調 停 申 請 書

平成15年5月22日

大阪府公害審査会 御中

                      申 請 人 住 所 門真市南野口町○○番○号
                              氏 名 横 江 信 春 外2607名

                       代 理 人 住 所 大阪市北区西天満4丁目3番25号
                                          梅田プラザビル9階        
                                   大川・村松・坂本法律事務所
                                       電話 06-6361-0309
                                       FAX  06-6361-0520
                               氏 名 弁護士 村 松 昭 夫
                                                 外6名

公害紛争処理法26条第1項の規定に基づき下記のとおり調停を申請します。

1 当事者の氏名(名称)及び住所

 (1) 申請人
     当事者目録記載のとおり

 (2) 申請人ら代理人
     代理人目録記載のとおり

 (3) 被申請人
     住所 東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
     氏名 国
         代表者 法務大臣 森 山 真 弓
     住所 東京都千代田区霞が関3丁目3番2号
     氏名 日本道路公団
         代表者 総裁 藤 井 治 芳

2 事業活動その他の人の活動の行われた場所

  大阪府門真市南野口町を主とする周辺地域(以下本件地域という)

3 被害の生じた場所及び生じるおそれのある場所

   2の地域

4 調停を求める事項

 (1) 被申請人ら(国、日本道路公団)は、第2京阪道路(以下本件道路という)の環境
   影響評価(環境アセスメント)手続きをやり直すこと。その場合には、本件道路の
   影響が深刻になると予想される本件地域を調査地点に追加すること。

 (2) 被申請人らは、上記環境影響評価手続きの結果に基づいて、大気汚染(とりわ
   け二酸化窒素、浮遊粒子状物質など)、騒音、振動、低周波などに関連する十分
   な公害防止対策(車線削減も含めて)を行うこと。

 (3) 被申請人らは、本件道路建設にあたって、地域分断及び地域住民の公共施設
   等へのアクセス障害が生じないように十分な対策を行うこと。

 (4) 被申請人らは、本件調停中は本件道路の建設工事の強行を行わないこと。

5 調停を求める理由及び紛争の経過

 (1) 当事者

    請人らの内、当事者目録(1)から同目録(43)記載の者たちは、門真南野口町
   及び本件道路建設予定地周辺に居住する者たちであり、同目録(44)記載の者
   たちは、本件地域に職場のある者たちである。なお、南野口町では、住民の過半
   数以上が申請人となっている。
    被申請人らは、本件道路の建設の事業主体である。

 (2) 本件道路の概要

   @ 本件道路の区間及び延長

     本件道路は、正式名称を都市計画道路大阪枚方京都線といい、大阪府門真
    市稗島を起点に、寝屋川市、四条畷市、交野市、枚方市の5市を通過して、京
    都市伏見区横大路まで、延長29.7km(大阪府内17.6km)の自動車専用道路と
    一般道路を建設しようとするものである(図面1参照)。

   A 本件道路の構造及び計画交通量

     建設省(当時)近畿地方建設局の資料によれば、車線数は、専用部が6車線 、
    一般部が2車線(大阪府と京都府との府界から一般国道170号まで)ないし4車
    線(一般国道170号から主要地方道大阪中央環状線まで)であり、大阪府内の
    大部分は自動車専用部と一般部の2階建構造である(図面2参照)。幅員は60
    mないし120mであり、計画交通量は、少ないところで1日7万台、多いところでは
    1日13万台にも上る。

   B 本件道路の計画決定の経緯

     本件道路は、昭和44年5月、大阪府により、門真市の一部(0.5km)を除く大阪
    府域(17.1km)が都市計画決定され、上記門真市の一部については昭和46年
    2月に都市計画決定された。その後、都市計画決定後長期間が経過し土地利
    用状況等に著しい変化があったことを理由として、大阪府は、平成2年4月、門
    真、寝屋川、四条畷市域について都市計画変更を行い、平成4年1月には、交
    野、枚方両市域について都市計画変更を行った。

