原告団意見陳述

意見陳述書

大阪地方裁判所 御中  

2004年(平成16年)(ワ)第8499号 国費支出差止、損害賠償請求事件について、下 記の通り意見を述べます。

                            2005年 月  日
                            原告 矢田貝  元

 6月13日、被告(国)の指定代理人23名の連名による乙4号証「東京地方裁判所平成17 年5月16日」が私の手元に送られてきました。とても認めることができない内容でした。いや 絶対に認めてはならない、そう思いました。
 自衛隊イラク派遣は、紛れもない日本国憲法違反であります。これは争う余地のない事実であ ります。この事実を法の番人たる裁判所が詭弁を弄して、裁判所に判断を求めることは「不適法 」であるとして、憲法判断を回避するというのです。日本政府が他国を占領するために自衛隊を派遣した、今このとき、戦争を2度と再びこの国がやらないという強い確認が日本国憲法ではないのか。まさにこのときのために憲法はあるのではないのか。
私は1950年生まれで、戦争は過去のこととして育ちました。ベトナム反戦運動以来、反戦運動を続けて参りました。しかし、 日本国憲法を全文きちんと読んだのは、昨年1年かけて行った憲法学習会をとおしてでした。有事法が国会を通過し、自衛隊がイラクへ派兵されるという現実を前にしてのことでした。逆に言 えば、憲法9条によって、平和が守られている間は、憲法を気にすることもあまりなかったと私自身思っています。従って、私は憲法を熟知した人間ではありませんが、日本国憲法に感動しま した。元気をいただきました。
 ところが、この東京地裁の「判断」に戦慄いたしました。  「平和的生存権につき検討するに、確かに、憲法は、前文において、恒久の平和を念願し、全世界の国民が平和のうちに生存する権利を確認することをうたい、9条において国権の発動たる 戦争と武力による威嚇または武力の行使を放棄し、戦力を保持せず、国の交戦権を認めない旨規 定している。」と憲法を確認した上で、
 「しかしながら、上記のいわゆる平和的生存権は、理念ないし目的としての抽象的概念であっ て、権利としての具体的内容を有するものとはいえない(最判平成元年6月20日民集43巻6 号385頁)。従って、平和的生存権が国民各個人に対し具体的権利として保障されているとか 、法律上何らかの具体的利益として保証されていると解することはできない。」として、この訴えは「不適法」と憲法判断を回避した「門前払い」の回答です。
 平和的生存権は「国民各個人」の「具体的権利」ではないと、今具体的に平和的生存権が自衛 隊のイラク派遣という具体的事実によって、目の前で否定され、踏みにじられているいまこの時 に、この判断こそ「不適法」であり、撤回されるべきであります。
 日本国憲法前文は 「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫の ために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政 府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国 民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるもの であって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民 がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである 。われらはこれに反する一切の憲法、法令および勅諭を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するので あって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意 した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めて ゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく 恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらはいづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、 政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と 対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力を挙げてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。 」
 と謳っています。そしてこの前文の目的を達成するために、103条からなる条文があります 。平和的生存権を謳った13条は憲法全体の中で核心的位置にあります。
 第13条【個人の尊重と公共の福祉】
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利に ついては、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする 。
  この13条の核心は、「公共の福祉に反しない限り」ではありません。最初の1文「すべて国民 は、個人として尊重される」にあります。職業や学歴、社会的地位、性別など人それぞれの違い に関係なく、その人がその人であるが故に尊重されるということが、日本国憲法の目的でありま す。憲法の前文では、そのためには、全世界の国民が個人として尊重されなければならないとい っています。この関係を「普遍的な政治道徳の法則」なのだと言っています。法則とは、三省堂 版の「大辞林」で調べますと「@守らなければならない決まりA一定の条件の下で、必ず成立す る物事相互の関係。自然法則・科学法則・物理法則・社会法則・経済法則などがある」とでてい ます。つまり努力目標、目的、理念といったものでなく、こうやれば必ず、この結果が伴うとい う客観的原理として確認している。この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関 係に立とうとする各国の責務、つまり、全世界の国民が個人として尊重されなければ、日本国民 も個人として尊重されることはないと確認しているわけです。
 そして、日本国憲法では、「個人が尊重されるために」3つの柱を規定しています。
1つは 主権は国民にある、主権在民です。
 主権とは何でしょうか。最高決定権のことです。税金の使い 方、政治権力の決定権、は国民にあるということです。そして国民の厳粛な信託によって国政は 行われなければならない、と政治のあり方を規定しています。
2つは、基本的人権、つまり人権の保障です。
 平等な法律(14条)、請願権(16条)、賠償請求権(17条)、18条から40条まで教 育、福祉、労働、財政、公務員のあり方、地方と中央の縦と横のチェックを入れる仕組みで人権 を保障し、さらに、 第10章 最高法規 
第97条【基本的人権の本質】
 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の 成果で あって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、犯すことの出 来ない永久の権利として信託されたものである。 として、人権が侵されることのないように、「永久の権利」としてカギがかけられています。国 民が「個人として尊重される」、このような政府であれば、政府の行為による戦争を防ぐことが できるという強い確信がこめられています。
3つは、平和主義です。
日本国憲法 第2章戦争の放棄 
第9条【戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認】
 (一)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動た る戦争 と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、 永久にこれを放 棄する。
 (二)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権 は、これを認めない。 これは、字義通り守られなければならない。戦争こそ、最大の人権侵害である。武器弾薬を携行 し、イラクに多国籍軍として自衛隊が派遣されるなどということは、明らかに政府の違憲行為で ある。イラク国民に対する著しい人権侵害は、日本国民の拘束や殺害となって跳ね返っています 。まさに「政治道徳の法則」通りに現実が進んでいます。平和であることによって、個人が尊重 される条件が保証されることを、私は今現実に自分自身のこととして感じています。
 「国際法上、国家の自衛権は認められている」といった理由で「憲法改正」を要求する意見が ありますが、理由にもならないと思います。なぜなら、この人たちの主張する自衛権とは武力に よる威嚇を意味するからです。憲法第9条では「永久に放棄する。」とあらゆる言い訳も、誤解 も許さない現在形で断言しています。米軍とともに自衛隊を出すことで「国際社会において名誉 ある地位をしめる」という小泉首相の立場は、明らかに憲法を間違って理解したものであり、糺 されるべきです。
 今、政府が自衛隊をイラクに派遣する行為によって、明らかにイラク国民も日本国民も平和的 に生存する権利を侵されている。これはすでに書証において、また、西谷、高藪両氏の証人尋問 において立証してきました。米軍をはじめとする多国籍軍の占領下にあるイラク国民にとって耐え難い人権侵害がおこなわれている。小泉首相によって派遣された自衛官にも死傷者がでている と聞きます。6月23日には路上爆弾によって、自衛隊が攻撃されました。日本政府は攻撃を認 めました。にもかかわらず、12月に切れる自衛隊派遣期限の延長論が政府内部から出てきていると報道されています。
 サマワの自衛隊宿営地は、自衛隊によって買収されたイラク警察によって、メディアはもとよ り、サマワ住民も近寄れない状態です。路上爆弾の犯人捜しと称して、50人のイラク市民が拘束されていると聞きます。自衛隊内部でも、イラク派遣を契機に2004年3月、隊内の情報漏 洩を調査する情報保全隊が活動をはじめ、自衛隊法違反の懲罰の対象として、隊内の監視、通報 の体制が強化されていると聞きます。政府の都合のいい情報しか流されない中で、自衛隊員もその家族も、不安と心配はどれほどか。小泉首相は考えたことがあるのでしょうか。イラク・サマワは「人道復興支援」という自衛隊の派遣の目的は、達成されないまま、自衛隊はイラク国民の怒りの攻撃を恐れ、宿営地に閉じこもっています。このまま駐留を続ければ必ず、イラク国民を 銃撃することになる。これは時間の問題です。今このとき、平和的生存権は具体的権利ではない として、日本政府の行為を司法が、裁判所が裁くことを回避するとしたら、司法は自らの生命を 絶つこととなります。
日本国憲法 第76条【司法権・裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立】 
 (3)すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。 と謳われております。また、  
日本国憲法 第99条【憲法尊重擁護の義務】
 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護す る義務を負ふ。 と謳われています。
 裁判官は、憲法を尊重し、擁護する義務があります。また、国務大臣や国会議員の思惑で、政府の行為によって戦争が進められることに対して、良心に従い、判断を下すことが、いまほど強 く求められているときはありません。憲法がこれほど明白に、政府によって破られており、自衛 官が不法に占領軍として戦地に赴かされているとき、憲法判断を回避することは、歴史に禍根を残す行為であります。
 この法廷に於ける判断は、必ず憲法にそった英知ある判断であることを確信します。

