国賠訴訟;地裁 第2準備書面(2

2;情報公開判断の大原則について

 本件事件においては、「請求者に開示決定を出して開示日も決め、開示決定期限も過ぎてから、6.11の開示日当日になって、請求人に不利益な不開示決定を行なうこと自体が情報公開条例違反であって、当初の「6.7開示決定」通りに情報開示を開示をするのが当然であるから、本来それ以上の検討は不要である。
  しかし、「個人情報保護」に名を借りた被告門真市の違法行為を具体的に分析指摘して、情報公開と個人情報保護の正しいあり方を公衆に示していくことも一定必要でもあろうと考慮して、裁判官諸氏に対しては「釈迦に説法」であることを恐縮しつつ、以下に論証を行なっていくこととする。

A:開示・不開示の判断は純粋中立に情報公開条例条文(とその手引書)に依らなければならない。

 これは読んで字の如しである。行政事務のイロハであり、これに異を唱える者はどこにもいないはずである。
 条文やその解釈と実務を定めた手引書に反したことをしてはならないし、そこに規定していないことをしたり、開示請求者個別に対する色分けや動機の推測、その時々の政治的判断を加味してはならないのである。
 もし万一、自ら定めた条例や手引書に不備があったとしたら、それを改定するのが先であって、その作業もなしに現存の条文や手引書に反することをすることができないのは、当然である。

B;法令や閣議決定で公開が決まっているものを自治体が不開示にすることはできない。

 これも異を唱える者はどこにもいないはずである。自治体が保有する公益法人の役員名簿の開示問題は、まさにこれに該当する。
 この点は、原告準備書面の[4:市が情報公開条例および刑法に違反していることの説明〜V]に詳細に述べられていることである。
  もし万々一、法令や閣議決定での開示に自治体が異議を持つ事例が発生したら、その旨を明確に主張して国や政府に対して改善の申し入れをするのが住民の安全を預かる自治体としての絶対的な責務であるし、その結論が出るまでは、自治体独自の「不開示決定」は法令違反・条例違反として処断されることを甘受しなければならない。
 それを為さずして、個別自治体が勝手に法令や閣議決定に反して情報不開示をすることは、違法行為であり、開示請求者に対する違法な嫌がらせ以外の何者でもない。

C;国や都道府県が開示しているものを市町村が不開示にすることはできない。

 よその公機関、とりわけ国や都道府県が現に開示しているものを、情報公開条例を持つ市町村 が不開示にするなどは、およそ情報公開条例の趣旨からして想像もできないことである。
 門真市が保有する公益法人の役員名簿の開示問題は、この点でもまさにこれに該当する。
 もし万々一、国や都道府県での開示に市町村が異議を持つとしたら、その旨を明確に主張すると共に、国や都道府県政府に対して改善の申し入れをするのが、一般的に考えて自治体としての責務であろうが、門真市情報公開条例では国や都道府県との開示判断の食い違いを想定した規定は全く無いし、現に被告もそのような主張も働きかけも全くしようとしないのであって、その実態を見れば、国や都道府県の機関で開示を受けられる情報を、門真市だけが勝手に不開示にするという被告の行動は、情報公開条例に違反した、開示請求者に対する違法な嫌がらせ以外の何ものでもないことは明白である。

D;開示請求者の動機推測や個人評価を加味して判断してはならない。

 本年5月・6月頃、防衛庁が情報公開請求をした市民に対して、それぞれ「市民オンブズ」とか、「弁護士」、「反戦自衛官」などと色分けして、開示請求とは関係ない所で収集したとしか思えない勤務先や経歴などの個人情報まで付けた一覧表を作成して、庁内で回覧していたことが発覚して大問題になり、国会での「個人情報保護法」制定などの政府の予定が一挙に吹き飛んだことは記憶に生々しいところである。
 この事件に際して世論や報道機関が批判したのは、開示請求者をある種敵視して一種のブラックリストを作成したに等しい点と、請求者がどういう人間であるかによって情報の開示・不開示の判断根拠にしているのではないか、という点だった。
 この時、違法行為発覚に慌てた防衛庁が弁明に努めたことは、、請求者がどういう人間であるかによって開示判断をすることは決してない。それは情報公開制度の当然の前提である」、ということだった。
 要するに違法な「個人情報付請求者一覧表」を作成して回覧していた防衛庁でさえ、声を大にして強調しなければならないほど、「開示請求への決定にあたって請求者への個人評価を加味して判断してはならない」、というのは情報公開判断の大原則なのである。
 また、「請求者の動機の推測を判断に加味してはならない」というのも自明の大原則なのであって、万々が一にも動機の推測が判断材料に加味されてもよいとされるならば、実施機関の好き勝手な推測・心証による全くの自由裁量で開示・不開示の判断がされることになり、およそ「法の下での平等」や「明文規定主義」の近代国家の大原則が消滅してしまうのである。

