弁 論 要 旨

                          2006(平成18)年6月27日

    大阪地方裁判所第8刑事部合議係 御中


                    被 告 人    戸 田 久 和
                      同    戸田ひさよし友の会
                    弁 護 人    永 嶋 靖 久

 被告人 戸田久和,同 戸田ひさよし友の会に対する政治資金規正法違反被告事件について,弁護人の弁論の要旨は,下記のとおりである。

第1 平成17年12月28日付公訴事実第2の1

1. 90万円振込送金の実際の寄附者
 被告人戸田は,2回にわたり45万円の振込送金を受けたが,これは同人が労働組合に寄附を求めたことによるものではないし,労働組合から寄附を受けたものでもない。
 被告人戸田は,関西地区生コン支部組合員有志からカンパを受け,個々の組合員からの寄附をまとめて,90万円の振込送金が,被告人武の個人名義で振込送金されたものである。

2. 検察官の誤り
  (1) 前回選挙の経過は労働組合からの寄附を裏付けない 
 検察官は,被告人戸田が「組合員であり,被告人武とは密接な間柄で,平成11年4月25日施行の門真市議会議員選挙において,被告人関西地区生コン支部の組織内候補として立候補し,その強力な支援を受けて当選していた」ことをもって,本件寄付が被告人関西地区生コン支部から被告人戸田ひさよし友の会に対するものであることを根拠付けると主張する。
 しかし,いわゆる組織内候補や,組織の強力な支援を受けている,公職の候補者は多数いる。    
 候補者が組織内であるからといって,あるいは強力な支援を受けていることをもって,組織 から候補者への違法な寄附が疑われるということはない。
 組織内候補であることや,組織の強力な支援を受けていることは,違法な寄附があったことを裏付けるものではない。

  (2) 甲9・11は労働組合への寄附要請を意味しない
 検察官は,「戸田の選挙対策討議レジュメ」と題する支援要請文書(甲9号証)に,「戸田としては,連帯ユニオンにこの作戦費用と人員の供出をお願いしたい。」などとの記載があること, 「連帯ユニオン生コン支部執行委員会あて」の文書(甲11号証)に,「現実的に支援問題を決定する生コン支部の執行委員会に対して11/5までに会計報告や具体的要請を上げるよう,指示を受けましたので,本日この書面(略)を提出する次第です。」,「金銭支援として総額90万円をお願いしたい。」,「戸田としては1月段階で全額か半額の先渡しを希望。」などとの記載があることをもって,被告人戸田が被告人武に対して被告人関西地区生コン支部からの資金支援を要請していることは明らかである,という。

 しかし,被告人戸田は,甲9にある「戸田としては,連帯ユニオンにこの作戦費用と人員の供出をお願いしたい」との文言を,「連帯ユニオン」からの費用支出を求める趣旨で記載してはいない。  
 甲11も,書面の宛先は労働組合機関となっている。しかし,被告人戸田は,資金援助を「特定の個人とかではなく,連帯のメンバー有志」に対して要請をするつもりで,同書面を被告人関西地区生コン支部に提出しているのである(3回1頁)。
 寄附や労力提供,有権者の紹介等様々な事項のそれぞれについて,労働組合において,誰が (あるいはどこが)行うのが適当であるかを検討してもらおうと考えて,諸事項の検討を一括して要請したのが甲11なのである(3回30頁)。    

 被告人戸田は,いうまでもなく,適法な方法による,財政その他の支援の検討を求めているものであって,被告人関西地区生コン支部に,同支部からの支出を求めて,甲11を提出したのではない。

  (3) 労働組合からの寄附を示す組合側の事情もない
 検察官は,「上記要請を受けた被告人武は,被告人関西地区生コン支部として被告人戸田に対する資金支援を行うことを決心し,その旨執行委員会の上部機関である常任委員会に諮り,その旨決定させている。」あるいは,「本件寄附金の振込みは,被告人武の直接又は被告人関西地区生コン支部執行委員を介した指示により,被告人関西地区生コン支部に帰属する郵便貯金口座から現金出金後,直ちに振込送金されているところ,これも,本件寄附が被告人関西地区生コン支部として行われたものであることを端的に裏付けている。」などと主張する。    

 しかし,被告人武が述べるとおり,「常任委員会で決定したのではなく,議論しただけである」し,常任委員会をもって,「被告人関西地区生コン支部を意のままにしている被告人武の意向に従わないことなど考えられない実態」などという検察官の主張も,労働組合の機関運営の実態を知らない主張であって,何の根拠もない。