 『意見書』 

      原告 梅川 正信  

 私は、今現在、日本通運鰍ナ働く労働者です。
 日本通運は、1937年(昭和12年)に国策 会社として日本通運株式会社法を成立させ、全国の小運送といわれる鉄道(国鉄)の駅ごとにある小さな通運会社を統合し、半官半民の全国会社として生まれました。戦中は戦争遂行政策でさ らに比較的大きい都市の運送会社(通運業者)をも統合集中し独占状態になりました。だから社長以下役員が運輸省の天下りが戦後も長いあいで続いてきたのです。
 従って、戦後も国など官公庁関係の物資を輸送する仕事は一手に引き受けていました。戦後GHQ(アメリカ占領軍)の民主化政策の一つの財閥解体では、候補になるほど戦争政策に協力し 独占的シェアを誇っていました。
 1968年の政府食糧(政府米など)の輸送に絡む汚職事件は日通事件として、世間を騒がせ ました。社長など会社役員が政府にからむ仕事の膨大な儲けを金の延べ棒にして床に隠していた ことも発覚し、それらを苦にした日通の支店長であった社長の息子が自殺しました。
 日本通運は、国際輸送分野では早くから各国に進出し、たとえば石油プラントの輸送だけでな く建設にも携わっています。国際輸送支店や日通航空のように専業部門(事業部)を持ち、陸海 空のあらゆる輸送手段を使って世界のネットワークで輸送しています。日通航空は、旅行支店の ように海外旅行なども早くから手がけています。
 そういう状況の中で当時から現在に至るまで、防衛施設庁関係の仕事がほとんど独占的に日本通運にまわって来ます。戦車や武器精密部品などあらゆる戦争道具を輸送しています。ちなみに 、新幹線の車両や核物質も輸送する手段と技術を持っています。
 さて、2004年1月にイラクに派遣された自衛隊の先遣隊が使用する装甲車など日本津運が 請け負って現地まで輸送したのです。10年前のルワンダPKOでは、基地撤収の仕事を自衛隊が 帰国した後日通の社員がしています。(『週刊新潮』04/1/22号24頁)
 そして、『週刊新潮』と『日通労働』で知った情報と、組合指導方針に「自衛隊のイラク派遣 にともなう輸送業務は安全確保と本人同意があれば従事できる」ことに不安を持った日本通運 大阪支店の社員(組合員)の有志が、全日通労働組合中央執行委員会に対し、「平和と民主主義 を守る運動方針」を堅持して応じない立場を求めて申し入れをしています。(『イラクへの自衛 隊派兵に伴う日通の武器輸送に関しての申し入れ』書04/2/20付)
 結局、『自衛隊のイラク派遣にともなう輸送業務』は実施され、「イラク関連輸送などの特需 」といわれるほどに、テロ(抵抗)に遭う危険な業務と引き換えに、(戦争)特需といえるほど に会社の大儲けとなりました。(『全日通労働組合第59回定期全国大会議案集』7頁04/7/15- 16)
  今回、仕事とはいえ、やはり戦争につながる軍需(軍事)物資の輸送は、日通で働く労働者を 危険にさらすことになるし、戦争やテロにつながることになると、家族も含め人間らしく生きる ための基本的な条件である平和が脅かされるからです。私も、日本通運の社員として、いつ何時 、業務命令で、「自衛隊のイラク派遣にともなう輸送業務」に着かされるかもしれないのです。 実際に私の命に関わる問題なのです。
 ぜひ、賢明な裁判官の判断で、日本の未来のために「イラク派兵費用差し止め」の判決を下し て下さい。
               以上

