第4条、民法第1条3項、憲法第12条に違反し
   権利濫用に当たるか否か

 2 原告の本件請求に基づく本件不開示決定の適法、違法の判断に原告の言う閣
   議決定がその法的根拠たり得るのか の2点であると、被告は考えている。

以上