 また,上記郵便貯金口座が開設された事情は,OZ検察官調書(甲42)に記載されたところによれば,「私が関西生コン支部の書記長をしていた平成7年ころ・・・・・郵便貯金口座を開設しました。・・・・関西生コン支部預金口の口座を開設する以前は,関西生コン支部では,関西生コン支部が支援する政党や議員に対して政治資金をカンパするに当たり,カンパの必要    が出てきた都度,各組合員から臨時に政治資金カンパを徴収しておりました。しかし,このような臨時出費を各組合員に突然要請するよりも,毎月各組合員から組合員1名につき1か月500円の計算で,政治資金カンパ費用を積み立てておき,政治資金カンパが必要な場合には,その積立金の中から支出するほうがよいだろうという決定が,関西生コン支部の常任委員会で行われました。」(甲42・10頁)というのである。  

 すなわち,元来は,都度毎の個人カンパ用の口座を設けていたが,臨時出費を突然要請するよりも,政治資金カンパであることを明確にした上で,常設の口座を開設する方が便宜であるという事情から,開設したに過ぎない。このような,90万円を出金した口座の開設経緯からしても,本件90万円が,個々の組合員からのカンパをまとめたものであることは明らかである。
 その内訳について,誰からいくらもらったかというリストは,被告人戸田の側にはない(3回29頁)。しかし,それが,被告人戸田の側で記録されていないからと言って,90万円が,個々の組合員からのカンパでなくなるものではない。

  (4) 会計帳簿の記載は事実を略したに過ぎない
 検察官は,本件当時,被告人戸田の事務所において作成していた会計帳簿に「カンパ連帯よ り450,000」あるいは「連帯よりカンパ」などと記載されていることをもって,被告人戸田 が,90万円を「連帯」,すなわち被告人関西地区生コン支部によることを認識していたことを 決定的に裏付けるという。

 しかし,被告人戸田は,被告人武名義の振込については,「連帯の中の有志の方々からのカン パの集合」と,明確に認識していた(3回2頁)
 甲30・資料1にある「カンパ連帯より」の記載は,被告人戸田が,「連帯の有志からのカン パの集合という趣旨で連帯からのカンパと言って常日頃言っていたので,それをMMさんが書 いた」(3回2頁)に過ぎない。被告人戸田は,連帯の有志からのカンパを略して,連帯からの カンパと表現していた。
  被告人戸田は,そのように表現しても,事務所の中での内部的な処理であるから,別に問題 ないと考えていたのである(3回3頁)。

  (5) 政治活動委員会は実際に存在している
 検察官は,政治活動委員会の組織や活動実態が定かではないとして,根拠を伴わない弁解で あるという。

  しかし,TA検察官調書には,政治活動委員会は,当時,関西地区生コン支部だけに設置さ れていたという記載がある(甲46・12頁)。政治活動委員会が存在したことは間違いない。
 被告人戸田は,政治活動委員会があることは知っていたが,自身は加入していなかったから, その詳細については同人の知るところではなかった(3回25頁)。しかし,金銭カンパは,組 合からでは駄目だが,政治活動委員会のメンバーが検討すればそれは可能であると考えていた (3回26頁)。
  被告人戸田は,90万円の送金について,政治活動委員会の判断に基づいて,個々の組合員か らカンパを受けたものと認識していたのである(3回28頁)。
 以上のとおり,検察官の主張は誤りであって理由がない。

第2 平成17年12月28日付公訴事実第2の2

  1.  360万円交付に至る経過と交付の意義
 被告人戸田が受けた現金360万円は,労働組合から公職の候補者への政治活動に関する寄附で はない。
 全日本建設運輸連帯労働組合近畿地方本部(以下「近畿地本」という。)の執行委員長でもある 被告人戸田に対する,執行委員長としての活動に関するギャランティ及び活動費として支払われ たものである。
 被告人戸田は,2003年9月前半頃,被告人武からの出馬要請を受け入れ,9月28日の定期大会の委員長選挙に立候補して当選した(3回6頁)。
 地本委員長になることによって,毎月の地本の執行委員会に出席し,執行委員長として組織内外の行事に出て,挨拶したり話をしたり,組織運営についての話に参加するなどすることになった。ホームページなどで常に連帯について対外的にアピールしていくということも行っていた(3回7頁)。