   C 本件道路の必要性及び役割についての国の説明

     本件道路の必要性について国の説明は下記のとおりであるが、申請人らを含
     む門真市民にとっての必要性についてはきわめて一般的なものに過ぎず、具
    体的検討はなされていない。申請人らを含む門真市民からは「通過交通改善の
    犠牲にされるのではないか」との懸念の声が上がっている。

   @ 淀川左岸地域において慢性的な渋滞状況を呈している一般国道1号線等の
     幹線道路の交通負荷を軽減する必要がある。

   A あわせて、淀川左岸地域における地域内交通を円滑にし、交通環境および地
     域環境の改善を図る必要がある。

   B 京阪神都市圏を活性化するためには、圏域の中心となっている京都、大阪、
     神戸三都市の連携を強化するとともに名神高速道路の機能回復を図る必要が
     ある。このためには高速性を有し、京都・大阪都市圏間の交通を効率的に処理
     する都市間連絡道路の整備が必要である。  

   C 住宅開発が活発な淀川左岸地域の山麓部においては、今後交通需要の増
     大が見込まれるのでこれに対応する必要がある。

   D 関西国際空港や関西文化学術研究都市等の計画に合わせ、近畿の明日を
     担うためのサービス水準の高い道路の建設が求められている。

   D 本件道路の工事の進捗状況

     京都の横大路インターチェンジから枚方北インターチェンジまでは自動車専用
    部が開通している。
      それ以外の地域については、国と公団は、予備設計にともなう地元説明会を
    行っている最中であり、その後詳細設計を経て今年中にも着工するという段階
    である。

  (3)本件地域の特性  

   @ 地理的特性

      門真市は大阪府の北東部にあり、市域は東西5q、南北4.5qで、面積は
     12.28kuである。
      門真市における本件道路が通過する地域は、市域の中でも比較的農地等の
     空閑地が残された南部市街地であり、本件道路はその中央を南西から北東に
     かけて通過する。
      本件道路の沿道は、標高0ないし2mの低湿地帯であり、門真市においては歴
     史的な景観や環境を有した旧集落地や農地のほか、新興の住宅地や工業・流
     通地域となっている。
      申請人らの居住する本件地域には、沖小学校、府立門真なみはや高校、門
     真第二中学校、南保育園、南幼稚園、南小学校、あすなろ保育園等の学校や
     幼稚園・保育所がある。また、青少年活動センター、図書館沖分室、南部市民
     センター(市役所支所)等の公共施設、病院、大規模ショッピングセンターなど
     多数の住民が集う施設が存在している。

   A 著しく高い人口密度    

     門真市は、市域面積12.28kuに対して約13万5648人の人口が居住し(平成12
    年国勢調査による)、市域面積に対する人口密度は約11046人/kuであり、大阪
    府下では守口市、大阪市に次いで高い。
     本件地域では、南野口町に2077人、沖町に1173人、舟田町に4172人、上・下
    島頭には4265人が居住している(平成12年国勢調査による)。  

   B 幹線道路の集中と膨大な自動車交通量

      門真市では、狭い市域内に既に縦横に広域・地域幹線道路が走っており、市域
     面積に占める広域・地域幹線道路の延長面積の割合は、大阪府下で有数の高さ
     である。    
      現在、門真市を通過している道路は、南北方向では近畿自動車道、大阪中央環
     状線、東西方向では国道163号の広域幹線道路があるほか、八尾枚方線、仁和
     寺東大阪線、深野南寺方大阪線、寝屋川大東線などがある。このうち国道163号
     から門真団地の南に至る寝屋川大東線については、幅員32メートルで高さ25.8mに
     及ぶ3層構造の道路とする都市計画決定がなされている。
      本件地域は、本件道路が建設されると、本件道路と国道163号及び寝屋川大東
     線の3つの幹線道路に三方から取り囲まれる「魔の三角地帯」となる。
      現在、国道163号の自動車交通量は1日4万6000台ないし4万9000台であり、
     寝屋川大東線の自動車交通量は1万台ないし1万5000台である。これに本件道路
     の12万5000台が上乗せされることになる。