 陳 述 書      

関西合同労働組合 副執行委員長 渡海 優 

  私が提訴にいたった理由
○ 労働組合としての立場から (自衛隊員への海外派兵指示は労働条件の一方的な不利益変更にあたり無効である) 自衛官は軍服を着た労働者であり、私たちの仲間であると認識しています。事実、私自身の同級 生に自衛隊に入隊した友人もいます。元自衛官の友人から聞く限りでも、彼らは就職先の一つと して自衛隊員になったものがそのほとんどです。
自衛官の多くは、憲法にも明記されたとおり、「国権の発動たる武力の行使を永久に放棄する」 との立場から、よほどのことがあっても日本が戦争を行うことはないと認識し、「自衛官」とい う職業に就いたと考えるべきです。また、専守防衛の立場から、自衛隊が海外において活動する などということは、少なくとも十数年位前までに自衛官になった人たちは想像もしていなかった に違いありません。
ところがここ数年の間に、PKO法などが成立して以降特に、自衛隊が海外で活動することが当た り前のような状況が生み出されてきました。私が暮らし、働いている伊丹市内の基地からも、東チモールなどへの災害派遣がすでに開始されています。
こうした状況の中で自衛官たちは、誠実に任務を遂行してきました。彼らはそれが、国際貢献に なるものであると思い込まされてきたし、また家族のためにより多くの生活費を得るためには、 海外派遣に伴って増額される手当に期待するほか無かったのです。
しかし、イラク派兵はこれまでのPKO活動とは、条件が全く違うことは明白です。何よりも、イ ラク現地の政府・市民が自衛隊の派兵を求めておらず、米英による侵略と虐殺の蛮行とこれに対 する民衆の抵抗の闘いによって、いまやイラク全土は紛れも無い戦場になっているからです。 自衛官からすれば、国=使用者の都合で、イラク特措法という法律を強行成立させたことを唯一 の根拠に、自衛隊員の意思を無視し、一方的に海外派兵を指示することは、軍服を着た労働者に 対する労働条件の一方的な不利益変更にあたります。
これを労働組合の視点から見れば、労働条 件の一方的な不利益変更は明白に無効であるといわざるを得ません。
自衛官に対しては、労働組合結成の権利すら奪うことによって抵抗権を奪い、さらには生命の安 全さえ保証されない業務に従事させることが許されて良いのでしょうか。 無論自衛官には、退職の自由は認められています。また派兵を拒否する権利も、文言の上では認 められていることでしょう。
しかし自衛官が、そうした権利主張や行動をとることによって生じ る家族・家計への影響、仲間との間に生ずるリスクなどと、自らの命を、秤にかけざるを得ない 状況に追いやった責任の一端は、彼らを取り巻く私たち自身にあると考えます。
例えば、自衛官がイラク派兵を拒否したり、自衛隊を辞めた時に、彼らの生活や自衛隊内での権 利を守ることが十分に出来うる社会環境があるでしょうか。高い失業率と低賃金・リストラが当 たり前のように行われている社会情勢では、一般の労働者でも転職や退職勧告には苦悩するもの です。ましてや自衛官は特殊な技術や資格、専門知識を有するわけではなく、自衛隊以外の社会 に出てゆくことに対する苦悩は想像を絶するものであると想像されます。 「大失業時代」と言うべきこうした現在の社会状況を作り出した責任の一旦は、賃下げリストラ 攻撃と十分に対決する事が出来てこなかった労働組合の力の弱さにもあると言わざるを得ません 。
私は、自衛官の人たちとともに伊丹で暮らすものとして、労働組合の役員として、また何よりも 主権者として、自衛隊のイラク派兵には反対しなければならないと考えましたし、またその気持 ちを公にして苦悩する自衛官を激励し、勇気を持って派兵を拒否するように訴えなければならな いと考えました。 本件訴訟は、そうした運動の一環として、原告川村賢市氏の呼びかけに応え、私もこの訴訟に加 わることを決意した次第です。  
○給水活動に自衛隊を派兵する理由は無い
自衛隊はイラク民衆への人道援助として派兵されました。そもそも、米英がイラクに対して侵略 戦争を行わなければ、こうした人道援助なるものが不要であったことは言うまでもありません。
また、自衛隊の人道援助の中身として大きく宣伝されてきたこととして、その主要な活動は給水活動にあるとされてきました。 しかし本件訴状においても明らかなとおり、給水活動のために自衛隊が派兵されなければならな かった理由は皆無です。否むしろ、自衛隊が派兵されたことによってイラクの人々や日本の人民 が被った不利益のほうがはるかに大きかったといわざるを得ません。
例えば、自衛隊の給水活動による経済効果だけを取り上げてもそのことは明白です。 2004年2月ころより自衛隊のイラク派兵が開始されましたが、3月末には日量80トンの給水活動が 可能となったとされています。その後7月には日量平均160トンの給水活動を行い、10月には日量 平均200から260トンの給水活動を行っています。
これだけを見ますと、イラクに派遣された自衛隊が大いに現地の人々の役に立っているように見 えます。