 これら地本委員長としての様々な業務に対して,関西地区生コン支部委員長に対して,「地本委員長のギャランテイ+日常的な活動費として,何らかの形で10月から毎月20万円支出していただきたく思います。」と要請したところ,これに応じて,月10万円ずつ,3年分の先払いとして,360万円が支給されたのである。
 政治献金とは全く違う地本委員長としての被告人戸田への支払であるところから,被告人戸田は収支報告書には記載せず,議員活動とか議員としての収入とは全く別の種類の物であるところからヒゲ戸田通信にも記載していない(3回10頁)。

  2 検察官主張の誤り
  (1) 本件支給に至る経過は政治資金を根拠付けない
  ア 要請は組合役員としての活動に対するものであった    
  検察官は,甲12に,「議員としての活動だけでも,残念ながらお金のことで非常に頭の痛い日々が続いているのが当方の実状です」,などと記載があるところから,360万円が寄附であるという。
 しかし,「議員としての活動だけでも」という表現は,それ以外の様々な活動をも含めた,金銭的な窮状を指している。議員活動のための経費を理由に,金銭の支給を求めているのではない。
 検察官は,被告人武と被告人戸田が面会したときの状況に関する,TNOとMMの調書をもって,被告人武と被告人戸田が政治活動に関する本件寄附を行うことを合意したという。         

 しかし,被告人戸田から被告人武にあらかじめ文書が渡され,事前の検討を経て面会しているのだから,被告人戸田は,その場でくり返しての要請を行う必要もないし,現にそのようなことは行っていない(3回10頁)。その場のやりとりから,金員の趣旨を明白に知ることなどできない。
 そもそも,MM検察官調書には,「ですから2人のやりとりを逐一聞いていたわけではありませんが,最終的に武委員長がよし言いたいことは分かった それじゃあ300万円でええかと言ってこの場で300万円に加え,毎月10万円を連帯活動費として連帯から支給するという話が出なかったかという検事さんから尋ねられましたが,なにしろ私は300万円という言葉におどろいてしまって,その後の話についてよく耳に入らなかったこともあり,それ以前の話し合いについても注意して聞いていなかったので,分かりません。」(甲29・16頁)という記載があるにとどまるのである。

  イ 支出先如何は金員の性格を決定しない
  検察官は,被告人戸田の事務所において作成していた「連帯関係収支」と題する会計書類 (甲第30号証添付資料3)の2003(平成15)年10月21日の欄に,「関西生コンより収入 3,600,000」と,同月22日の欄に,「借入金返済支出257,244鰍lG堂」,「借入金返済支出700,000KM様」などとそれぞれ記載してあることをもって,これが360万円が政治活動資金であるという。  

 しかし,これらの記載は,360万円の一部が被告人戸田の負債の弁済等に支出されたという事実以上を示すものではない。この負債は,市民としての活動,労働組合としての活動,議員としての活動等様々な活動を行ない,生活していた被告人戸田個人がおっていた負債と 言うに過ぎない(3回33頁)。

(2) 甲12の記載は名目ではない
  ア 検察官の主張
 甲12には,「地本委員長のギャランテイ+日常的な活動費として,何らかの形で10月から毎月20万円支出していただきたく思います。」との記載がある。
 検察官は,これを,   
 ・「被告人戸田は,報酬を請求できる立場にはなかったと解されるし,事実,就任の際に報酬の合意をしたという証拠は見当たらず,そもそも被告人戸田自身,無給を前提として就任していたものであると認められる。」,   
 ・「また,近畿地本に被告人戸田に報酬を支払う資金的な余裕もないことは,被告人戸田が被告人関西地区生コン支部に資金支援を要請した前記の経過からも被告人戸田は十分承知していたことで,『地本委員長のギャランテイ』との記載は,被告人関西地区生コン支部から政治活動に関する資金援助を受けるための名目としての記載にすぎないことは明白である」,   
 ・また,「被告人武の公判供述によると,3年分を被告人関西地区生コン支部組合員及び近畿地本執行委員長としての活動費ということで前払いするという前例はないとのことであるが,近畿地本の執行委負長の任期は1年間であり(甲第38号証),3年間分を前払いすること自体不自然というほかないし,   
 ・そもそも,被告人関西地区生コン支部が,門真市議会議員としての立場を離れて組合員として特段の活動をしていない被告人戸田に対して高額な活動費を支払う必要性はなく,   
 ・近畿地本役員の報酬を被告人関西地区生コン支部が支払ういわれもない」などと主張する。