    C 現状でも深刻な大気汚染

      平成13年度の大阪府の大気汚染常時監視測定局(門真市南)におけるNO2
     (二酸化窒素)濃度は 0.053ppm であり環境基準の上限に近く、また、SPM(浮遊
     粒子状物質)はすでに現状でも環境基準不適合である。
      このように現状でも深刻な大気汚染が、本件道路の開通によりいっそう深刻さを
     増し、申請人らの生活に重大な影響を及ぼすことが懸念されている。

  (4)本件環境アセスメントの内容

    本件道路の環境影響評価(環境アセスメント)手続は、昭和62年から行われたが、
   当時は環境アセスメント法が制定されていなかったことから、大阪府は、建設省
   (現国土交通省)の環境影響評価要綱に府の環境影響評価要綱を加味してアセ
   スメント手続を行い、最終的には、平成2年3月に環境影響評価書が作成された。  
    上記評価書は、予測対象時期を当初の道路完成予定時期である平成12年とし、
   予測及び評価を行う環境要素は、大気汚染(二酸化窒素、一酸化窒素)、騒音、
   振動とし、予測対象地域は表1の通りであり、予測交通量は表2の通りである。
     予測結果は、大気汚染に関しては表3、騒音に関しては表4、振動に関しては表5
   の通りである。
     また、評価結果も、大気汚染に関しては表6、7、騒音に関しては表8、振動に関
   しては表9の通りであり、騒音において一部保全目標値を上回り対策が必要であ
   るが、他の項目に関しては、本件道路が建設されても保全目標を達成するという
   内容である。

  (5)門真市第2京阪道路環境影響検討専門委員会の報告書の指摘  

    門真市は、昭和63年1月、本件道路が建設されることによる大気汚染、騒音、
   振動、その他の公害の程度、並びに動植物等の自然環境に及ぼす影響や住民
   生活体系、地域交通体系等への社会的、経済的な影響、その他予測される影響
   を検討することを目的にして、「門真市第2京阪道路環境影響検討専門委員会」
   を設置した。そして、同専門委員会は、大阪府によって提示された「環境影響評
   価準備書案」ならびに「環境影響評価準備書案(その2)」を検討して、平成元年
   3月に、報告書を作成し、門真市長に提出している。
    上記報告書では、本件環境アセスメントの基本的問題点として、以下の点を指
   摘している。

    第1に、利益衡量の不明確性の指摘である。すなわち、本来は、評価基準は現
  状非悪化原則による評価によるべきであるが、現実に行われている環境影響評
  価の多くが影響最小化原則による評価ないし環境基準値までは悪化しても良いと
  いう評価となっていると指摘し、それは利益衡量の考え方にもとづいており、そう
  であれば、事業の効果と利益を明確にしなければならないのは当然であるが、準
  備書案は、具体的な沿道地域での効果及び損失についての記載が欠如している
  と批判し、これは準備書案の重大な欠陥であるとしている。

    第2に、地域特性を無視している点を批判している。すなわち、具体的な効果と
   損失を検討するためには、地域の状況を具体的に把握しなければならないが、
   準備書案では市区町村より狭い地域についての評価が実施されていないにとど
   まらず、市単位での評価も行われていないことを指摘している。

    第3に、予測対象時期の問題として、準備書案では、予測対象時期は平成12年
   となっているが、当時の現状から見てもその時期に供用されることは疑わしく、
   この前提に変更が生じれば準備書案の信頼性が損なわれ、環境影響評価の科
   学性を疑わしめると指摘し、環境影響評価は、環境へのインパクトが最大となる
   時期とすべきはアセスメントの目的からも当然であると批判している。

    第4に、予測の対象とすべき地域の範囲の問題として、本件のような幹線道路
   では環境への影響は広範囲に及び、また、他の道路の影響も考慮すべきである
   が、こうした広域的な影響評価を行っていない準備書案には重大な欠陥があると
   している。

    第5に、推計方法についても、パラメーターが示されていないことなどを問題点と
   して指摘している。

    第6に、バックグラウンドの推定の問題として、準備書案は、大阪府の予測をそ
   のまま用いているが、これは現実の汚染の推移を反映しておらず、机上のプラン
   に過ぎないと批判し、騒音に関しては、バックグラウンドについてさえ 考慮されて
   いないと指摘している。

