07年4/25高裁判決

 平成19年4月25日宣告   裁判所書記官 松 下 紀 子
 平成18年(う)第1425号

判決

主たる事務所の所在地  大阪市西区川口2丁目4番2号      
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部
代表者執行委員長 武 建一
本籍 鹿児島県大島郡                
住居 大阪府池田市                 
団体役員    
武 建一
昭和17年1月20日生

主たる事務所の所在地  大阪府門真市新橋町12番18号
三松マンション207号室   
戸田ひさよし友の会
代表者 戸田 久和
本籍 大阪府門真市新橋町12番              
住居 大阪府門真市新橋町12番18号 三松マンション207号室
門真市議会議員     
戸田 久和
昭和31年1月24日生

 上記4名に対する各政治資金規正法違反被告事件について,平成18年8月24日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人4名からそれぞれ控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官巌文陸出席の上審理し,次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

 被告人全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「被告人組合」という。)及び同武建一(以下「被告人武」という。)の各控訴趣意は,同被告人らの弁護人里見和夫作成の控訴趣意書に,被告人戸田ひさよし友の会(以下「被告人団体」という。)及び同戸田久和(以下「被告人戸田」という。)の各控訴趣意は,同被告人らの弁護人永嶋靖久作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。

第1 事実誤認の控訴趣意について

 1 被告人組合及び被告人武の控訴趣意中,原判示第1の1の事実に関する事実誤認の主張について

 論旨は,要するに,被告人団体への合計90万円の寄附は,被告人組合の組合員有志の個人寄附であり,被告人武が被告人組合を代表して被告人組合が行ったものではないのに,その旨認定した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるとして,その事由を種々主張するものである。そこで,所論にかんがみ記録を調査して検討する。

 (1)原判示第1の1の事実に閲し,原判決挙示の関係証拠を総合すると,被告人組合によるものか,あるいは被告人組合の組合員有志によるものかは別として,原判示の各日に各45万円,合計90万円が被告人団体が管理する原判示の名義の郵便貯金口座に振り込まれ,被告人団体に寄附されていることは明らかであるので,以下,その寄附の主体について検討する。

 (2)原判示第1の1の事実に閲し原判決挙示の関係証拠から認められる事実は,原判決が「補足説明」の項の第2の1及び2に認定摘示するとおりであり,その事実を前提にして,原判決が「補足説明」の項の第3において,上記寄附は被告人組合が被告人団体に対して行ったものであると認定判断するところは正当である。
 すなわち,平成15年4月に行われる門真市議会議員選挙を控えていた被告人戸田は,被告人組合及びその上部組織である全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部(以下「近畿地本」という。)に対し,上記選挙に向けた資金援助と人的援助を申し入れたが,財政状況等の理由から近畿地本にこれを断られた後,金銭支援として総額90万円を要請する具体的な理由等を記載した平成14年11月4日付けの「連帯ユニオン生コン支部執行委員会あて」と表記した「11/4 戸田の選対提起と報告」と題する書面を作成し,被告人組合に資金援助と人的援助を申し入れたものであって,被告人戸田の要請は,近畿地本や被告人組合あてになされていること,被告人戸田の要請を受けた被告人組合では,平成14年11月6日,被告人組合の機関である常任委員会において被告人戸田を組織内候補として支援する旨決定していること,本件90万円の支出は,被告人武あるいは他の役員から指示を受けた被告人組合会計担当者が,平成15月1月27日と同年2月18日にそれぞれ45万円を,被告人組合が管理,支配する原判示の全日建運輸関西地区生コン支部奥薗健児名義の郵便貯金口座から払い戻しをした上,被告人武の個人名義で被告人団体が管理する原判示の名義の郵便貯金口座に振り込んでいることなどを総合すると,本件90万円は,被告人組合から被告人団体に対してなされた寄附であることが認められる。

 (3)所論は,被告人武は,被告人組合の政治的問題に関心の高い有志の集まりである政治活動委員会のメンバーの意見を聞いた上で,個々の組合員有志から寄せられた政治力ンパを集約して被告人戸田に寄附をすることにし,政治力ンパを拠出した個々の組合員を代表して被告人武の個人名義で合計90万円を送金したものであり,本件90万円は被告人組合の組合員個人からの寄附であって,被告人組合からの寄附ではない旨主張する。