 イ TAに対する金員支給の例
 OZ検察官調書には,「組合活動に従事して稼働先を欠勤することによる賃金カット分を 補填する趣旨で支給される「行動費」は,狭い意味での「行動費」であり,組合としての活動・行動に伴う出費ということで支給される交通費,宿泊費などの「行動費」は,広い意味 での行動費ということになります」(甲42・20頁),「「組合専従」は,「企業保障専従」と異なり,稼働先の企業が欠勤分の給与保障を行うのではなく,組合活動により欠勤扱いとなって稼働先から給与をカットされることに対して,労働組合である関生支部が「行動費」という名称の費用を支給することによって填補するという取扱になっている執行部役員のことです。(甲42・16頁)」という記載がある。

 ところが,TAの,検察官調書(甲46)によれば,同人が関生支部から受けていた支給は,以下のとおりである。
 「私が毎月関生支部から支給してもらっていた現金の支給額は,当初,約14万円ほどでしたが,関生支部の執行委員と近畿地本の副執行委員長に就任したころから20万円になり,近畿地本の書記長に就任したころからは25万円になりました。」(甲46・4頁)
 「私は,無職となっていた平成10年12月ころからは,先ほど説明した月額14万円ないし25万円のほかに,「行動費」という名目で,関生支部から1日あたり約3,000円を支給してもらっていました。・・・・私は,関生支部や近畿地本の会計処理については,あまり詳しい知識がありませんが,私が近畿地本の役員のみを務めることになってからは,1日当たり約3,000円の計算で支給されていた経費については,関生支部ではなく,近畿地本の財政から支給されていたかもしれません。」

 この記載によれば,TAは,近畿地本の役員になった後も,毎月の25万円については間違いなく,一日当たり約3000円の行動費についても,多分,関生支部から,支給を受けていた。
 そして,TAが,支給されていた,毎月の25万円及び一日当たり約3000円の支給については,その名目も趣旨も明らかではない。
 まず,25万円については,同人は,関生支部の団体職員として正式に雇用されていたのではない(甲46・4頁)から,関生支部から支払われる賃金ではない。     
 いずれかの企業に雇用されていたわけではなく,組合専従の扱いになるためにカットされる賃金の補填分でもないから,OZの言う狭い意味での「行動費」にも当たらない(これは,TAも認めている。甲46・5頁)。    
 「一日当たり,約3000円の行動費」も,交通費・宿泊費ではないから,広い意味でも狭 い意味でもOZの言う「行動費」にはあたらない。
 TAの検察官調書では,「私は,関生支部から毎月支給されていた約14万円ないし25万円の現金については,私が組合活動や組合の業務にのみ専念して活動していることへの対価だと理解していました。」(甲46・4頁),あるいは,「私は,この1日当たり約3000円の計算で関生支部から支給されていたお金については,出張に伴う食費などの経費として支給されていたのだと理解していました。」(甲46・6頁)とある。
 支給される金銭の趣旨について,TA個人が「私は・・・理解していました」という以上のものではないのである。

  ウ 労働組合における役員等への支給形態は様々である
 TAに対する支給においても,TAの,支部あるいは地本の役員就任の際の報酬の合意はない。      
 何らかの,あらかじめ定められた,明確な規定などが存在して,それに基づいて報酬等が支給されることを前提に,役員に就任することにはなっていない。
 従って,就任の際に報酬の合意がないから,無給が前提という検察官の主張は誤っている。

 近畿地本役員であるTAが,関生支部から金員の支給を受けていたことも上記のとおりである。     
 被告人戸田が,近畿地本委員長のギャランティに関する要請を,地本の最大構成団体である関西地区生コン支部に対して行うことには何の不思議もない(3回31頁)
 近畿地本に金銭的余裕がないから,「地本委員長のギャランテイ」との記載は,名目としての記載にすぎないとか,近畿地本役員の報酬を関生支部が支払ういわれもない」という検察官の主張にも理由がない。
 任期1年の近畿地本執行委員長に,3年間分を前払いすることを不自然ということもできない。被告人戸田は,現に,3年間地本委員長を務めている。