E;その時々の政治的状況判断を加味して判断してはならない。

 判断の基準は唯一、情報公開条例条文(とその手引書)なのであって、もしその時々の政治的状況判断を加味して判断することが許されるならば、実施機関やその担当者にとってその時々に都合の悪い情報を、好きなように不開示にして市民や報道機関、世論の追及にフタをすることが可能になってしまい、情報公開の根本趣旨に反し、公益にも反することになってしまう。
 防衛庁リスト事件を例に挙げて想定するならば、問題のリストを作成した部署の管理責任者の氏名・肩書きの開示を求められて、「善良な市民はともかく反自衛隊活動をこととする過激派を利することになる」とか、「外国諜報機関にまで氏名を知られることになる」、「個人への不当な攻撃の可能性がある」などとして、責任ある幹部職員氏名を隠ぺいすることで事件追及を押さえてしまうことである。
 こういった公機関による「情勢判断」「恐れの判断」なるものは、当局者がいくらでも言い立てることのできる検証不能な、客観性のない主張であって、開示判断とは全く別次元の問題に過ぎない。

F:議会に提出された情報は公開が大原則である。

 「議会公開の大原則」は日本国憲法と議会制民主主義の根幹原則のひとつであり、議会というのは議員を市民の代表・代理人として、行政から出された情報を審議するのであるから、特段に「秘密会」や「不開示情報」の明確な指定がない限り、議会に出された情報は全て公開されるのが当然だし、またそうでなければならない。
 例えば、議会での議決を経るある地域の住居表示変更に関して、全議員にその地域の世帯主名と新旧住所の一覧表(新旧住所表示対照表)が配布されたが(甲第52号証)、これについては一般公開しないことや他の用途に使用しないことなどが予め注意されて、議員も了承している。
 こういうものだけが「議会には出されたが不開示」となる情報なのであって、補助金など公金の支出先団体からの決算報告書記載の代表者・会計・監査の氏名が情報公開制度で不開示になるなどは、およそあってはならないことである。

G:公金支出先団体の責任者氏名は公開されるのが当たり前である。

 公明正大な行政運営と公金支出を担保するために、これも言うまでもないことである。

H:公人や幹部級公務員の氏名は公開が当たり前である。

 「公の存在」だから「公人」なのであって、「公人」であるにも拘わらずその氏名は公開できないなどは、この民主国家の日本にあって正気の沙汰とは思えない話である。これではまるでどこかの秘密警察国家と同じではないか。
 「公人」としての地位や職権、報酬は保証するがその氏名は世間に対して秘密である、という虫のいい話はまさに腐敗の温床であって、断じて排撃されなければならない。
 幹部級公務員については、極秘捜査の必要性などがある特殊な部署ならいざ知らず、市町村が抱える公務員について「その氏名・肩書きが個人情報で秘密」などは、全くタワケた話である。

I:本人が公知したり図書館や一般新聞で報道されているものは当然開示対象である。

 これも当たり前すぎて改めて言うまでもない事である。
 「自らパンフレットやホームページなどで公開」していたり、「図書館にある書籍に載っていたり」、「一般新聞で報道されている」役職・氏名を自治体がわざわざ不開示にする必要や公益があると言うのか? こういうものが不開示になり得ないことは、門真市情報公開条例の手引きに書いてあるだけでなく、そもそも自明のことである。

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