 しかしながら,上記奥薗名義の郵便貯金口座には,被告人組合の機関である常任委員会による政治活動資金の積立決定に基づいて集められた金が入金されており,その口座の届出印等は被告人組合の会計室で保管され,その口座からの入出金等の手続などは被告人組合の会計担当者が行っていたのであるから,被告人組合が管理,支配していたと認められ,上記政治活動委員会がその口座を管理していたことを窺わせる証拠がないこと,また,上記政治活動委員会において,本件90万円の支出について決議がなされたことを窺わせる証拠もなく,むしろ,被告人武の当時の日記帳に「02.11.6.常」と記載したページに,(6)として「戸田ひさよし選挙組織内候補として全力支援する 必要資金」との記載があり,これは被告人組合の常任委員会が被告人戸田の選挙資金を出すことを決定したことを示すものであること,そして,本件90万円の振り込みは,被告人武の個人名義で送金されており,政治力ンパを拠出したという組合員の個人名は挙げられていないこと,被告人武は,本件90万円については,そのために特別に組合員から寄附を募ったものではなく,その原資となった資金は,後述のとおり,組合員から臨時に徴収したものを積み立てたものであるというのであるが,本件90万円の内訳として,どの組合員からのいくらの寄附であるかは分からない旨供述していること,本件支出について,寄附をしたとされる組合員から事前の承諾を得たとか事後報告がなされた形跡もないこと,本件90万円は,所論の指摘するとおり,従前からその必要が出てきた都度組合員から臨時に徴収していたものを,政治活動資金として月間500円を積み立て,政治資金カンパが必要な場合にその積立金の中から支出していたものであるが,そのような経緯があるとしても,この政治活動資金は,被告人組合の組合規約第38条に「その他の組合費」として一定の組合員から毎月納入される旨定められたものであるから,組合費の一部として被告人組合に納入され被告人組合がその必要性を判断して支出するものと理解できることなどに照らすと,本件90万円が被告人組合の組合員個人からの寄附であるとの所論は採用できない。

 2 被告人団体及び被告人戸田の控訴趣意中,原判示第2の1の事実に関する事実誤認の主張について

 論旨は,要するに,原判示第2の1の事実について,被告人戸田が被告人団体の代表者として被告人組合に寄附を申し込んだことはないし,被告人組合から寄附を受けた事実はないのに,その旨の認定をした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといい,その事由を種々主張する。そこで,所論にかんがみ記録を調査して検討する。

 原判示第2の1の事実に関する原判決挙示の関係証拠を総合すると,その前提事実は,原判決が「補足説明」の項の第2の1及び2に認定摘示するとおりであり,それを前提にして,原判決が「補足説明」の項の第3において,本件90万円の寄附は,被告人団体が被告人組合から受けたものであると認定した原判決の判断は正当である。

 すなわち,平成15年4月に行われる門真市議会議員選挙を控えていた被告人戸田が,金銭支援として総額90万円の要請と人的援助を被告人組合に申し入れ,これを受けた被告人組合の対応は前記1のとおりであること,本件90万円について,被告人戸田の事務員の●●由喜子は,被告人戸田から,「連帯から選挙の寄附をもらった」と聞いていること,被告人戸田の事務所の会計帳簿等には,カンパは「連軌から受けた旨記載されていること,被告人戸田は,たとえ少額であっても寄附に対する礼状等を出すことにしているが,本件については,寄附をした個々の組合員が誰かを把握していないし,礼状等も出していない旨供述していることなどを総合すると,被告人戸田が被告人団体の代表者として被告人組合に寄附の申入れをして,これを受けた被告人組合から本件90万円が被告人団体への寄附として被告人団体が管理する原判示の名義の郵便貯金口座に振り込まれたこと,及び被告人戸田において,これが被告人組合からの寄附であるとの認識があったことの各事実は優に認められる。

 3 被告人組合,被告人武及び被告人戸田の控訴趣意中,原判示第1の2及び第2の2の事実に関する事実誤認の主張について

 (1)被告人組合及び被告人武の論旨は,原判示第1の2の事実について,被告人組合が被告人戸田に対し政治活動に関して360万円の寄附をした事実がないのに,その旨の認定をした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。また,被告人戸田の論旨は,原判示第2の2の事実について,被告人戸田が被告人組合から政治活動に関して寄附を受けた事実がないのに,その旨の認定をした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。そこで,所論にかんがみ記録を調査して検討する。