    第7に、道路構造の問題として、準備書案は、高架構造を既定の構造としてい
   るが、環境への影響を最小にするための構造上の配慮が必要であり、そうした
   検討ないし代替案の検討が行われていないことは重大な問題であると指摘し
   ている。

    その上で、報告書は、評価すべき環境項目、将来交通量の予測及び交通条件、
   大気汚染の予測・評価、騒音の予測及び評価、振動の予測及び評価などの個
   別項目に関しても様々な問題点を指摘している。
    そして、報告書が指摘している問題点は、最終的な環境影響評価書にも引き
   継がれている。

  (6)再度の環境アセスメント手続の必要性

     第1に、本件アセスメント手続はすでにその実施から長期間経過しており、その
   予測結果及び評価の有効性には大きな疑問がある。前述のように、本件環境ア
   セスメント手続では、平成2年3月に評価書が作成され、そこにおける予測対象
   年度は平成12年とされている。つまり、本件環境アセスメント手続は、その手続
   の実施からすでに13年も経過していることに加え、現在では予測対象年度を3年
   も経過している状況である。いうまでもなく、環境アセスメント手続は、手続を行っ
   た年度の諸条件を基礎にして、予測対象年度における経済的、社会的状況、さ
   らに、周辺環境の状況の変化を予測し、これらを前提にして当該汚染源が環境
   に及ぼす影響を予測、評価する手続である。従って、こうした予測はいくつかの
   不確定要素を前提としており、この間の激しい経済的社会的変動を考えれば、
   そもそも予測から13年が経過し、かつ予測対象年度さえ経過している環境アセ
   スメント手続がそのまま有効性を有しているとは到底言えない。加えて、現在で
   は、環境アセスメント手続法も制定されている。従って、本件環境アセスメント手
   続は、その時間的経過だけを見てもすでに「賞味期限」を大幅に越えているもの
   であり、再度の環境アセスメント手続の必要性は不可欠である。  

    第2に、内容的に見ても、予測環境要素のなかに、現在大気環境で最も問題と
   されている浮遊粒子状物質が含まれていない点は大きな問題である。平成7年
   7月の西淀川大気汚染公害裁判(2次〜4次)判決が初めて自動車排ガスの健
   康影響を認めて以来、同10年の川崎公害裁判(2次)判決、同12年の尼崎公害
   裁判判決、名古屋南部公害裁判判決、さらに同14年10月の東京大気裁判
   (一次)判決と、次々に自動車排ガスの健康影響を認める判決が出され、とりわ
   け、各判決では、動物実験や疫学調査の進展を踏まえて、浮遊粒状物質(SP
   M)のなかでも、ディーゼル車から排出される微粒子(DEP)を中心とする微細粒
   子(PM2.5)の健康への危険性を強く指摘している。現在では、PM2.5を含むSP
   Mが、二酸化窒素とともに大気汚染の最も危険な汚染物質であるとする認識は
   常識となっている。ところが、本件環境アセスメント手続においては、SPMは予
   測対象物質にされておらず、当然のことに予測評価が行われていない。このこ
   とは、本件環境アセスメント手続の結果が、現状では時代遅れになっているこ
   とを端的に示しているものであり、再度の環境アセスメント手続実施の必要性
   を強く示唆している。実際にも、門真市内の常時監視局のSPM濃度は、環境
   基準未達成であり、この点からもSPMを予測対象物質とする環境アセスメント
   手続の実施が求められている。  