 検察官は,「門真市議会議員としての立場を離れて組合員として特段の活動をしていない 被告人戸田に対して高額な活動費を支払う必要性はな」いという。しかし,被告人戸田が,組合員として,あるいは役員として様々の活動をしているのは上述のとおりである。
 組合役員に従事する者には,企業あるいは職場との関係・家庭・副業等様々な事情があるから,その事情に応じて,当該組合が自主的に判断して,適宜の金員が支給されるのは当然であって,被告人関西地区生コン支部でもそうしていた。

 現職の議員が,組合の役員になったことは被告人戸田の前にも後にもないことであった。     
 そのような同人に対して,このような支給の前例がないのは当然であって,360万円が地本委員長に対する「ギャランティ+日常的な活動費」であることと何ら矛盾しない。
 少なくとも,被告人戸田は,甲12をもって,「ギャランティ+日常的な活動費」を要請したのであり,これに基づいて,金360万円が支払われたのである。  
検察官の主張には全て理由がない。

第3 平成18年2月3日付公訴事実

 1 収支報告書に事実と異なる記載がされた経過と被告人の認識

  収支報告書に公訴事実記載のとおりの事実と異なる記載のあった点は認めるが,これは故意によるものではない。被告人戸田において,寄附金があったことを失念していたものである。

  (1) MMは自分の判断で事実と異なるメモ・計算書を作成した
 例年,被告人戸田は,収支報告書作成を,MMが事務処理したものに任せていた(3回12頁)。    
 MMの検察官調書(甲65)によると,その作成の手順は,MMが被告人戸田にメモを見せ,被告人戸田がこれに目をとおし,さらにそのメモに基づいて計算表を作成した上で,その計算書に基づいて,収支報告書が作成されると言う手順であった。
 MMの検察官調書(甲65)によれば,平成15年分の収支報告書作成に際しても, 「私は平成16年3月頃,戸田事務所にいたときに,戸田議員から,確か封筒から取り出した未記入の収支報告書を2綴りを見せられて、こんなのがきたから,去年と同じようにまとめておいてなどと言われました。」(甲65・12頁)
 ところが,同人は,「資金管理の会は,平成15年1月27日と2月18日の2回にわたり連帯からそれぞれ45万円ずつ寄付を受けていましたので,本来であれば,私は,メモに,連帯から45万円の寄付が2回あり合計90万円の寄付があったことを書いて戸田議員に渡すべきで」あったのに,「連帯からの寄付が,特定の団体との癒着を疑われる寄付であると感じており,個人的に寄付をしてくれた寄付者と違って多額であったので,それらの寄付と同じに扱うことに抵抗がありましたのでメモに記載せず,連帯以外からの寄付について,寄付してくれた人の人数と寄付の合計額を記載したメモを戸田議員に渡し」たのである(甲65・13頁)。    

 さらに,MMは「連帯からの90万円の寄付を計上せずに計算表を作り,「戸田カンパ」という戸田議員が個人で資金管理の会に寄付したことを表す寄付金の金額欄を空白状態にして,その計算表を戸田議員に見せました。」(甲65・17頁)。

 すなわち,MMは,収支報告書作成のもととなるメモ及び計算書を作成したが,その際,MM自身の判断で,事実と異なる記載をしたのである。

  (2)  被告人戸田はMMのメモ等が事実と異なることに気づかなかった
 このように,MMの作成したメモ及び計算書の記載が事実と異なることに,被告人戸田は気づかなかった。
 MMの検察官調書(甲65)によると,「戸田議員は,私が手渡ししたメモを見て,連帯からの寄附を計上するようにとは言わず,これでいいよと,などと言いました」(甲65・15頁)。    
 また,計算表についても「戸田議員は,連帯からの90万円の寄付が計上されていないことについては,メモを提出したときと同じように何も言いませんでした。」(甲65・17頁)。
 なぜなら,被告人戸田は,メモを見たときにも,計算表を見たときにも,本件で問題になっている90万円の記載がないことに気づかなかったのである(3回13頁)。

 上記の通り,例年,収支報告書作成に当たっては,被告人戸田は,MMが事務処理したものに任せており,MMが作成したメモを,戸田が原資料に基づいてチェックし直すということはしなかった(3回12頁)。   
 MMに事務処理を委ねていた,被告人戸田にとって,MMが「寄付があったことを書いて戸田議員に渡すべき」を,個人的に「特定の団体との癒着を疑われる寄付である」,あるいは他の「寄付と同じに扱うことに抵抗」を感じて,メモに記載しないなどと言うことは予想もできな  いし,また,被告人戸田は,例年,3月議会の終了までは,様々な議会活動に忙殺されて,収支報告書作成に向かう余裕が全くなく,3月31日の提出期限ぎりぎりになって,収支報告書作成を意識するという状況であった(3回11頁)。    