 (2)原判示第1の2及び第2の2の事実に閲し,原判決挙示の関係証拠から認められる事実は,原判決が「補足説明」の項の第2の1及び3に認定摘示するとおりであり,この認定事実を前提に検討すると,原判決が,「補足説明」の項の第4において,原判示第1の2及び第2の2の360万円の供与は,被告人戸田の議員としての政治活動を支援する目的でなされた寄附であると認定判断するところは,おおむね正当である。

 すなわち,被告人戸田は,平成15年10月15日付け被告人組合の執行委員長である被告人武あての書面で,原判決が「補足説明」の項の第2の3の(4)で認定するとおり,自分自身の選挙で40万円程度,守口市長選挙で10万円ほど使った事情について言及しつつ,借金が多いことや,生活費,事務所と事務員維持費などの種々の支出すべき事項とそのおおよその金額を示した上,「議員としての活動だけでも,残念ながらお金のことで非常に頭の痛い日々が続いている」として,議員としての活動に関する金銭支援を強調していること,近畿地本の執行委員長としての活動としてみるものはほとんどなく,これまでどおり議員としての活動を中心として行っていること,被告人武は,被告人戸田が議員であることを直接,間接に活用することが被告人組合の組織拡大につながることから,本件360万円を供与した旨の供述をしていること,本件360万円の原資は,被告人組合の特別財政で,政治家への活動支援や関連団体等への貸付金など,組織対策費の出し入れに充てていた口座から払い戻したものの一部であることなどを総合すると,本件360万円の供与は,被告人戸田の議員としての政治活動を支援する目的でなされた寄附であると認定することができる。

 (3)被告人組合及び被告人武の所論は,本件360万円は,近畿地本執行委員長としての活動費として支給したものであり,これまでにも活動費ないし行動費として月額20万円を超えて支給した例がある,また,被告人戸田の場合,近畿地本及び被告人組合に今後多大の貢献が期待されているが,多額の借金を抱え,生活に困窮していたので,被告人組合として生活支援のために活動費を36か月分前払いしたものであり,このことは本来組合自治に委されるべき事項に関する合理的判断であって,前例がないからといってその合理性が否定されることはないというのである。

 しかしながら,被告人戸田は,平成15年9月28日近畿地本の執行委員長に選任されたが,その任期は1年である上,その都度選挙で選出されるものであるのに,本件供与は,その任期を超える3年分に相当する360万円もの多額の金員を一括して支払ったというのであり,なおかつこれとは別に近畿地本から毎月10万円を支払うという,それまで被告人組合には前例のない被格な待遇であったこと,これまでの活動費あるいは行動費として支給された例というのは,組合活動に専従するなどして他からの収入が得られない場合であって,被告人戸田の場合は,市議会議員として議員報酬(月額64万0200円のほか年2回の期末手当)を支給されていることなどに照らすと,所論のいうような合理的判断とは理解しがたい。

 また,被告人組合及び被告人武の所論は,本件360万円は被告人戸田の近畿地本執行委員長としての活動費であるといい,被告人戸田の所論も,本件360万円は「地本委員長のギャランテイ+日常的な活動費」の要請に基づいて支払われたものであると主張する。

 たしかに,被告人戸田の作成した被告人武あての前記書面には,被告人戸田の要請事項として,「地本委員長のギャランテイ+日常的な活動費として,何らかの形で10月から毎月20万円支出していただきたく思います」との記載もあり,また,被告人武は,被告人組合の会計を担当していた更谷静子に活動費として被告人戸田に支払うように言っており,更谷の手帳に「活動費として」と明記されていることは各所論の指摘するとおりである。