ところが、順調に給水活動を行っていたはずの自衛隊は、2005年1月ころから給水活動を完全に 停止しました。人道復興援助のメインとされていたはずの給水活動が、突然停止されたのです。 これは何を意味しているのでしょうか。また、平均日量200トンの給水活動とはどのくらいの意 味があるのでしょうか。
例えば、日本国内での平均的な1日あたりの平均使用水量は一人あたりおよそ0.2トンと計算さ れます。世帯人員数にもよりますが、だいたい一人の人が1日に使用する水の量はお風呂1杯分く らい言われているのです。1日の平均給水量200トンというのは、ここから1日あたり約1000人分 の使用水量と算出されます。
ところで、この給水活動などのためにイラク現地に派遣されている自衛官の数はおよそ500名を 超えていますので、自衛隊の活動によって作られた浄水のおよそ半分近くが、自衛官自身の生活 のために使用されたと見ても過言ではありません。
また、自衛隊基地の周辺警備にあたっている オランダ軍や現在では英軍の兵士の使用する浄水も、ここから供給する必要があることは明白で す。また在イラク米軍に対しても自衛隊は給水活動を行っていたとされますから、自衛隊派兵に よって作り出された浄水の大半は、イラク現地の人々のためではなく、自衛官と米英軍らの兵士 のためのまさに後方支援活動=兵站活動そのものであったといわざるを得ません。正確な資料が公開されていないのですが、おそらくイラク・サマワ周辺の人々のために実際の供給された浄水量は、1日あたり数十トンというところではないのでしょうか。
また、例えば大阪市内を例に見てみますと、1トンあたりの浄水の価格はおよそ100円です。です から日量200トンの浄水の価格は、国内で見ますと200トン×100円=20000円となります。1日200 00円分の浄水を作り出すために、500名以上の自衛官を派遣する・・・以下に不経済な作業であ るかは言うまでもありません。こんなことのために国家予算が膨大に使用され、自衛官をはじめ とした人々の生命までもが危険にさらされるということが、正当な国家政策として認められよう がありません。  
○給水活動が停止されたことこそ・・・
実際、自衛隊が給水活動を中止した背景には、フランスのNGO団体による給水活動が開始され、 自衛隊による給水活動よりもはるかに効率的に何倍もの浄水を供給し始めたことがあります。日本のNGO団体にも多くの地域で浄水を供給する活動を行っている団体が存在しますが、こうした 団体の活動が自衛隊の活動よりもはるかに国際貢献としての大きな意味を持っていることは明白 なのに、自衛隊の派兵によってこうしたNGO団体の活動は制約を受け、もってイラクの人々の復 興の妨げになったことは想像に難くないところです。
そもそもは米軍による浄水場をはじめとしたライフラインに対する爆撃・破壊によってイラクの人々の生活が破壊され、自衛隊の派遣によってその復興はさらに立ち遅れる結果を生み出したと いわざるを得ません。
また現在自衛隊は、公共施設の建設・修復や医療支援活動のためと称してイラクに在駐していま す。
しかし、自衛隊のホームページを見ても、自衛官自身が土木作業や建設作業に従事している写真は1枚もありません。医療支援活動といっても、地元の医師を集めて研修なるものを行って いるだけと見受けられます。
ここで重要なことは、イラク現地において自衛官たちがどのような任務に着き、どのような活動を行っているのか私たちにはほとんど知らされていないということです。いな、国内の自衛官達 にすら具体的な状況は何一つ知らされていないのです。これ自身がイラク特措法違反ではありませんか。
またこうした活動を、自衛隊が行わなければならない理由は何もありません。自衛隊のホームペ ージの写真を見ても、自衛官はスコップやツルハシの代わりに銃を持ち、作業服の代わりに防弾 チョッキと軍服を着た写真ばかりではありませんか。これまでの東チモールなどへのPKO派兵と はまったく状況が違うとしか思えません。武装し、イラクの人々の解放を求める闘いを米軍とと もに鎮圧する侵略軍の一員として自衛官は派遣されていると言うほか無いのです。 少なくとも、 イラクの人々にとっては、自衛隊はそのような軍隊として映っているに違いありません。
政府の言う復興支援活動なるものが、ことごとく自衛隊派兵を正当化するための方便に過ぎない 、イラク現地の状況は政府の発表とはまったく違うと言うほかないのです。
本件訴訟において、被告・国は、自衛隊派兵の正当性については主張しようともせず、ひたすら 私たちの訴えを門前で排除しようとしていますが、まさにこうした態度にこそ、被告の不正義性 が表れていると考えざるを得ません。 
○命を捨てても侵略戦争は止めなければならない
1983年3月21日、当時21歳の学生であった私は、アメリカの原子力空母エンタープライズ号の佐世保入港に反対して、現地の漁民とともに海上デモに参加し、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力および安全保障条約第六条に基づく施設及び区域ならびに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法他の法律に違反したとして逮捕され、足掛け4年にも及ぶ裁判において有罪判決を受けた経験をもちます。
