平成14年(ワ)第8041号 損害賠償請求事件
原 告 戸 田 久 和
被 告 門 真 市
争 点 整 理 案 ( 第 1 版 )
※ 主任裁判官限りで作成した争点整理案です。別紙「釈明事項」とあわせて、ご確認ください。
平成14年12月6日
第1 請求
被告は、原告に対し、83万5920円及びこれに対する平成14年8月9日から支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、被告の制定した門真市情報公開条例(以下「本件条
例」という。)に基づき、平成14年5月8日に門真市長らに対し「合併推進要望書」を
提出した団体について代表者の氏名住所等の情報公開を請求したところ、被告が一
度開示決定したにもかかわらずその開示決定を違法に取り消し、被告が開示義務を
負う上記団体の代表者氏名等についてほぼ全面不開示の違法な決定を行ったため、
コピー代等の出損を余儀なくされ損害を被ったと主張して、国家賠償法1条に基づき、
83万5920円及びこれに対する違法行為後である同年8月9日から支払済みまで
年5分の割合による損害賠償請求を行なう事案である。
2 前提となる事実(争いない事実等)
(1) 当事者等
原告は、門真市の区域内に住所を有しており、平成11年4月から門真市議会議
員の地位にある者である。
被告は、本件条例を制定した地方公共団体である。
本件条例は平成11年12月22日に制定され、平成12年7月1日から施行された。
(2) 経緯等
原告は、被告に対し(門真市市長及び同市教育委員会宛て)、平成14年5月23日、
本件条例5条に基づき、同月8日に同市市長らに対し「合併推進要望書」を提出した
別紙「一覧表」記載の団体を含む38団体について、平成13年度及び平成14年度の
@代表者の連絡先(住所)、A定款、B役員(理事)リスト、C総会・役員会(理事会)
資料、議事録、D被告からの補助金や人員派遣の実態が分かる資料(又はその現
物)に関する公文書について情報公開請求を行なった(甲8@及び同A。以下「本件
情報開示請求」という。)。
被告は、同年6月6日ないし同月7日、上記38団体のうち、被告が情報を有してい
る一覧表記載の28団体について、代表者の氏名・住所、役員の氏名、定款、総会資
料等に関する公文書を開示する旨の情報開示決定を行ない(以下「6月7日開示決定」
という。)、原告に対し、同月6日ないし7日付け「公文書開示決定通知書」(甲11@
ないし同42。以下「6月7日開示決定通知書」という。)を交付した(決定内容はおって
整理します。)。
原告及び被告は、6月7日開示決定に先立ち協議を行い、同月11日午後2時門真
市役所別館2階情報コーナーにおいて写しを交付するなどの方法により情報開示を
行なう旨事実上合意していた。
原告が、上記合意に基づき、同日同所に赴いたところ、被告は、 原告に対し、6月
7日開示決定のうち各団体の代表者の氏名・住所及び役員の氏名(ただし門真市会
議員である消防団長を除く。)は本件条例6条1号に規定する個人情報に該当しその
部分に関する開示決定は違法又は不当であるから、6月7日開示決定通知書を、
各団体の代表者の氏名・住所及び役員の氏名を開示しない旨を内容とした同月6月
7日付け「公文書不開示決定通知書」(甲31@ないし同23。以下「6月11日不開示
決定通知書」という。)と差し替えるよう申し入れた(以下「6月11日不開示決定」と
いう。)。
原告は、上記差替申入れを拒否した。
原告は、同日同所において、6月7日開示決定から代表者の氏名・住所及び役員の
氏名を除いた部分について、情報公開を受けた。
被告は、同月19日、改めて、一覧表記載の28団体について、代表者の連絡先(住
所)及び市職員を除く役員(理事 )リストを不開示とする旨の決定を行ない(以下「6月
19日不開示決定」という。)、同日付けの「公文書不開示決定通知書」(以下「6月19
日不開示決定通知書」という。)を被告に交付した。
3 争点
(1) 6月11日不開示決定の手続が違法か。
(2) 6月11日不開示決定の内容が適法か。
(3) 原告の被った被害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(6月11日不開示決定の手続が違法か。)
ア 原告の主張
(ア)決定期限の徒過
本件条例は、開示請求があったときは、当該開示請求書を受理した日から
15日以内に開示するかどうかの決定をしなければならない旨規定し(本件条
例11条1項)、事務処理上の困難等正当な理由がある場合には、延長の理
由及び期間を請求者に対し書面により通知した上で、30日を限度としてその
期間を延長できる旨規定している(同条2項)。そして、被告が本件条例の解
釈・運用の指針として作成した門真市情報公開条例門真市個人情報保護条
例手引書(甲4。以下「本件手引書」という。)においては、同項の「正当な理
由」とは、第三者情報を含むなどして期間内の決定が困難な場合、請求され
た情報が膨大である場合、天災等不測の災害場発生した場合、年末年始等