 しかしながら,本件360万円の支給というのは前例のない破格の待遇であることや,被告人戸田の近畿地本執行委員長としての活動状況と,被告人武が被告人戸田の議員としての活動に期待していたことなどは上記のとおりであり,それに加え,被告人戸田が被告人武あてに要請した前記書面では,被告人戸田の議員活動に要する経費等の説明に終始していること,被告人戸田は,上記書面による要請の後,被告人戸田の事務所に所属する●●及び○○○○を同道して被告人武に面会し,「お金が必要である。人件費もかかる。個人のカンパだけでは不足している。連帯から種々の支援を受けているが金銭面での援助もお願いしたい。人件費や経費を借金でやりくりしている」などと訴えていること,これに対し被告人武が,「毎月10万,それとは別に月10万の3年分先払い。まとまった金があった方がええやろ,300万出す」などと言い,その日のうちに被告人戸田は,被告人組合の会計担当者から本件360万円を受け取っていること,近畿地本には報酬を支払うだけの資金的な余裕がなかったこと,本件360万円の使途は被告人戸田の政治活動に関する支払いにも充てられていること,近畿地本及び被告人組合において,本件360万円と上記月10万円の支払いについて,これまでは源泉徴収等の手続をとっていなかったことなどを総合勘案すると,地本委員長のギャランティとか活動費というのは,被告人組合から政治活動に関する資金援助を受けるための名目であったというべきである。各所論は採用できない。

 さらに,被告人戸田の所論は,市議会議員としての活動と切り離せないからといって,すべてが政治活動に関する寄附になるのではないというのであるが,上記のとおり,被告人戸田の場合,近畿地本執行委員長としての活動はほとんどなく,しかも・議員としての活動が期待されていたのであるから,政治資金規正法の趣旨からいっても,所論は採用できない。

 4 被告人戸田の控訴趣意中,原判示第3の事実に関する事実誤認の主張について

 論旨は,原判示第3の事実について,被告人戸田が原判示の●●と暗黙のうちに意思を相通じて収支報告書の収入総額欄に虚偽の記入をした事実がないのに,その旨の認定をした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。そこで,記録を調査して検討する。

 原判示第3の事実に閲し,原判決挙示の関係証拠から認められる事実は,原判決が「補足説明」の項の第2の1及び4に認定摘示するとおりであり,この認定事実を前提に検討すると,原判決が,「補足説明」の項の第5で認定判断するとおり,被告人戸田において,原判示の収支報告書の記載内容が正確なものでないことを認識していたことが認められるところ,この事実に関係証拠も総合すると,原判示第3のとおり,被告人戸田が●●と暗黙裏に意思相通じて原判示の収支報告書に虚偽記入して大阪府選挙管理委員会にこれを提出したことが優に認められる。以下若干補足して説明する。

 すなわち,原判決が「補足説明」の項の第5の1の(1)ないし(5)で認定する事実,ことに,平成15年分の被告人団体の収支報告書の作成を被告人戸田から依頼された●●は,本件90万円の寄附を除外したメモを被告人戸田に渡してその了解を得た上,収支報告書の基になる計算表を作成し,その計算表を被告人戸田に見せたこと,これを点検した被告人戸田は,その計算表に被告人戸田自身からの寄附として5万円を書き込んだこと,●●は,被告人戸田が書き込みをしたものを基にして計算表を完成させて被告人戸田にその確認を求めたこと,被告人戸田は,その計算表をチェックし,計算表と収支報告書の綴りを●●に返し,●●は,その計算表に従って収支報告書を完成させたが,その金額欄の記入すべき金額は,被告人戸田が鉛筆で下書きした上から●●がその数字をなぞって清書したこと,また,収支報告書の一部には被告人戸田自身が記載した部分もあること,計算表の収入一覧の部分には,「個人カンパ68名 ¥405,000」「戸田カンパ ¥50,000」などと記載され,また,収支報告書の収入総額には48万9427円とあり,その内訳として,個人からの寄附が45万5000円とあるが,これらの記載からみて本件90万円の寄附はその収入の中に含まれていないことが一見して明らかであることを総合すると,被告人戸田は,●●が90万円の寄附を除外していることを知りながら,それをそのまま黙認して●●に収支報告書を作成させたものと合理的に推認することができる。