当時は1978年に策定されたガイドラインに沿って日米安保条約が運用され、それにしたがってエンタープライズ号が佐世保に入港したと政 府は説明しておりました。 200発とも言われる核弾頭を搭載した空母機動部隊が、日米韓の軍事演習の途中で日本に寄港す る行為は、極東アジアにおける軍事的バランスを一気に崩すものでした。実際、当時の大韓航空 機事件は、エンタープライズ号寄港などによって朝鮮半島における軍事的緊張が高まったことが 大きな原因であったと、私は今も考えています。
しかし裁判所はエンタープライズ号の佐世保寄港と日米安保条約が、差し迫る戦争の危機を生み 出したとはみなされず、国民の平和的生存権を明白かつ具体的に奪うものではないとして、私たちの海上デモを犯罪として認知し有罪判決を下しました。
以降、日米安保ガイドラインは何度も改定され、有事法は成立し、PKO法のもとで自衛隊は海外 で活動するようになり、ついにはイラク特措法の元、武装して派兵される事態にまでなりました 。
こうした武装した自衛隊の海外派兵は、専守防衛を謳ったはずの憲法の枠をも大きく踏み越え、エンタープライズ号事件の当時とはもはや比べ物にならないほどの戦争の危機を成熟させてきて います。イラク現地における拉致事件はもちろんのこと、日本政府自身が自衛隊の派兵によって日本国内における「テロ」の危険が高まったということを公然と宣言するにいたっています。
さらにここで重要なことは、「テロ対策」や「治安維持」の名のもとに、憲法でも保障されてきていたさまざまな基本的人権に次々と制限が加えられてきていることです。自衛隊官舎内でビラ まきをしていて逮捕された事件や、学校の門前でのビラまきで逮捕者が出た事件。正当な労働組 合活動を強要未遂などと言いなして弾圧する事件など、権力犯罪というべき事件が多発しています。イラクへの自衛隊派兵以降、まさに国内は戦時下とも言うべき情勢に突入しています。 こうした時代だからこそ、平和的生存権をはじめとした基本的人権が最大限尊重され、法の目的 たる平和を実現するものとして、裁判所の持つ意味が大きくなっているのではないでしょうか。  
○会社破産事件の中で
私は日本管検工業株式会社という会社に12年ほど勤務していましたが、2003年12月25日に突然会 社が自己破産を申し立て、現在までの約1年余り、会社破産とそれに伴う解雇に抗議し、会社再建を目指して争議を行って参りました。
日本管検工業株式会社は、1977年の創立と同時に、国内 で初めて下水道管渠内を調査するTVカメラ装置を開発し、公共下水道維持管理の草分け的企業と して経営されてきました。 具体的には、特殊なTVカメラ装置を使ってマンホールから下水道の管内を調査し、老朽化に伴う 劣化やひび割れ、地下水の管内流入などの不良個所を、独自開発の特殊技術を用いて非開削で補 修するという仕事をしていました。業界としては公共事業関連の建設業ということになります。
この会社破産の原因はさまざまに想像されますが、そのひとつとしてこの間の小泉政権の下での 公共事業予算の削減と入札制度の改悪があげられることは疑いのないところです。財政危機を口実とした予算の削減と入札制度の改悪=低価格入札の奨励が会社破産に結びついたこととイラク への自衛隊派兵を並べて見たとき、私には釈然としないものがあります。
本陳述書でも触れましたように、小泉は国内なら生産高1日2万円にしかならない業務に450億円 以上もの予算を計上し、1日500名を超える自衛官を危険にさらしています。そしてこれによって生み出された財政負担を、公共工事予算の削減と入札制度の改悪というかたちで民間に押し付け てきている。建設業をはじめとした民間企業は経営難に陥り、会社破産・倒産も激発し、それに よって生み出された矛盾はそこで働く労働者を直撃しているという構図がここにあるからです。
矛盾のしわ寄せは建設業界で働く労働者のみならず、消費税の増税や福祉・医療費負担の増加な どによって、すべての市民生活を脅かしてきています。まさに、自衛隊のイラク派兵をはじめと する小泉政権のすべての政策は、外に向かっての侵略と国内に対しては大失業とリストラを強制 するという、民主主義の名に値しない悪政というほかありません。
また日本管検工業株式会社は伊丹市の自衛隊基地の真横に位置し、毎日訓練に出かける自衛隊車 両が門前を通過する場所にあります。毎日のように見かけるこの若き自衛官達が、この5月にも イラクに派遣され、危険な任務を強制されようとしているかと考えると、その自衛官本人やその 家族の心中を考えても胸に迫るものがあります。 自衛官が隊内からイラク派兵を拒否する声をあげることは困難であるに違いありません。だから こそ、市民・労働者がイラク派兵反対・派兵予算支出反対の大きな声をあげ、自衛官の派兵拒否 の本音をあげられる条件を、私たち自身の手で作り出してゆかねばならないと思うのです。
裁判所におかれましては、本件訴訟の歴史的重大性を認識され、その帰趨が自衛官をはじめとし たすべての市民生活の未来を決するものである重みを自覚される中で、良識あるご判断をいただ けるものと期待いたします。
以上