    第3に、本件環境アセスメント手続の予測結果によれば、本件道路が供用開始
   されても、門真市沖町などの二酸化窒素濃度は0.05ppmとなり、環境基準をクリ
   アーするとされている。ところが、平成13年における、門真南の常時監視局の測
   定値は、0.053ppmであり、本件道路の建設前であるにもかかわらず、すでに本件
   環境アセスメント手続のバックグラウンド濃度ばかりでなく、本件道路供用後の予
   測値もオーバーしている。そればかりか、本件環境アセスメント手続によれば本件
   道路による二酸化窒素濃度のインパクト(影響)は、0.007ppmとされており、この
   数値をそのまま採用したとしても、本件道路が供用開始されれば環境基準値の
   上限値0.06ppmぎりぎりになるという結果になる。本件環境アセスメント手続のバ
   ックグラウンド濃度や影響の予測が大幅に甘すぎたことがわかる。引いては、本
   件道路からの排ガスの影響予測に関しても大きな疑問が生じるものである。こうし
   た予測の甘さ、杜撰さは、本件環境アセスメント手続の有効性に決定的な疑問を
   抱かせるものであり、この点からも再度の環境アセスメント手続実施は不可欠で
   ある。

    第4に、もともと本件環境アセスメント手続においては、気象条件の把握の不十
   分性、平均走行速度の設定が実際の走行実態と違うこと、予測手法が現状にあっ
   ていないことなどが指摘されており、こうしたことからも、環境アセスメント手続を再
   度実施することが求められている。

  (7)本件道路による深刻な影響と万全な公害対策の必要性

    本件道路による本件地域の深刻な環境悪化に関しては、この間の大気汚染公
   害裁判の判決を見ても容易に推認できる。前述のように、平成7年の西淀川公
   害裁判判決以来、各判決では、大型幹線道路沿道50b以内においては、自動
   車排ガスによる健康影響が発生していることが認定されている。とりわけ、昨年
   10月の東京大気裁判判決では、昼間12時間交通量4万台、一定の大型車混入
   率を基本的な基準として、その道路沿道に関しては 健康被害が発生していると
   認定し、さらに複数の道路に囲まれた地域に関しては複数の道路からの影響を
   考慮すべきであるとも判示している。

    本件地域は、本件道路が建設されれば、第2京阪道路、国道163号線、寝屋川
   大東線などの幹線道路に囲まれた「魔の三角地帯」となり、これら各道路の交通
   量を合計すれば1日交通量は17万代にも達することになる。こうした交通量は、
   前述の大気汚染裁判において沿道における健康影響が認められた各幹線道路の
   交通量を大幅に上回ることは明らかである。加えて、大型車の通行も相当量が予
   想されている。
    従って、本件地域は、本件道路の各沿道のなかでも特に深刻な影響が予想され
   るところであり、万全な公害対策の実施が強く求められている。

  (8)地域住民と被申請人らとの交渉経過  

  @ 第二京阪国道公害反対連絡会議の結成等  

    前述のとおり、本件道路事業は、昭和44年5月、門真市の一部(0.5km)を除く
   大阪府域(17.1km)が都市計画決定され、昭和46年2月、門真市の一部(0.5km)
   が都市計画決定された。その後、平成2年4月には門真、寝屋川、四條畷市域に
   ついて、平成4年1月には交野、枚方市域について、都市計画変更がなされている。

    本件道路の事業計画の具体化にともない、各方面から沿線地域の環境への悪
   影響が指摘されるようになった。たとえば、昭和63年11月には大阪弁護士会が
   「第二京阪道路建設計画に対する意見書」で、本件道路の建設にともなう大気汚
   染、騒音・振動等による沿線地域の環境悪化の懸念を示した。平成元年1月には
   門真市第2京阪道路対策協議会がその報告書の中で同様の懸念を表明した。ま
   た、同年3月には門真市が委託した第2京阪道路環境影響検討専門委員会は、そ
   の報告書の中で、大阪府の環境影響評価について、検討項目の欠落や検討内容
   に疑問点があることを指摘するとともに、その評価にも疑問があるなど不十分なも
   のであるとの見解を示した。

    このような状況の下で、枚方、交野、寝屋川、門真市といった大阪府下の沿線自
  治体では、本件道路の建設にともなう交通量の増加による環境の悪化を懸念した
  住民による公害反対運動が活発化するようになった。そして、沿線自治体住民相互
  の情報交換や公害反対運動の交流を図るため、枚方、交野、寝屋川、門真の沿線
  4市住民により「第二京阪国道公害反対連絡会議」(以下「連絡会議」という)が結
  成された。