 なお,被告人戸田は,当時多忙で本件90万円が頭に思い浮かばなかった旨供述する。確かに,本件収支報告書の作成が本件寄附を受けてから1年余り経過してからなされていること,本件寄附を除外したのは,●●自らが,上記メモを作成する段階から,特定の団体との癒着を疑われると考えて行ったものであること,本件90万円の寄附については,「カンパ名簿」や被告人戸田が発行している「ヒゲ一戸田通信」に記載されていること,被告人組合との密接な関係を敢えて隠匿する必要がないことなどの事情が認められる。しかしながら,本件90万円は,上記のとおり,被告人戸田が自己の議員としての金銭的窮状を訴える資料をわざわざ作成して被告人武らにその支援を懇請した結果得た寄附であること,その金額は,上記のとおり,収支報告書記載の収入総額に比し高額であること,被告人戸田の被告人団体等に関する会計処理に杜撰な面もあり,●●に対してもいわば適当に収支報告書を作成させていたという面は否定できないものの,被告人戸田は,収支報告書自体の重要性は理解していた上,上記のとおり,収支報告書の作成にあたり,●●が作成したメモや計算表等を少なくとも3回はチェックするなどした上,自らが寄附額を加えるなどもして完成させていることなどを総合すると,●●に収支報告書を作成させるにあたって,本件90万円の寄附の存在が頭に思い浮かばなかったとの被告人戸田の上記供述は信用できない。

 したがって,以上の点を総合すると,被告人戸田が●●と暗黙のうちに意思を相通じて本件収支報告書に虚偽の記入をしたと認定することができるのであって,概括的故意について論ずるまでもなく,原判決の認定は結論において正当である。

 5 以上のとおり,原判決挙示の関係証拠によれば,原判示の各事実は優に認めることができ,当審における事実取調べの結果によっても左右されないから,原判決には各所論の主張するような事実の誤認はない。

 したがって,各被告人の事実誤認の論旨はいずれも理由がない。

第2 被告人団体及び被告人戸田の控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について

 1 原判示第2の事実に関する法令適用の誤りの主張について

 論旨は,原判決は,原判示第2の各事実を認定した上,これが政治資金規正法28条の3第1項,26条3号,22条の2,21条1項(4条4項)に達反するとしているが,労働組合が政治活動に関する寄附をする自由は憲法21条,28条により保障された権利であるから,労働組合による政治資金団体以外の者に対する政治活動に関する寄附を禁ずる政治資金規正法21条1項及び22条の2は,憲法21条,28条に違反し,かつ,政党又は政治資金団体以外に対する寄附を刑罰をもって禁止する点で憲法14条に違反する違憲無効の法律であるのに,その条項を上記各事実に適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。

 そこで検討するに,所論は,労働組合による政治活動に関する寄附の自由が憲法上保障されていることを前提とする。しかしながら,憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項の本来的な適用対象は国民であり,その各条項が労働組合等の法人にも当然に適用されるものでないことは,最高裁昭和45年6月24日大法廷判決(民集24巻6号630頁)によって上記各条項は「性質上可能なかぎり」内国の法人にも適用されると解されると判示されているところからも明らかである。法人が各条項の権利を享有できるか否かは,その権利の性質やその法人の目的等によって判断すべきである。労働組合は,労働者の労働条件の維持,改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であって,その目的達成に必要な範囲内で社会的,政治的活動を行うことができるのであるが,政治資金の寄附を含む政治活動の自由は,その性質上,選挙権及び被選挙権等の参政権の行使と密接な関係を有していることに照らすと,参政権を有しない労働組合が,国民と同様の憲法上の保障を当然に享有するものと解することはできないのであり,労働組合を含めた法人について,その政治活動の自由をどの限度で認めるかは国権の最高機関である国会の立法政策の問題であって,立法機関の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。したがって,労働組合による政治活動に関する寄附の自由が憲法上保障されていることを前提とする所論は採用できない。

 また,現在の我が国の政治形態である議会制民主主義において重大な役割を担っている政党,政治団体,政治家にとって重大な課題である政治資金の調達をめぐって癒着や政治腐敗が繰り返され政治に対する国民の不審が高まる中で,選挙制度の抜本的改革と軌を一にして,政治資金規正法においても,政党その他の政治団体及び公職の候補者の政治活動の公明と公正を確保するため,会社その他の団体のする政治活動に関する寄附の制限の強化を図るなどの改正がなされ,政治資金規正法21条1項及び22条の2が設けられたのであって,選挙制度の改革及び公的助成制度の導入とあいまって政治資金の調達をめぐる腐敗を防止しようとするこれらの規制が,憲法14条に違反するものでないことも明らかである。
 論旨は理由がない。