意見陳述書

原告 平岡 弘子  

 私は、婦人民主クラブ全国協議会という女性団体で活動しているものです。婦人民主クラブ全 国協議会は「二度と侵略戦争に加担しない」と誓って出発しました。「反戦を第一の仕事に」を 合い言葉に「女性解放・子どもの幸福」「暮らしを守る」ため、女性自らが主体的に行動しよう と集まった女性の組織です。
 イラクへの自衛隊派兵は、長年戦争につながるものを見過ごさず 多くの女性と共に「戦争反対」の声をあげてきた者として、決して許すことが出来ないので原告 となりました。
 私は1943年小学校(国民学校)に入学しました。軍人上がりの教師から「皇后陛下に恥じ ないのか」とどなられて体罰を受けたこと、姉が病弱で体育の授業(ほとんど軍事訓練)を欠席 したためいじめられたこと、父親が戦死した級友の悲惨な生活など、子ども心につきささってく るものが多い学校生活でした。
 本土空襲(空爆)が激しくなり、私の住んでいた豊中市にも爆弾が落とされました。空爆のた びに防空壕の中で「死ぬんではないか」とこわくて身を縮めていました。
 1945年8月15日、敗戦はどれだけうれしかったことか、以後長ずるに従って「戦争はい やだ」の気持ちが強く刻まれていきました。
 婦人民主クラブ全国協議会に入って活動することになったのも、子ども時代の体験があったか らです。
 アメリカによる何の正義性もないイラク侵略戦争が行われ、戦争終結後も占領支配が続いてい ます。イラク全土にわたって安全ではなく、子どもや女性、お年寄りが、秒ごと、分ごとに死に 直面していることを思うとたまりません。
 イラクへ自衛隊を派兵すると云うことは、アメリカ のイラク侵略に日本が加担していることです。私は戦争の加害者になることは絶対いやです。派 兵費用に莫大な税金が使われています。イラクの人々の命を奪うことに私たちの税金を使ってほ しくありません。
 私は今、ボランティアとして保育所に出かけています。子どもたちの生活はこの1,2年急激 に悪化してきました。父親の失業・リストラが増え、母親はほとんどがパート労働で、昼間働き 、さらに子どもを寝かしつけて深夜までスーパー働くのです。過酷な労働に疲れきって子どもを みる余裕さえなくなっています。家庭崩壊がすすみ、悲鳴を上げている子どもたちが増えてきま した。
 小泉政権の下すすめられる戦争政策で、イラク派兵に莫大な税金がつぎこまれる一方で 、労働者の家族は生活破壊を強いられているのです。私は子どもたちの幸福と、家族が安心して 生活する権利を侵害するこの戦争政策に強く反対します。
 戦前、日本の女性は天皇制家族制度のもとで差別・抑圧され、参政権もありませんでした。しかし、多くの女性は「健児の母」「銃後の母」といわれて侵略戦争を担わされて来ました。
 戦後、こんなこと2度と繰り返すまいと心に決めた私たち女性は、再び「健児の母」として若者を侵略戦争に送り出すことなど絶対にできません。
 イラクからただちに自衛隊を撤退させること、派兵のための国費差し止めを強く求めます。
                   以 上                

意見陳述書

原告  国賀 祥司  

 私は1951年11月30日生まれで現在53才です。現在、泉佐野市議会議員をしており、 また関西新空港絶対反対泉州住民の会事務局長もしています。  私が本件訴訟を起こした理由は、
 @自衛隊イラク派兵は、アメリカ帝国主義がおこした不正義 のイラク侵略戦争と占領に、日本が加担し占領軍の一翼を担い、イラク人民の敵になっているこ と、
 A自衛隊派兵は、憲法に違反し、自衛隊法にも違反していること、
 B自衛隊の派兵・駐留経 費が膨大であり、支出が違法であること、
 C政府が今回の自衛隊派兵を契機に日本全体を戦争す る国に変貌させようとしていること、
 D関西空港など民間空港を自衛隊員と資材の運搬に使い、 そこで働く労働者を動員していく軍事空港に変えようとしていることなどからであります。
 私は、1986年に泉佐野市議会議員になりましたが、公約でも一貫して戦争に反対し、関西 空港の軍事使用に反対してきました。私を支持してくれた市民はみんな戦争に反対し、関西空港の軍事使用に反対しています。 自衛隊イラク派兵を小泉政権が決定した時から、自衛隊員のみならず、民間空港、港湾、鉄道な ど民間施設が使われ、民間労働者が協力させられるのではないか、日本全体が戦争体制に変えら れていくのではないかと考え、反対してきました。  今年5月7日、恐れていたことが起こりました。自衛隊第6次イラク派兵部隊である第3師団 (伊丹市)が、7日午後7時半、関西空港からチャター機で出発したのです。空港で働く労働者 も自衛隊出発のための業務に協力させられました。
これまで政府と関空会社は「関西空港は純粋民間空港。軍事使用はしません」と約束してきまし た。第3師団の派兵に対し、事前に地元市民が関空会社に自衛隊派兵に使用しないよう」申し入れしました。しかし政府の方針で関空会社は許可しました。関西空港が初めて軍事使用された 瞬間です。
 私はじめ地元住民団体の抗議に対する関空会社の説明は「イラク復興支援法に基づく派遣だか ら軍事使用にあたらない」という屁理屈でした。自衛隊という軍隊が使用しても「軍事使用では ない」と言う。こんなごまかしに誰が納得するというのでしょうか。戦前に戦争を拡大していく やり方と同じで、屁理屈とウソで国民をだまし、戦争を始め、そして際限なく拡大していくので す。これが日本全体を戦争国家に変え、国民を戦争に動員していくやり方です。憲法に違反し、 自衛隊法にも違反していても、政府が決めたことだから関西空港を軍事使用しても合法になるの です。だから私は本件訴訟を起こしたのです。
 つぎに、自衛隊がイラク・サマワで何をしているのかということです。2月から給水活動はや めました。効率の悪い自衛隊がやる給水量よりもNPOの方が何倍も給水できたし、ODAで建 設した浄水施設で何十倍も給水できるようになったからです。学校などの修理もイラクの建築業者に発注しているというではありませんか。今や自衛隊はイラクで「復興支援」はほとんど何も していない状況です。いったい自衛隊はイラクに行って、隊員を危険にさらしながら、基地にこ もっているだけではありませんか。巨大な税金の無駄遣いです。いったいこのような血税の無駄 遣いが許されていいのでしょうか。国中に失業者があふれ、社会保障が削られ、増税され、庶民 が苦しめられている状況を知るにつけ、怒りを押さえることが出来ません。いつの時代にも戦争 は戦費を膨大に使い、他方で福祉を削り、増税し、庶民を苦しめてきたことは歴史の教えるとこ ろです。
 私は、イラク戦争によって日本が非常に危険な方向に舵をきったと考えています。このような 戦争への道を止めることが、私たちに課せられた責務だと考えています。  裁判所は、こういう現状をしっかり見据えて審理を進めていただくことを要望します。
以上  