 平成15年分の収支報告書作成当時の,2004年3月当時は,例年どおりの多忙に加えて,合併問題で非常に際だって忙しく,さらに,情報隠し裁判の準備書面作成と,4月の証人尋問の準備があり,時間的にも労力的にも,それ以外の作業に割くゆとりが全くない状態にあった(3回14頁)。
 MMの検察官調書(甲65)に,「私が戸田議員から平成15年分の収支報告書の作成に必要なメモや計算表の作成を頼まれてから最終的に収支報告書の清書を終えるまでの時間は,およそ1〜2日間の期間で行われたと記憶しています。」(甲65・21頁)とあるが,被告人戸田が,実際に,収支報告書について,意識していたのは,締め切りぎりぎりの一日,その中の1時間か2時間程度のことであった(3回37頁)。
 このため,被告人戸田において,寄附金があったことを失念したまま,事実と異なる収支報告書が作成されることとなってしまったのである。

2 検察官主張の誤り

 (1) 被告人戸田の5万円訂正指示は,記載上の収支不合致があったからMMの検察官調書(甲65)によれば,計算表について,「戸田議員が個人で資金管理の会に寄付したことを表す寄付金の金額欄に,5万円という金額を記載するようにという意味を込めて,戸田議員が「¥50,000」と書き込んだので,私は,エクセル文書の入力をし直しました。」(甲65・17頁)という。
 示された計算表に,被告人戸田が5万円と書き込んで訂正したとしても,それは,収入と支出が5万円合わないことが計算表の記載上だけから明らかであったため,それを訂正したに過ぎない(3回13頁)。    
 何か資料に当たってその根拠を調べたりなどしたのではなかった(3回13頁)。すなわち,記載されるべき5万円の収入が存在しているのに,それが記載されていないと気づいたのではなく,被告人戸田は,記載された収入欄と支出欄の各数字に5万円の齟齬があると言うことに気づいたに過ぎない。
 被告人戸田が5万円の記入をしたことは,計算表記載の数字の根拠等について,被告人戸田が何らかの認識を持っていたりあるいは判断を行ったことを示すものではない。

(2) 失念していても不思議はない
 検察官は,「ようやく得られた90万円もの多額の寄附を被告人戸田が失念することなど考えられない」という。
 しかし,寄附を得たのは1年以上も前のことであって,しかもそれ以後,被告人戸田は上記の通りに,極めて多忙な日々を送っていた。必ずしも多額と言えない,1年以上も前に得た寄附について失念していたからと言って,何の不思議もない。
 検察官は,本件の4か月前,平成15年11月28日付けで発行された機関誌「ヒグ-戸田通信(甲14号証)の収入欄に,「カンパ・雑収入」として被告人関西地区生コン支部からの寄附合計90万円のうちの1回分45万円を含む金額が記載されていることもって,本件虚偽記入は故 意によるものとしか考えられない,ともいう。

 しかし,MMの検察官調書によれば,MMは,「『ヒゲ戸田通信』に収支状況を掲載する必要が出てくると,『戸田事務所会計』を元に作成した『月別収支内訳』を借入金や返済金の欄を空欄にしたままでプリントアウトして戸田議員に手渡し,そのままの記載で『ヒゲ戸田通信』に公表する収支状況としてよいかどうかのチェックを受けていました。そうすると,戸田議員が,借入金や返済金の欄に,金額を記載したり,各欄の記載を公表する収支として計上するかどうかを判断し,公表する収支を決めていました。」(甲30・16頁)
 そうすると,「ヒゲ戸田通信」記載の収支状況はMMが記載していて,被告人は借入金や返済金を記入するだけなのである。
 平成15年11月28日付ヒゲ戸田通信のカンパ・雑収入欄に被告人関西地区生コン支部からの寄附合計90万円のうちの1回分45万円を含む金額が記載されていたからと言って,当該通信の作成の時点で,被告人戸田が45万円の寄附について意識にのぼっていたとは言えないし,現に意識になかったのである。  

 以上,被告人戸田,被告人友の会の,いずれの公訴事実についても検察官の主張には理由がない。
 にもかかわらず,被告人らが起訴されるに至った本件の実相については,被告人や相弁護人が述べるとおりである。
 被告人らは無罪とされるしかない。