職務を行わない場合などとされているが、本件がこれらのいずれにも該当しな
いことは明白である。
したがって、6月11日不開示決定は本件条例11条に反し違法である。
(イ)決定の違法な取消し
被告は、6月7日開示決定において代表者の氏名・住所及び役員の氏名を
含め情報公開を行なうとの決定をしたにもかかわらず、開示実施予定日であっ
た同月11日に、原告に何の説明もなく、一方的に6月11日不開示決定を行な
った。その際、被告は、原告に対し、6月7日開示決定通知書を6月11日不開
示決定通知書と差し替えるよう申し入れたが、6月11日不開示決定通知書の
日付は平成14年6月6日又は同月7日付けとなっており、内容虚偽の文書で
あった。
実施期間が、一度行なった開示決定を請求者に不利益になる方向に変更す
ることは、本件条例、本件手引書、本件条例施行規則(甲2)又は門真市情報
公開事務取扱要領(甲4のB)のいずれにも記載がない。6月11日不開示決
定は、被告が、原告に対し、事前の通知もなく、全く恣意的に、内容虚偽の文
書を作成してきわめて大きな不利益を課したものであり、本件条例1条、3条、
11条、14条に違反し違法である。
イ 被告の主張
(ア)上記ア(ア)(決定期限の徒過)について
※ 被告は、この点について反論をお願いします。
(イ)上記ア(イ)(決定の違法な取消し)について
被告は、一度は6月7日開示決定を行なったものの、被告内部において、同
決定内容について疑義が生じたため、同決定を変更することとなり、担当部署
において、原告に6月7日決定通知書を返還してもらい、改めて一部不開示とし
た同日付けの公文書開示決定書を渡すという、いわゆる文書差替えの方法に
より新たな公文書開示決定書を渡そうと考えた。
しかし、原告の過去の言動から考えて、上記の文書差替えの方法で決定内
容の変更に応じるはずがなく、また、同じ日付けで内容の異なる決定書を作成
することにも問題があるため、正式に6月7日付け開示決定を取り消した上、
改めて一部不開示の決定を行ない、新たな公文書開示決定書を作成・交付し
たものである 。
したがっって、6月11日不開示決定通知書は成立していない文書であり、
原告の主張する内容虚偽の文書は存在しない。
誤った決定をその公開前に取り消し、改めて訂正された決定をすることは被告
の当然の職務であり、違法ではない。
(2) 6月11日不開示決定の内容が適法か。
ア 被告の主張(抗弁)
本件条例は、公文書を公開することが原則であるとしつつ(本件条例1条)、「実施
期間は、通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公にされることの
ないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定しており(同3条)、原則公開
の立場に立ちながらも、公開によって個人のプライバシーを侵害されることを許容し
ていないというべきである。
被告が6月11日不開示決定において不開示とした情報はすべて個人情報であり、
情報公開の対象から除外されている(本件条例6条1号本文)から、被告の行なった
6月11日不開示決定は適法である。
イ 原告の主張(再抗弁)
情報公開請求権は、知る権利を具体化したものであり、本件手引書冒頭には「市
の保有する情報は原則開示であって、不開示は例外として最小限にとどめる」ことが
明記されている。本件で問題となる一覧表記載の28団体の代表者氏名等は、以下
のとおり、いずれも本件条例6条に定める不開示事由に該当しないから、(本件条例
6条に1号アないしイに定める除外事由に該当するから、)これらを不開示とした6月
11日不開示決定は、本件条例に違反し、違法である。
(ア) 本件条例6条1号アについて
6月11日不開示決定の対象となった情報は、以下のとおり、本件条例1号ア
「法令若しくは条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが
予定されている情報」に該当する。
a 本件手引書は、38頁以下「適用外事項基準(不開示情報の判断指標)」に
おいて、本件条例6条1項により不開示とし得る個人情報の判断基準を示し
ている。その中で、本件手引書は、同条項アの具体例として、「公表すること
を前提として本人から任意に提供された情報」を挙げ、その例として「議会に
対する請願」を挙げている。
一覧表記載の28団体は、門真市長らに対し「合併要望推進書」を提出した
団体であり、被告に対し団体としての意思表示を行なっているから、少なくとも
代表者氏名は上記「公表することを前提として本人から任意に提出された情
報」にあたり、「法令若しくは条例の規定により又は慣行として公にされ、又は
公にすることが予定されている情報」(本件条例6条1号ア)に該当するから、
開示対象となる。
b 公益法人の役員名簿(住所を含む)は、平成8年9月20日に閣議決定された
「公益法人の設立許可及び指導監督基準」において、公開が義務づけられる