意見陳述書

原告 森田充二

  自衛隊のイラク派兵は、憲法違反です。憲法第9条の条文を読み、理解することのできる人で あれば、この条文内容と現在の政府が行っている自衛隊のイラク派兵が矛盾していることは義務 教育課程の児童ですらわかることではないかと思います。それをあえて、このように裁判に付し て、違憲確認を行わなくてはならないこと自体に、この国と政府がとっている姿勢が大問題にな っていることが明らかになっています。
 また、同時にこのような憲法を完全に踏みにじる行政府の暴走をくい止め、糾す役割を司法が 担っているはずではないかという強い思いと憤りをもって、私自身、今回の提訴に加わりました 。
 私が主張したい第一点は、今回の戦争と軍事占領は、いかなる意味でも正義性がないというこ とです。
これは、日本国憲法や自衛隊法がどうあろうとそれをも越えた人類の普遍的利害という 観点からも許されざる戦争と軍事占領である点です。戦争の口実であった「大量破壊兵器」の存 在自体が当のアメリカ政府自身が否定しているではありませんか。これだけでもブッシュ政権は 、ただちに占領軍を撤退させ、イラク民衆に謝罪と賠償を行う責任が発生するのではありません か。
しかるに、今なお、軍事占領を行うだけではなく、イラク国内での戦争行為を継続し、2万人を越えるイラク民衆を殺戮し続けていることは、絶対に許せないということです。しかも、国 際法上禁止されている数々の兵器を使用し、残虐きわまりない行為を米軍が行っていることは、 ただちにやめさせなくてはなりません。
特に、核兵器である劣化ウラン弾の使用は、今後数十年 にわたってイラク国内のみならず、中東一帯を核汚染させ、どのような被害が発生するか予測さ れないほどの規模になっていることは報道を見るまでもなく、甚大な核兵器被害の経験者である 日本民衆の広汎な経験と良心から絶対に許されざる行為であることは、多くの議論を経る必要が ない判断だということです。
 第二点は、今回の派兵は自衛隊法やイラク特措法にも、違反しているということです。自衛隊 の存在自体が違憲であることやPKOをはじめとした国際支援のあり方自体が違憲である点など主 張したい点はいくつもありますが、憲法に反している自衛隊法やイラク特措法自体にも、今回の派兵は違反しています。何よりも、政府は今回の派兵にあたっては「非戦闘地域」であるという ことで、自衛隊の派兵を正当化していますが、どのような観点からもそれは認められるものでは ありません。「戦闘地域」と「非戦闘地域」の線引きは、実際いかなる政府機関も行えていないではありませんか。
 しかも、いまなおイラクでの戦闘は継続されており、イラク民衆の犠牲や米軍の死傷者も増え 続けているのが現実です。実際ごく最近の4月27日にBBCが発信した報道でも明らかです。「 イラクで武装攻撃を展開している勢力は、1年前と同じ強さを保っている−−アメリカ軍トップ が語った。米軍統合参謀本部議長でリチャード・マイヤーズ大将によると、毎日50〜60件の 攻撃が遂行されており、それは2004年と同じ数字である。しかし彼は、武力攻撃の最近の増 大傾向が一致した作戦のもとにあると言うのは早計だとして、米軍の後押しする軍隊が『勝利し つつある』と主張した。だがBBCの特派員は、イラクの選挙後にあった米国の楽観論は過去の ものとなったと指摘した。」と。
さらに、イスラムレポートによると、その前の13日には「シ リア国境にあるカイム市では3日連続して激しい戦闘が発生した。イラク・レジスタンス戦士は 市の東・西・南・北の入り口でアメリカの特殊部隊および海兵隊と戦闘中。イラク傀儡軍の情報 筋は、レジスタンスが13日明け方、米軍アパッチ・ヘリ2機を撃墜したと話した。米地上部隊 は退却し、替わりに、戦闘爆撃機を出動させた。イラク傀儡軍の広報は、この日の明け方と先日 夜の戦闘で36台の米軍車両が全壊させられたことを認めた。その残骸はまだカイム市の郊外で 目にすることができる。
また米軍の攻撃のさいに、米兵71人が死亡したと傀儡軍の広報が明ら かにした。」と報道されているではありませんか。
 このようにイラク国内はどこでもどのようにも、戦闘が継続しており、「非戦闘地域」という 概念は適用できないことは、今現在ますます明らかになっています。憲法に違反した自衛隊法や イラク特措法にも、さらに違反した自衛隊のイラク派兵を認め、継続することは罪の上に罪を重 ねる行為であり、これを承認することは絶対にできないと思います。
 第三に、私は2003年4月の統一地方選挙で、高槻市議会議員に当選しました。その際に、 同年3月20日に開始されたイラクへの侵略戦争に反対することを掲げて、この当選を勝ち取っ たことから考えても、この立場を裏切ることはできません。有権者との公約事項としても、イラ クへの戦争と軍事占領に反対し続けなくてはならないと決意しています。
 さらに、私には、18歳になる息子がおります。一人の父親として、息子を始め、若い年代の 人たちが、このような政府の戦争行為に協力させられ、動員されていく危険性を排除するためにも、この自衛隊のイラク派兵をやめさせなくてはならないと決意しています。
 最後に、裁判官諸氏に訴えたいこととして、憲法を始め法の「番人」としての司法の存在が、 今ほど問われているときはないということです。これほど、憲法が辱められ、自らつくった法を 踏みにじる政府を認めることは、司法そのものの崩壊を意味します。よって、正しい当然の判断 が行われることを、心より期待いたします。
   以上