    連絡会議は、本件道路の公害対策として、高架部分のシェルター化、堀割部分の
  蓋かけ、脱硝装置つきの換気施設の設置を4市住民の共通の要求とし、その実現の
  ための今日まで取り組んできている。
    他方、連絡会議は、平成4年8月、シェルターや脱硝装置の設置等の問題につい
  て浪速国道工事事務所(以下「浪国」という)と交渉したが、浪国は、いずれの要求
  も拒否した。同年9月には、連絡会議の代表者が約7万8000筆を得た「シェルター・
  ふたかけ・脱硝装置の設置を求める要求署名」を持参して上京し、旧建設省、公団
  に対しシェルターや脱硝装置の設置を要望した。しかし、旧建設省及び公団は、脱
  硝装置は実用化に至っていないこと、シェルターの設置等は環境影響評価が環境
  基準の範囲内であることを理由に沿線住民のこの切実な要求に背を向けている。

    その後も毎年、連絡会議は、旧建設省、公団との交渉を毎年重ねてきたが、旧建
  設省や公団は環境影響評価が環境基準を満たしているとの理由で連絡会議の要望
  を無視し続け、話し合いは平行線のまま推移してきた。平成10年7月5日には「環境
  影響評価を再度実施することを求める要望書」を提出したが、旧建設省や公団からは
  環境影響評価の再実施に前向きな回答はなかった。

   A 門真市内の反対運動の展開  

     昭和61年11月には、門真市内の計画地域の沿線住民により連絡会議の門真
    ブロックが結成された。門真ブロックは、平成5年には、5つの地元自治会が参加
    する、個人参加を含めると2200世帯を擁するまでになり、本件道路の建設にとも
    なう公害反対運動の門真市内における中心的存在となった。  
     平成2年10月30日、本件地域(上下島頭自治会、公害から環境を守る南野口の
    会、日新自治会、沖南の会、宮前町自治会等)の住民は、建設大臣、近畿地方
    建設局長、浪速国道工事事務所長宛に要望書を提出し、シェルターの設置や築
    堤等の公害対策を求めた。これは、本件道路の建設にともなう環境悪化の懸念
    が平成元年1月の門真市第2京阪道路対策協議会の報告書や同年3月の門真
    市第2京阪道路環境影響検討専門委員会の報告書等で指摘されたものを受けた
    ものである。  

     その後も門真ブロックは、連絡会議の旧建設省や公団との交渉、浪国や公団と
    の交渉に参加するとともに、単独で浪国や公団と交渉を重ねてきたが、被申請人
    らが住民の要望を拒否する姿勢を取り続けていることは前述のとおりである。
      また、門真ブロックは、平成7年12月、同8年5月、同9年7月、同10年7月の連絡
    会議の対大阪府交渉に参加し、都市計画審議会の付帯意見及び評価委員会の
    意見の尊重を求めるとともに、平成8年5月、同9年8月、同10年6月の対門真市交
    渉では、市長の意見書の実現に責任をもって取り組むよう求めるなど、事業主体へ
    の働き掛けを期待して大阪府や門真市と交渉を重ねてきた。

      さらに、大阪府の境影響評価が当初予定されていた供用開始時期(平成12年)
    を過ぎて時代遅れとなっており、バックグラウンドデータも評価時点とは大きく異な
    る現状を正しく反映するものではないことから、平成11年11月には、環境影響評
    価の再実施を求める要望書を門真市長と門真市議会に提出するなどしてきた。

   B 地元説明会の開催

      被申請人らは、本件道路事業を進めるにあたって、工事着工までに予備設計
    及び詳細設計の各段階で地元説明会の実施を予定している。
      そこで、被申請人らは、本件地域においては、平成11年7月から順次、計画対
    象地域の沿線自治会を対象に自治会単位での予備設計段階の地元説明会を実
    施している。門真市内においては、7月から10月にかけて、稗島、北島、三ツ島、
    門真団地周辺など計画地域の南側地域での説明会が順次行われた。その後も
    地元自治会での説明会が開かれ、平成14年には、北巣本、下島、南野口町など
    で説明会が開かれた。南野口自治会では、同年7月、説明会に先立ち、公害対
    策を求める要望書を国交省及び浪国宛に提出している。平成15年には、日新自
    治会で説明会が開かれたが、本件道路の建設による環境悪化が強く懸念される
    上下島頭自治会ではいまだに説明会が開かれていない。