とされているから、社団法人大阪府公衆衛生協力会門真支部及び社団法人
門真市社会福祉協議会の代表者氏名・住所及び役員名簿は本件手引書42
頁記載の「法令又は条例の規定に基づき何人でも閲覧することができるとされ
ている情報」に該当するから(手引書40頁「その他何人でも閲覧することがで
きるとされている情報」に当たり、本件条例6条1号アに該当するから、)、開
示対象である(本件条例6条2号)。
c 守口門真商工会議所は、自らのホームページで役員氏名を公表しているので
あるから、(手引書40頁「個人が自主的に公表した資料から何人も知ることが
できる情報」に当たり、)開示対象となる。
(イ)本件条例6条1号イについて
6月11日不開示決定の対象となった情報は、以下のとおり、本件条例1号イ「公務
員の職務の遂行にかかる情報に含まれる当該公務員の職に関する情報」に該当する。
a 門真市消防団の団員は、すべて非常勤の地方公務員であり、団長及び副団長
は市職員の部長級として、分団長及び副分団長は課長代理級として定められて
いる(門真市消防団条例13条)から、本件において議員であるとの理由で開示
された団長のみならず、少なくとも副団長、分団長及び副分団長の氏名は、
(本件条例6条1号イに該当し、)開示対象である。
(ウ)その他
被告が補助金、助成金を出している団体に関してその代表者氏名・住所及び役員
氏名が開示されなければ、議員のみならず市民一般に対する説明責任を果たさない
ことになるから、この点でも一覧表記載の28団体の代表者氏名・住所及び役員氏名
は開示されるべきである。
※ 原告は、これを本件条例上の開示事由として主張されるのか、明らかにしてください。
(エ)一覧表記載の28団体は、被告に代表者名や役員リストを提供する際に不開示
の条件を付けずに提供していることは明かであるから、これらは「実施期間からの
要請を受けて、公にしないとの約束の下に任意に提供されたもので、法人等又は
個人における通例として公にしないこととされているもの」等には該当せず、開示
対象である(本件条例6条2項イ)。
※ 2号の主張も記載しておきますが、最終的には争点から除外するのが妥当と考えています。
ウ 被告の反論
(ア)上記イ(ア)について
a 同aについて
被告は、一覧表記載の28団体の役員名簿等を公表することを目的として作成し
又は取得していないから、開示事由とならない。
b 同bについて
閣議決定とは、内閣の権限事項を閣議で定めることをいうのであるから、独自に
条例を定めている被告が特別に閣議決定に従わなければならないものではなく、
被告独自の方針として本件条例に従った処理をすれば足りる。
c 同cについて
守口門真商工会議所が何らかの方法で公表しているからといって、被告も開示
しなければならないというわけではない。
(イ)上記イ(イ)について
a 同aについて
※ 被告は、この点について反論をお願いします。
(ウ)同(ウ)について
(エ)同(エ)について
役員名簿は本件条例の規定によれば、まず同6条1号の個人情報に該当するも
のであるから、原告の主張は失当である。
(3)原告の被った損害
ア 原告の主張
原告は、前記(1)及び(2)記載の被告の違法行為により、以下の損害を被った。
(ア)平成14年6月11日から現在まで、原告が情報公開請求の事情究明のために
支払ったコピー代金 5920円
(イ)紙、事務用品、印刷費用及び書面作成実費 5万円
(ウ)原告が本件のために費やした時間は150時間を下らない。原告の月収が64万
円であることから、これを1日8時間、月25日労働に換算して計算すると、1時間
あたり3200円となる。したがって、原告は48万円の損害を被った。
(エ)慰謝料 30万円
(オ)合計 83万5920円
イ 被告の主張
不知。
以上
平成14年(ワ)8041号 損害賠償請求事件
原 告 戸 田 久 和
被 告 門 真 市
釈 明 事 項
平成14年12月6日
1 原告は、開示の理由として、本件条例6条1号(個人情報)に該当しないことの
ほか、同条2号(法人情報)に該当しないことも主張されていますが、@被告が
抗弁として主張しているのは1号のみであること、A同条2号の本来の趣旨は、
法人の営業の秘密等を不開示とする点にあり、氏名を不開示とする理由として
は考えにくいことを考慮すると、争点を1号の解釈に絞り込んだ方が妥当かと思
われます。整理案において、原告が従来2号の問題として主張されていたもの
で、1号に読み替えることができるものは、下線を引いておきました。ご検討くだ
さい。
2 被告に対し 平成14年6月11日及び同月19日の不開示決定は、同月7日の
開示決定を前提とした上で、その一部(代表者氏名、住所、役員名簿)を取り消す
趣旨のものということでよろしいでしょうか。同月11日に、文書の「差替え」を要求
したと主張されており、同月7日の決定を完全に取消すものとも解釈できるので、
この点明らかにしてください。
以上
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