意見陳述書

原告 今川 治  

私の生まれは、京都府を縦断する国道9号線沿いの福知山市の小さな村です。 生まれたのは1954年で昭和29年でした。その時小さな家には祖父、祖母、父、母と私そし て父の兄の家族4人が同居いました。父の兄家族は、中国からの引き揚げ者でした。父は8人兄 弟の末っ子でした。その内男子は5名で、又別の父の兄も中国から引き揚げ東京に住んでいまし た。 今川家の墓は、近くの山の中腹にあり、星の付いた一際大きく高い墓石は、戦死した父の兄の 墓碑でした。父も志願して、富士の裾野で「敗戦」を迎えたと聞かされました。又母の実家は、 隣村で祖母も叔父も戦争にいっていたそうです。
福知山には、陸上自衛隊の基地・演習場があり、私が小学生の頃には土埃を上げてはしるトラ ックや戦車を見た事があるし、真新しい国道9号線がアスァルト舗装された時に、キャタピラの 跡を刻んでいった戦車の事が忘れられません。 幼い子供心に戦争の話で、親戚の叔父から聞いた話で、原爆投下直後広島に入り、腕の皮膚が 垂れ下がり爪にかかったままに歩く被爆した人の話を聞いた時背筋が凍えました。
戦争について、真剣に考え始めたのは20年前労働組合で沖縄を訪問したときに、読谷村で「 つい最近になって古老が打ち明けてくれた」と鎌で枝を切って道案内してくれた村の青年に連れ られて、ガマにはいり懐中電池を消し、真っ暗な中で話された集団自決の話でした。そして、私 たち訪問団が摩文仁の丘を訪問したとき反戦地主の方から、「あなたたちも、あなたたちの足元 の戦争に反対してほしい。」と語られました。 それらを聞いた若い郵政青年が、自転車で被爆地ヒロシマを自転車で訪問するピースサイクル が生まれ現在も続いております。ピースサイクルは、全国に広がり北海道から沖縄そして日本軍 の侵略の爪跡を訪ね、中国・韓国・マレーシアへ訪問・交流しています。
私もピースサイクル2年目から参加し、8,6ヒロシマ・8,9ナガサキを訪問し色々な方に 戦争・被爆体験を聞きました。そして、軍都広島・長崎であった事を知りました。中国も2度労 働組合で訪問し、天皇の軍隊の正体を知る事が出来ました。国内においては、差別構造を利用し ての「爆弾三勇士」、そして海外では『八紘一宇』と称して侵略軍として「三光作戦」「性奴隷 」「731部隊」と民族排外を天皇の名で平気で行っていった事を知りました。そして、無責任 な「命令と服従」に安住する日本人が作られていきました。それは今も全く変わっていないと確 信します。  
  私は「自分の足もと」の取り組みとして、11年前から、私の田舎の近くにある京都府・大江 山ニッケル鉱山での日本軍と日本冶金がおこなった、蛮行を市民の手で明らかにしていこうと仲 間と共に自転車で走り始めました。 大江山鉱山では、強制連行された中国人、そして朝鮮人、連合軍捕虜、日本人の囚人が強制労 働させられていました。現在、大阪高裁にて国を相手に中国の人達が裁判で謝罪を求めています 。日本国内外のアジアの人たちに、日本人は日本は真の謝罪「あのような戦争は二度とくり返さ ない」と誓ったのではなかったか。
そして、岸壁の母で有名な京都府・舞鶴にも訪問しています。敗戦直後に謎の爆発事故を起こ した「浮島丸」の慰霊碑があります。しかし、「平和の願いの涙の溢れる」この舞鶴湾では、近 年において海上自衛隊の基地が年々軍事増強されています。海上自衛艦イージス艦の、母港化、空母を守るヘリコプター基地建設、大型補給艦の配備、そして現在建造中との「軽空母」の配備 予定、これらの近代兵器群を見るたびに「これは単に人殺しの道具ではなく、人々が生活する町 を村を破壊し、そこに暮らす多くの民を大量殺戮する。人が人として生きていけなくする社会破 壊のための機械兵器である。」と実感するのです。
今、イラクに派遣さけれている日本人兵士は、「人道支援」の名目で、銃を持たされている。 その銃口を誰に向けるのですか? イラクの人たちが、あなたの家族や友人や知人に危害をくわえましたか? 泣いても、名を呼んでも応えない、そんな遠くに出かけて、いったい誰のために、何をしようと しているのですか? 一体誰のために? 日本社会に決して平和すらももたらさない、このような派遣は、理不尽であり、道理にすら合 致しない。この様な事が、国の予算いわゆる「民衆の血税」で行われるのは、政治家が60年前 の「敗戦と反省」を自覚していない証拠です。 「憲法9条」こそが、アジアの人々への日本人の決意表明であります。 それすらも今政治家は忘れようとしている、国民と民衆を騙して、新たな戦争に駆り出そうとし ている、この流れの先には「徴兵制」が控えていると考えます。
かつて赤紙という「招集令状」で、社会人としての全てを投げ捨て「人殺し」と化す、その「 赤紙」をかつてのの逓信労働者が配らされていました。
今私は郵便局で働き思います、「決して赤紙は配らない」と。 そんな社会を造ってはならない。 私は、この決意で原告として、この不正義・不条理の派遣を一刻も早く止めたいと思います。     
以上