    上下島頭自治会と沖南の会は共同で、平成13年11月28日、浪国宛に要求書を
    提出し、環境影響評価の再実施、大気汚染が環境基準を上回ることがないよう
    全面シェルターの設置などを求めた。これに対する回答が平成14年5月28日の
    説明会で示されたが、その内容が不十分であったため同年10月30日、浪国宛、
    「第二京阪道路(大阪北道路を含む)建設、寝屋川大東線拡幅に関する要求書」
    と題する要望書が再度提出された。  

     なお、浪国、公団枚方工事事務所、大阪府枚方土木事務所によるこれまで開
    かれた説明会では、本件道路の車線と道路構造の説明が主な内容で、近畿自
    動車道、中央環状や国道163号線などの交通量、大気汚染、騒音などの現状
    の環境に関するバックグラウンドデータには一切触れず、「魔の三角地帯」対策
    についても具体策を示さなかった。申請人らの居住地域の多くは、現状でも浮
    遊粒子状物質(SPM)は環境基準を超えており、このようなバックグラウンドデ
    ータには一切触れず、「環境基準を上回ることはない」という言葉に終始する被
    申請人ら担当者の説明は到底説得力のあるものではなく、申請人ら沿線住民
    は本件道路の建設にともなう環境悪化の懸念を益々強くするに至った。

    C 門真市等自治体の動き  

      前述のとおり、門真市第2京阪道路対策協議会が本件道路による環境悪化
     への懸念をすでに示していたため、連絡会議は、住民合意なしに旧建設省が
     沿線各市に示した「環境対策に対する基本的な骨子」に調印しないよう求め
     ていたが、旧建設省、公団、大阪府と沿線5市(枚方、交野、寝屋川、四條畷、
     門真)は、平成10年4月30日、地元住民の合意なしに「環境対策に対する8者
     協定」に調印した。協定書には、地域特性に配慮し、沿道の土地利用状況や
     住居等の立地状況を踏まえ、府市等と協議の上、効果的で信頼のおける技
     術を用いて環境対策を実施することがうたわれているが、その内容は非常に
     抽象的なものである。  

       また、平成12年10月30日の門真市議会では、本件道路の建設に関する
     要望事項に対する相手方ら事業者の回答内容を確認しているが、その回答
     内容は、光触媒による脱硝装置の実施については前向きに検討する、環境
     監視施設の設置を考えている、間の三角地帯」の環境対策についても検討
     していると言う抽象的な内容にとどまっており、今なお具体策が示されてい
     ない。

  (9)まとめ  

    @ 以上述べてきたように、本件道路は、平成2年3月に成された環境影響評
     価書による予測評価を前提として建設が進められようとしているが、近時、
     環境保全を求める世論は急速に高まっており、公共事業や開発計画を環境
     保全、公害防止の視点から見直すことは全国的にも大きな流れとなってい
     る。とりわけ、計画確定後長期間が経過した公共事業に関しては、その見
     直しは不可欠である。  

    A 前述したように、本件地域周辺の大気環境は、環境影響評価の予測に反
      して、現状でもSPM汚染が環境基準不適合であるなど深刻な状態が続い
      ている。こうしたなかで、住民は、本件道路建設の強行に益々強い不安と
      懸念を感じている。にもかかわらず、本件道路建設は、当初の予定よりも
      遅れながらも近々詳細設計の段階に入ろうとしている。しかしながら、詳細
      設計が終わってしまえば、適切な環境影響予測や十分な公害防止対策が
      行われないまま、工事着工が強行されることになる可能性が極めて強い。

     B よって、申請人らは、地域住民の良好な生活環境を確保するために、環
      境影響評価手続のやり直しとその結果に基づく万全な公害防止対策の実
      施を求めて、本申請に及んだ。