 2 原判示第3の事実に関する法令適用の誤りの主張について

 被告人戸田の論旨は,被告人戸田には原判示第3の罪を犯す意思がないのに,政治資金規正法25条1項3号に当たるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤り(刑法38条1項本文)があるというのであるが,被告人戸田が●●と暗黙のうちに意思を相通じて本件収支報告書に虚偽の記入をしたと認定できることは,上記第1の4で認定説示したとおりである。

 論旨は理由がない。

第3 被告人戸田の控訴趣意中,公民権停止に関する理由の不備ないしは法令適用の誤りの主張について

 論旨は,公民権を短縮する場合には,政治資金規正法28条1項の規定を適用した上で,同条3項によって適用すべき期間が短縮されるのであるから,法令の適用としては同条3項の適用だけでは足りないのに,原判決が「法令の適用」の項で「公民権停止期間短縮 政治資金規正法28条3項」と記載し,同条1項の記載を欠いているのは,理由の不備ないしは判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。

 しかしながら,政治資金規正法28条の規定の仕方からすると,刑の言渡しと同時に何らの宣告もなされなければ,当然に同条記載の期間,選挙権及び被選挙権は停止されるのであって,原判決はその期間を短縮するにすぎないものであるから,所論のように同条1項を記載しなければならないということにはならない。
 論旨は理由がない。

第4 被告人団体及び被告人戸田の控訴趣意中,量刑不当の主張について

 論旨は,被告人団体を罰金30万円に,被告人戸田を罰金80万円に処した原判決の量刑は,重過ぎて不当であり,とりわけ,被告人戸田には政治資金規正法28条1項所定の公民権停止の規定を適用すべきではないし,同条3項に定める情状があるのに公民権停止の期間を2年間に短縮するにとどまる点において刑の量定が不当であるというのである。
 所論にかんがみ記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。

 本件は,被告人戸田において,被告人団体が政党又は政治資金団体ではないのに,政治団体である被告人団体の代表者として,労働組合である被告人組合から寄附を受け(原判示第2の1),政党又は政治資金団体ではないのに,被告人組合から,政治活動に関して寄附を受け(同第2の2),平成15年分の収支報告書に虚偽の記入をした(同第3)という事案である。

 被告人戸田は,議会制民主政治における模範ないしリーダー的な役割が期待される現職の市議会議員でありながら,政治活動資金に窮し,被告人組合やその代表者である被告人武に働きかけるなどして,原判示第2の違法な寄附をそれぞれ受けたというものであり,いずれも政治資金に関するルールに反した犯行であって,非難を免れない。しかも,政治団体の政治資金の収支を国民の前に公開するという重要な役割を担う収支報告書を作成するにあたり,虚偽の記入をしたというものであり,政治資金規正法の目的を大きく損なう犯行であり,これも非難を免れない。

 以上に照らすと,被告人団体及び被告人戸田の刑事責任は軽視できない。

 そうすると,本件各寄附は,政治献金としてはいずれも高額とまではいえないこと,労働組合からの寄附も一定の限度で許されているものであること,被告人戸田には,古い異種前科1犯のほかには前科がないこと,被告人戸田の原判示第3の犯行は共犯者の思惑に端を発していること,虚偽記入にかかる金額も多額とまではいえないことなど,被告人団体及び被告人戸田のためにそれぞれ酌むことのできる事情を十分考慮しても,被告人団体及び被告人戸田に対する原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。

 所論は,公民権停止に閲し,原判示第3の共犯者である●●が起訴されていないこと,被告人戸田には議員としての多大な業績があること,多くの有権者が公民権が停止されないことを望んでいることなどを特に指摘するが,被告人戸田は,現職の市議会議員にあるものであり,本件が,そのような公職に就いている者が金銭面でルーズなやり方で犯した犯行であって,軽視できず,公民権停止を定めた法の趣旨からみても,その停止はやむを得ないところである。

所論が指摘する点はその期間を短縮することで考慮されるべきであり,かつ,本件ではこれが考慮されているとみられるから,これまで検討した諸事情も総合勘案すると,その期間を2年に短縮した原判決は相当である。
 論旨は理由がない。

第5 結論

 よって,刑事訴訟法396条により本件各控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

  平成19年4月25日

裁判長裁判官  仲宗根 一郎
裁判官 小川 育央
裁判官 中桐 圭一

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